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灯火


 バルバトが居なくなってからすぐにノームが倒れた。


 ソフィアは慌てて駆け寄ると眠っていた。


 ノームは疲労で眠ってしまった。

 そしてソフィア自身も初めての【竜装】を使ったせいで想像よりも疲れていたと初めて知った。


 今すぐにズーズンの元に行きたいが、どこに行けば合流できるのか分からないソフィアはノームが起きるまで休憩する事にした。


 何よりも久しぶりの地上——剣聖と戦っていた時は余裕がない——は、炎竜との戦いを少しだけでも癒してくれるものがあると信じてノームを背負いながら意味もなく歩いてみた。


 ふと目に止まった。

 そのままの自然から生まれた恵み。

 それだけでも輝いて見える。


 急激に環境が変わり続けたせいで疲れていた心身ともに風景がもたらす情景が溶け込む。


 何よりもソフィアを安らかな気持ちにさせてくれたのは、夜空の綺麗さだった。


 今までは気にしていなかった夜空がここまで輝いているとは思っていなかった。


 あの真っ黒な宙に輝いている光。

 あの光はなんなのだろうか。

 そうソフィアは思いながらアシュバに教えてもらった焚き火を作っていく。


 そして火をつけた。


 火は炎竜が作り出した破壊の炎とは違い、ソフィアに安らかな微笑みを向けてくれている気がした。


 ノームが起きる前にソフィアは、獣を狩ってきて捌いて焼く。

 偶然いた野ウサギを捕らえられたのは森暮らしが長かったからだろう。


 些細な行動ですら宮廷暮らしだった姫を忘れさせている。


 少しだけ考えてしまいそうになるが、目の前の焚き火を見て夜空を見るとどうでもよく感じてしまう。



「……たまにはこういうのもいいね」



 ボソッと呟いた独り言。

 その時、声が返ってきた。



「良いものだよね」



 目を覚ましたノームがソフィアに言葉を返す。



「そうだね……ノーム、身体はどお?」


「うん! 大丈夫だよ! それよりもこれは?」



 ノームがソフィアの焼いていた串焼きに指を向けて首を傾ける。

 ソフィアが何をしていたのか気になって仕方ないノームにソフィアは答えた。



「ノームが起きた時にご飯でもってね」


「ソフィアはそんな事も出来るんだ」



 まだ眠気があるのか欠伸をしながらノームは話していた。

 現状を理解できていないのだろうとソフィアは思いながら焼いた肉を差し出す。



「うち、こういうの初めて」


「それならきっと楽しいと思うよ」



 ソフィアが差し出した串焼きを受け取るとノームは食べ出した。

 なんだか、いつもに比べてこぢんまりしているノームが目を覚ましたように肉に食らいつき始めた。



「……っ!」



 野生感溢れる肉にノームは目を見開いた。

 そして更に食らいつく。


 ソフィアが想像していたのと真逆の反応で驚いてしまうが、美味しそうに食べているから良い。



「気に入って貰えて良かった」


「うん! 何だか懐かしい味がする」



 そういえばノームは、森にある村で生まれたと水晶の映像で見た。

 ならば、記憶がない幼い時に野ウサギを食べていてもおかしくない。


 その深層心理に問いかけるような味わいをノームにもたらしたのかもしれない。


 そうソフィアが思っている時、ノームから言葉が溢れ出した。



「全部、無くなっちゃった」



 言葉に含まれた”全部”は、ノームが残したかった何もかも全て。

 思い出の城も、育った街も、最後の家族も。


 何もかもノームから奪った。


 奇しくもソフィアは同じ境遇。

 だから、ソフィアに出来る事があった。



「まだ残っているよ!」



 ノームを強引に抱き寄せてソフィアは跳んだ。

 突然の事に驚いたノームが、ソフィアに言葉を掛けてくる。



「どうしたのソフィア!」



 唐突過ぎて驚愕を通り越して怒鳴っているようにソフィアには聞こえた。


 ソフィアはノームの言葉を無視してどんどんと高度を上げていく。

 そしてこれ以上、上がれない場所まで来ると地上に光っている場所が見えた。



「ほら、あそこ!」



 ソフィアが指差した場所にノームは言葉を失っていた。

 ソフィアは【竜皇気】を発動した時から感じていた。



「ウォオオおおお!」



 光っている場所から遠吠えが聞こえてきた。

 ソフィアはすぐさま体勢を変えて、光っている場所に向かって急降下を始めた。


 そしてその場所に辿り着くとノームは泣き出してしまった。



「キャンキャンキャ!」



 ソフィアが降り立った瞬間に走って近寄ってくるズーズン。


 声が広がり出した。


 ノームが泣き出したのと同時に声が次々と上がり出した。



「ノーム様! ご無事で何よりです!」

「ノーム様だ!」

「良かった生きてて下さって!」



 生き残ったドワーフ達が駆け寄ってきた。

 ノームを労わる言葉やノームを賞賛する言葉が続く。


 そんな中、一人のお婆ちゃんがノームの前に立った。



「ムーエちゃん、私たちを助けてくれてありがとうね」



 食べ歩き街頭でウィンナーを売ってくれたお婆ちゃんだった。

 優しくノームの手を包み込んでくれる皺くちゃの手がソフィアには何よりも暖かく見える。


 そしてノームが死力を尽くして国を——国民を守ろうとした姿勢が伝わったらしい。

 あれだけ罵倒していた国民達がノームを賞賛している。


 都合が良いとも思えるが、何よりも国から秘匿され続けたノームが認められたという事実にソフィアは嬉しい。



「キャンキャン!」



 ソフィアにはズーズンがなんて言っているか分からない。けれども、今くらいは何を言いたいのか分かる。


 それだけノームを取り囲んでいた異常を思い、考えて、行動したからこそソフィアには痛いほど分かる。



「そうだね、ノームは誰よりも頑張って国を救ったんだね」



 ソフィアはズーズンをギュッと抱きしめてノームに向かって微笑んだ。

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