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幕間5 策略


 アシュバは話を聞いて絶句していた。



「まさかここまで人類に貶められていたとは思いませんでした」


 オーガの生まれ持っている膂力の高さは奴隷としての機能が抜群となったらしい。


 そこで序列九位の賢者がオーガの里を滅ぼして乱獲し始めた。

 しかし、魔術が劇的な進化を果たしてから必要の無くなったオーガは殺処分になった。


 そのため、九割は死んでしまい、生き残ったオーガもどこで何をしているのか分からない。



「それでポルクはここにやってきたと」



 何故か生き残ってしまったポルクは、こうやって森の奥底で怯える様に生き始めた。


 最初は、共存するために頑張ろうと思っていたが、森の実権を手にしていたトロールを一撃で倒してしまってから変わったらしい。


 何でもトロール達が盛り上げ過ぎてしまった。そのせいで貢物として森の動物が激減。遂にはナーガの里を襲って食料の略奪が始まった。


 最終的にはそれでも食料の底が見え出したからナーガ自体を食べ出した。


 魔族同士ならば少なくない話だが、共食いをしないオーガからしたら恐怖だったが、威厳を保つために言えなかった。


 その結果が、森の衰退であった。



「王者ガソレデハナ」


「誠にそうですね」



 ドゥクスとガビーの声にポルクは青ざめた顔でアシュバを見てきた。

 この二人は、王者思考が強く中でもソフィアを圧倒的に崇拝している。


 つまりこの場合。



「我ガ主ナラバ供物ヲ分ケ与エテ下サル。小僧ハ覇者トシテノ自覚ガ足リテイナイヨウダ」


「全くその通りです。そもそもオーガなど関係なく逃げてくるという思考が間違っています。戦争から逃げる時は、次こそ勝つという算段がある時だけです。命の使い方を分かっていない」



