徴兵と優しさ
徴兵の封筒が届いてから一ヶ月が経過した。
その間、俺の身の回りには大きな変化ばかりが起こった。
まず魔竜国には無かった将軍制度が産まれた。
将軍は陛下の魔竜軍を代理に行使できるという事実上の支配者になった。
将軍は三人。
ブディ閣下、ゾフィー閣下、ミサキ閣下。
ブディ閣下は策略などの作戦全般を指揮する参謀の役目をしている。
ミサキ閣下は、名前からして俺と同じ日本人らしいが、どの様に動いているのか分からない。
ゾフィー閣下は、バーニック陛下と同じだけの戦闘能力を有すると話していた。
つまり魔王が二人も居ると同意義であってそれだけの戦力を持っている。
更に魔竜軍としての練度や個人の戦力は、最強と言われていた獣族を遥かに凌ぐ境地に達している。
だから、今までは魔皇国の軍関係も筆頭に考えられていただけあって大きな大打撃が魔皇帝に与えられたらしい。
まさに水面下の戦いを何十年と行っていたと考えると凄まじい知能を持った策略家が居るに違いない。
今思えばこの為に差別を無くす活動をして、大義名分を作っていたのかと思うとゾッとする。
「塹壕部隊! まだ作り終わっていないのか! もう半月後には開戦になるのだぞ!」
「はっ!」
「返事する元気があるのならば三倍手を動かせノロマども!」
シュンスケは塹壕部隊に配属させられた。
この部隊は戦地になる場所に魔法を避ける為や移動手段として使われる溝を作る大切な部隊であり、使い棄てとも言われている。
もし魔皇国にこの場所が見つかったら一番に粉砕されるだろう。
魔皇帝が使う魔法には都市を崩壊させるだけの極大な一撃を持つ物もある。
しかも、魔王総力戦になると考えられているこの一戦はまさに全魔界戦争。
だからこそ、このような場所は真っ先に潰される可能性がある。
一応、幻覚魔法などで隠蔽はされているが、安心して土を掘れる訳ではない。
いつ魔皇国に殺されるか分からない緊迫した状態での塹壕作りをもう半月はしている。
中には精神病に罹ってしまい倒れた者も居たが、ここは日本ではない異世界だからか、次の日には魔法を掛けられ強引に治されて出兵している。
ここは地獄になっていた。
★★★★★
朝六時に起きて七時には塹壕作りをしていた。それから十二時まで作業を続けて、今は気持ち程度しかないお昼休みが終わった所。
これから実技に入る。
俺達は、魔法の授業を対人戦、及び魔族対策を行う。
その際にどうやって一撃で殺すのか、それとも四肢を攻撃して戦闘不能にするのか、捕虜はどのくらい必要になるのか、などなど講義を受けてから実技で身体に染み込ませる。
「シュンスケ、魔法の練度が低いぞ! 貴様はそれでも竜人か!」
俺に怒号が飛ぶ。
人間の俺にとって魔法は難しすぎる。
そもそも魔法は、生まれ持った魔力を使うから使える。けれども、日本生まれの俺にはその器官とも言える物が無い。
「もっと集中してすぐさま発動しろ! 火球くらい撃てないと死ぬぞ!」
「「はっ!」」
どうにか神経をすり減らして火魔法・火球に成功する。しかし、他の者に比べると弱くて仕方ない。
「貴様は赤子からやり直せ!」
教官の掌が俺の頬にぶつかる。
容赦のない痛みに頬が切れた。
この様な暴力は常にある。
軍人だからなのか、どうなのかは分からない。
しかし、このくらいの暴力なら……差別されてきた日常に比べれば痛くない。
「申し訳ありません将官殿!」
「返事する余裕があるなら集中しろ!」
「はっ!」
この実技が終わったのは、五時間後だった。
★★★★★
次の日の朝。
仲間が一人死んだ。
自殺だった。
決して逃げられない環境に限界を感じてしまい、逃げる様に死んでしまった。
「……くそ! どうしてだ!」
将官の声が響く。
俺は、将官を勘違いしていた。
死んだ仲間を思い涙を流していた。
ならば、あんなにもキツイ訓練をしなければ良いと思ったが、そうもいかない。
これは王命だ。
王命に従わないとなれば反逆罪で死刑になる。
だから、将官も軍に慣れていない若者だろうが厳しくしなければいけない。
皆が強制されていた。
この場から逃げたくても逃げられない。
逃げるには自死しかない。
そんな極限状態の中、将官はひっそりと簡素的な葬式を行なった。
現状、葬式は家族に遺体が届けられて初めて行われる。だから、これは非合法とも言えた。
けれども、将官は一時的にも自分が教えた生徒としてではなく、一人の竜人族として生徒を冥界に送りたいと考えて葬式を行なったらしい。
何故過去形なのかというと俺達には終わってから教えられた。
流石の独断に何人もの竜人が怒り、声を荒げたが将官は認めなかった。
翌日になれば分かると教えられてその日の授業が終わった。
★★★★★
翌日、将官は粛清された。
王命に従わない反逆者として死刑されて、新しい将官が俺たちの指導に入った。




