幕間2 調査
アシュバは森の状況を聞かされて絶句していた。
「トロール、ナーガだなんてよくゴブリンが生きてましたね」
魔族の中でも魔物に近い三者。その中でも圧倒的にゴブリンは弱い。むしろ捕食者とされる側。もちろん、ゴブリンがされる側だ。
「本当は、豊かな森だったので何も起こりませんでしたが……」
ある日、突然トロールがナーガを捕食し始めた。そんな事は今まで無かったのに唐突だったらしい。
確かにトロールは雑食性が高く、飢餓が続けば共食いもする。
だが、それは森全体が飢餓に包まれた時だけであり、森が飢餓状態になるほど枯れるなんて事は起こっていない。
けれども、現実の森は枯れるどころか豊かになり続けている。
どうしてトロールがナーガを捕食し始めてしまったのか。そこだけでも疑問に思った時、村長が話を続けた。
「この村も今の二倍は広かったです……しかし、トロール、それにナーガもゴブリンを捕食し始めたせいで……」
ゴブリンは完全に捕食される側になってしまった。
しかも、たった一年もしないでこうなってしまったらしい。
何がどうしてこうなったのかゴブリン達は考えに考え出した時、一つのことに辿り着いた。
「動物たちの気配が少ないですね」
アシュバの言葉に村長が驚いていた。
数少ない情報からそこまで導いたアシュバに村長は震えていた。
「まさにそうなんです!
どうしてか動物たちが居なくなってしまいました……肉が手に入らない極限状態が続いて同族狩りになりました」
雑食性が高いからこその苦悩があった。
食べようと思えばネズミでも虫でも食べられるがそれ自体が居なくなると栄養面が偏ってしまう。
宮廷で学んでいた知識によると肉を食べられなくなると栄養が偏って死んでしまう事例もある。
何よりも肉ばかり食べる種族だと精神面にも悪影響を与える。
ネズミすら居なくなってしまった森は、明らかにおかしい。
何が原因なのか分からない時に調査を始めるべきでは無い。
「どうか……この森を助けてください」
漠然とした願いだが、ここまで悲惨ならば助けようと思ってしまった。
「分かりました。調査を始めますが、一時的な休憩所としてこの場をお借りしますが宜しいでしょうか」
「……っもちろんです!」
村長の返事を聞いて満足したアシュバは、黙って聞いていたガビーに話を聞きに行く。
「森の化身として如何ですか?」
「ここは確かに傷付いているけども、別の場所で森が栄えているみたい」
「つまり——」
別の場所に動物が集まっている。
ならば、その場所に急行して原因解明後、すぐソフィアの元に行くべきだろう。
見捨てない意思を持っていてもソフィアとの約束も優先しなければいけない。
様々な葛藤はあるが、このまま突き進むしかないと主人を思い浮かべながら決心する。
「行きましょう!」
「そう言うと思っていた」
ガビーがアシュバの心はお見通しだという顔をしながら【権能】を唱えた。
「【権能解放・獣変幻!】」
ガビーの身体が変わって行く。
気がついた時にはドゥクスよりも一回り小さな魔猪に変わった。
それでも充分に大きなガビーを見てアシュバは呆気にとられてしまう。
「これが獣族ですか!」
アシュバは感動していた。
人型のガビーが目の前で獣に変わった。
この姿こそ本来の姿らしいのだが、こうも目の前で変わると感動すらある。
「ゔぉ……ズーズン様で見たでしょ」
「そういえばそうでしたね」
ズーズンを獣族だけども、魔獣として認識していたから驚いたのを今思い出した。
あの時は、【闇の領域】の顕現など様々な物が起こりすぎてどうしていいのか分からなかったから、記憶を消していた。
「ズーズン様の人化と私のは違うけどね」
「何が違うのですか」
「それは解決してから」
そう言ったガビーが器用に牙を使ってアシュバの襟を引っ掛けた。
やはりこうやって運ばれるのかと思った時、ドゥクスの声が聞こえてくる。
「コッチハ任セテオケ」
「はい、父上!」
ドゥクスが広場の真ん中にドカリと座ると魔猪たちがゴブリンを取り囲むように陣形を作り始めた。
「向こうは父上に任せましょう」
「そうですね、では出発で……っ!」
アシュバが言い切る前にガビーが走り出した。
ガビーの速度は確かに速い。
普通の馬車に比べるのも悪くなってしまうほどに速いのだが、ズーズンとは圧倒的な差がある。
「平気か?」
「ええ、ズーズンに比べれば遅いので平気です」
その言葉を言った瞬間にガビーが立ち止まる。
「どうかしたのですか?」
「今、ズーズン様に比べればと言ったか?」
アシュバはまずい! と心中で警報が鳴り響く。
獣族は初代であるズーズンを心底崇拝している。
つまりズーズンと比べるというのは、そんな御方と比べるだなんて不敬だ! と言われて串刺しになるかもしれない。
「い、いえ! 比べるというよりも体験しまして」
「体験! ズーズン様と走ったのか!」
もしかして走るだけでもいけなかったのか、とアシュバはある種諦めた。
もう白状するしかないと思い立って話し始めようとした時、ガビーが声を上げた。
「そんな体験をしていたなんて羨ましい! ズーズン様と言えば疾風そのもの! 決して並行で走って頂けるなんて無いのに!」
純粋に羨ましがっていた。
けれども、並行で走るくらいならば向こうは速度を合わせてくれていた。
「そうなのですか? 私には分かりかねます」
「そんな! ズーズン様と走れるなら私は全てを捧げても……ソフィア様関連以外ならなんでも」
サラッと言い換えたガビーにアシュバは「そうですか」とため息交じりに答える。
そう話しているうちに目的地に辿り着いてしまった。