 ドスドスと言葉の刃が突き刺さる。

 あまりにも可哀想な光景だが、アシュバにしてやれる事は無い。



「ソレデ小僧ハドウスルノダ」



 このどうするには沢山の意味合いが隠れている。

 この場を離れて何処か別の地に行くのか、それともこのまま森に引きこもっているのか。



「俺は……できることなら」



 見た目に反して声が小さ過ぎる。

 その声の小ささにイラついたのかガビーが声を張り上げた。



「声が小さい! しっかり言え!」


「は、はい! 俺はドゥクス様に着いていきたいです!」



 ガビーの怒声にやられながらも震えながら声を張っていた。そのせいで変な声になっていたが、仕方ないとアシュバは思う。



「……何故ダ」



 ドゥクスの声が腹に響く。

 これほど重たい声で疑問を問われた事はアシュバには無い。



「……」



 当然、ポルクも固まってしまった。

 かつての王にここまで響く声で言われては何もできない。


 完全に固まってしまったのに痺れを切らしてガビーが動こうとした時、ドゥクスがこっそりと止めていた。


 萎縮された状態でも強制的な発言ではなく、本意をしっかりと聞こうとする姿勢。まさに王者だった。



「……俺、ここで死ぬと思っていたんです。何もかもから逃げて、逃げ延びて……何も出来ないまま、人間の恐怖に負けて死ぬと思ってました」



 声は震えている。

 けれども、ポルクからは懸命にドゥクスに想いを伝えようという意思が聞こえてくる。



「けれど……ドゥクス様の変わらない意思を見て気がついたんです! ここで折れちゃいけないって!」



 大きな図体が立ち上がった。

 ポルクの目は少年の様な輝きを持っている。


 そう言えばポルクの精神年齢はどのくらいなのだろうか。



「——ソレデ我々ト行キタイト」


「はい!」



 このまま丸く収まる。

 そう思った時、ドゥクスから殺気が放たれた。

 明確な殺気は無差別に放たれていて森の中に隠れていたナーガやトロールの逃げる足音が聞こえてきた。



「オ前ハ、我ガ庇護下ニ入リタイダケデハ無イノカ」



 ドゥクスの言葉だけでポルクは下がってしまった。

 唐突な殺気に怖気付いてしまったが、アシュバには分かる。



「……お、俺には忘れてた……族長を継ぐという夢があるんです! だ、だから、……」



 ポルクが下がってしまった足を勢いよく前に出てきた。それは止まらずドゥクスの目の前で歩みを止めなかった。



「ココマデ逃ゲテ来タ臆病者ガカ?」


「……また人間を見たら逃げるかもしれません」



 言葉に淀みを感じない。

 アシュバはこの光景を目に焼き付けてソフィアに伝えようと懸命に眼差しを送った。



「で、でも! ここで森に逃げたらまた後悔します! そ、そのくらいなら……」



 死んだほうがマシ。

 そう言おうとしたのだろうが、言い切れない。

 何故ならば逃げてきたのは間違っていない。

 ドゥクスが居るからこの場を出る機会くらいにしか思っていないのかもしれない。



 だから、言い切れない。



「オ前ノ決意ハ、ソノ程度カ」



 ドゥクスはため息混じりに言い放った。

 見抜かれてしまった。


 ポルクはこのまま森に取り残される。

 生まれ持った力だけで小さな森を無理やり従えて。

 何も生まず、何も出来ない不自由な生活を暴力に任せて送る日々。


 そう連想させるだけの絶望に満ちた顔をしている。



「村長、頼マレタノハ森ノ解決ダッタナ」


「は、はぃ!」



 唐突に名前を呼ばれて肩を驚かせた村長がビクつきながら返事をした。



「ナラバ、ガビー。コノ臆病者ヲ」



 殺セ。


 ドゥクスは確実に聞こえる声で言い放った。

 村長との約束を優先する為にポルクを殺す決断した。



 村長が何かを言おうとしたがドゥクスを見て何も言えないまま手だけが不器用に動いている。


 ポルクが恐怖で尻餅をついた時、根がポルクを縛り上げた。

 ポルクの目の前に立ったガビーが根で作られた拳を見せ付ける。



「この拳はな、父上の牙よりも痛むぞ。しかも、そう簡単には死ねない。何時間も痛み続けて死ぬ」



 態々これからどうなるか教えてから拳に力を込める。そして腰を回して姿勢を落とす。



「い、いやだ……し、死にたく無い」


「他のオーガもそう思っただろう。そしこの森に住んでいたトロール、ナーガ、ゴブリンもその想いを抱きながら殺された。今更何を言うんだ弱虫め」



 ガビーの拳が向かう。

 命乞いも何も関係ない拳。

 こんな哀れな終わり方をしていいのか。



「待って下さい!」



 気がついた時には間に入っていた。

 ガビーの拳がアシュバの目の前で止まる。



「そこをどけ。このオーガは、森の侵略者だ」


「——分かってますよ! ポルクがこの森を壊したのを!」



 アシュバは喉が張り裂けそうになる程、声を張り上げた。



「でも! それでもこんな終わり方は無いでしょう! オーガを殺せばそれで終わりなのですか! 村長の願いはこの森を助けてです! そこにオーガの殺害は入ってません!」


「だが! このオーガが生き残っていればまた生態系を壊すだろ!」


「——そうです。だから、私が責任を持ちます! 私の部下にしますので、二人は口出しをしないでください!」


「何を勝手なことを!」



 ガビーがアシュバの胸ぐらを掴んだが、アシュバの瞳は揺らがない。

 何も言わず、ただ睨みつけるようにガビーの瞳を見続けると離された。



「……勝手にしろ!」


「そうさせて貰います」



 アシュバはポルクの目の前に立って手を差し伸ばす。



「貴方は今日から私の配下です。どうか、宜しくお願いしますね」


「……は、はい!」



 手を握られたと思った瞬間にポルクは涙を流していた。



 ★★★★★



「これで良かったんですよねドゥクス」


「アア、ソウダトモ。ガビーニハ嫌ナ想イヲサセテシマッタナ」


「いいんですよ父上。私に出来るのはこの位です」


「アリガトウガビー。全ク王トハ民ヲ助ケルガ……」


「配下となれば話は変わります。配下を助けられるのはそれこそソフィア様だけですよ」


「アア、ソウダナ。我ノ配下ヲ頼ム」


「ええ! 任せてください! けれども、下克上された時には作戦を取ってください」



 こうして森を救済しながら新たな戦力を手にした一行は魔皇国イシュナムに向かった。

明日から第3章が始まります!

良かったらまた明日!

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