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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
祖国と帰ってきた姫君
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始まり

今日から第3章です。

面白ければ評価、ブクマなどぜひ


 丘の上にポツンとある家で″俺″は目を覚ました。

 風に煽られて家が揺れる。


 その揺れが完全に目を覚ましてくれて、いつもの朝支度を終わらせた。



「薪割りするか」



 俺は家の外に出て木を切る。

 家事用、風呂用、そして魔法研究用の薪だ。


 決められた角度に決められた斧の振り方。

 そうすれば厳格に決まった薪が作られる。

 ダメだったやつは家用に回して形が綺麗に揃ったのを魔法用に回す。


 これを覚えるのに三年は掛かった。

 最初はとても難しくて母さんの真似でしかなかった。

 薪割りくらい出来ないと母さんに拾って貰った意味がない。そんな言葉を俺は漏らした。


 母さんは俺に「そんなの出来なくても捨てない」と怖い声で優しく言ってくれる。



「だからって甘えられないよな」



 少しでも恩返しをしたいから薪割りを続けてきた。

 だから、今では完璧に出来るようになっていた。



「ふぅー今日はこんなもんだな」



 俺は一通り必要になる薪を作り出すと家に戻る。

 すると、家からいい匂いがしてきた。



「ただいま!」


「お帰りなさい、朝から頑張って偉いよ、シュンスケ」


「俺にはこれくらいしか出来ないから当たり前だよ母さん」


「全く卑屈な所だけ似ちゃってねえ。さあ朝食にするよ」



 俺は母さんが用意してくれた朝食を見る。

 今日は、パン、キャベツのスープ、ゆで卵だった。

 パンにはバターが塗られていて俺の大好物になっていた。



「ありがとう母さん」


「急にどうしたんだい」


「いや、お礼を言っとこうと思ってさ」


「はいはい、こちらもありがとうよ」



 そう言うと母さんは祈りを捧げる。



「竜の名において守護を、我ら民衆に慈悲を、今日も栄光をお見せくださりありがとうございます。いただきます」


「いただきます」



 祈りは魔竜城がある方向を見ながらするのが常識。

 これは俺が異世界に飛ばされてきてから教わった一つ。


 何度も考える事がある。

 あの日、人界から抜け出してここまで走らなかったら。

 あのまま男の言うことを聞いていたら今頃、どんな人生になっていたのか。


 もし母さんが俺を助けてくれなかったら。


 体験していない”もしかして”を考えてしまって嫌な気分になる。



 けれども、今は美味しい朝食が出迎えてくれる。

 それだけで俺は安心感を得る事が出来た。



「シュンスケ、まずいの?」


「あ、いや、そんな事ないよ母さん! ちょっと考え事してただけ!」


「そう、それなら冷めないうちに食べなさい」



 軽く注意されてから急いで食べ始める。

 その時に軽く詰まらせて咳をすると、呆れながら水を出してくれた。



「ごちそう様でした! じゃあ街に行ってくるから!」


「わかったわよ、お昼は?」


「どうせだから食べてくる! 夕暮れには戻るから!」


「それなら空き瓶二つに神秘の布、他にも洗礼された板を買ってきてくれ」



 母さんはそう言うと俺に硬貨の入った布袋を渡した。



「オッケー! じゃあ行ってくる!」


「また変な言葉を……気をつけておくれよ」



 母さんに見送られて俺は外に出る。

 すぐさま魔術を起動させた。



「足は風となり、体は羽毛の如く軽くなる——【強化魔術・俊足(ラビットフット)】」



 丘を駆け抜けて走っていく。

 魔術のおかげで生身よりも圧倒的な速さを持って進めるが、魔力の現象に伴って遅くなり出した。


 そして切れてしまったが、何とか市街地まで辿り着けた。



 活気のいい市街地は、賑やかな声に包まれている。

 それも魔竜王バーニック陛下が掲げた「全ての種族に平等」という王命があるお陰だった。


 中には半魔を嫌って差別をしていた魔族もいるが王命が有る限り昔のような扱いは出来ない。

 何よりも人間族の俺ですら迎え入れてくれるこの街は、今まで他の魔国では差別的な扱いを受けてきたがここでは受けない。



 だから、シュンスケの姿を見ても何も言わない——という訳ではない。

 現実はそこまで甘くない。


 まだ母さんに出会う前に魔竜国は差別の無い国と聞いて喜んで来たが、衛兵が見ていない場所で泥や生ゴミなど色んな物を投げつけられた。


 結局、見えない所では平気で差別は行わられる。

 だから、俺は母さんとの約束でこう決めた。



 竜人族と偽る。



 竜人族には額にツノが生えていたり、鱗が出来ていたりしている。

 鱗だけならば肌を隠せば分からない。ツノは生まれて持っていない者もいるのだから不思議に思われない。



 だから俺は、母さんとの平和を守るために人間族を捨てた。



 ★★★★★



 母さんに言われたおつかいを終わらせた俺は、市街地を出ようとした時に魔竜兵達の軍靴の音が響いた。



「王命である! 繰り返すこれは王命である!」



 俺はすぐさま魔竜兵の方を見た。

 すると、大声で王令が言われた。



「魔竜国は、魔皇国が行う憎っくき行動を征伐する為、聖戦を行う!」



 魔皇国との戦争。

 その言葉を飲み込むまで随分と時間が掛かったのは俺だけじゃなかった。



「な、なんでなんだ」



 俺の言葉を聞いた近くの魔竜兵が睨みながら声を荒げた。



「陛下のお言葉を疑うのかお前!」


「い、いえ、滅相もございません!」


「ならば従え! 今まで貴様らは陛下の威光を浴びるだけのグズだったのだ! それを今すぐ返せというのではなく、これからの聖戦で返せというだけだ! 分かったか!」


「は、はい!」



 俺は同意の声を発してすぐさまその場から逃げるように走った。

 市街地の門を抜けると【強化魔術・俊足(ラビットフット)】を発動して家に戻る。


 慌てたまま母さんに話を聞こうと扉を開けると——。



「ど、どうしたんだその指」



 指が血だらけになっていた。

 誰かに切られた様な切り口に俺の頭が怒りに染まりそうになった時、母さんは否定した。



「ご、ごめんね。皿を落としてしまって拾うとしたら切っちゃって」



 その言葉を聞いて下を向くと割れた皿が見える。変な勘繰りをしてしまい、恥ずかしく思う。



「どうしたんだい、皿を割るだなんて」



 いつもの母さんならばそんなミスをする筈がない。

 俺は気付いていたが気がつかないフリをして理由を聞いた。



「こ、この手紙がね……」



 浮かない顔をしていた。

 手紙で王命を知らされたのだろうと思い、受け取って読み出す。


 やはり先程、市街地で聞かされた内容が長ったらしく書かれている。

 もはや過ちとしか思えない選択に長年住んでいる母さんは国に失望したのだろう。

 そう思いながら最後まで読むと、一文で覆された。



「臨時召集令状……右の内容に受諾し三日以内に届け出をせよ」



 この内容を俺は知っていた。

 日本人だから、歴史で学んだから俺は知っていたんだ。



「わ、私は……」



 母さんの泣き声が聞こえてくる。

 ただ俺は、徴兵された事実を受け止めきれず呆然と立っていた。

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