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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
第1章 囚われた魔王の娘
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暗黒宮の根元

 アシュバの手がボロボロになっていた。歴戦の戦いを思わせる傷がいくつも付いていた。と変な妄想を膨らませるソフィアは、薬草を数本ほど摘むんでアシュバに巻きつけていた。


 【回復魔法】を使えれば良いが、ソフィアは魔法が一つも使えない。アシュバがズーズンと喧嘩して生傷が増えていく度に自身の怠け癖のせいで学んでいなかった人生を悔やむ。



「本当にその犬を連れていくのですか」



 普通にしていても皺だらけの顔なのに更に眉間に皺を寄せて嫌そうな顔を浮かべている。

 それに対してズーズンはソフィアに抱きかかえられながら唸っていた。



「アシュバ、この子はズーズンって名前にしたの。犬って呼ばない。それにズーズンもメっ! でしょ? アシュバを嫌わないの」


「ソフィア様がそうおっしゃるのでしたら」


「クゥン……」



 二人とも納得してない声だったが主人が言うなら仕方なく従うという忠誠心をソフィアに見せてくれた。ソフィア的にはもう少し仲良くして欲しい気持ちもあるが今後に期待したい。



「けれども、これで良かったのかな」



 本音が小声で漏れた。

 このまま魔狼王を仲間にしても暗黒宮そのものであるゴガガに勝てるか分からない。

 そもそもどれ位の力を持っているか分からないゴガガを倒そうとするよりも、ここで魔狼王を始末した方が早い。それこそ今みたいに子犬の大きさのまま首を締めた方が——。


(そんな事できる訳がないよ……どうにかしてゴガガを倒す方向で考え直そう)


 ソフィアは、ズーズンを強く抱きしめて決意の方向を決めた。



「ねえアシュバ、ゴガガの所はわかる?」



 皆で生き残るにはゴガガを倒すしかない。それなら少しでも情報が無いと勝てない。

 短絡的な考えばかりのソフィアでも戦闘は情報戦という言葉くらいは知っている。逆を言えば言葉だけで手段は知らないが。



「分かりますよ。ガガも意図的にでしょうが道を残してますので……って行くとか言いませんよね?」


「ねえ、アシュバ。お願いがあるのだけども……」



 アシュバがため息を吐いた。

 ソフィアの瞳で全てを察知してくれたのか話し始めた。



「分かりました。けれども見るだけですよ? 何があっても攻撃してはいけませんよ」


「うん、ありがとうアシュバ!」



 両手を上げて喜ぶソフィアにアシュバはまた溜め息を吐いて「仕方ないですね」といった。



★★★★★



「は、速いぃぃいいい!」


「ソフィア様、助けてください! ソフィア様!」


「なにいいぃいぃいいいい!」



 黒炎狼よりもスリムで、魔狼王よりも小さな身体で疾走する。

 ソフィアはズーズンの背中に乗っていた。あまりの速さに身体が揺れてしまい言葉も揺れてしまう。【竜皇気】を纏っているおかげで風圧の影響を一切受けないがアシュバはそうもいかない。


 時速80キロメートルに達している速度で森の中を駆け抜ける。当然、魔馬車——一般的な馬車よりも安全度が高く早い馬車——などの安全装置が備わった設備は当然何もない。その為、野ざらしにされていると枝が眼前を素通りしていき、スリル満載の拷問器具になる。だが、アシュバはその比にならない危機に瀕していた。


 アシュバが居る場所は、ズーズンの口元だった。いや、正しくは首根っこを噛まれて移動している。

 ズーズンの気が少しでも緩めば歯が首を貫き血まみれ、そうでなくでもちょっとした振動で少しずつ歯が食い込む。


 更には眼前に来る枝や岩をズーズンはギリギリに避ける為、危険がとても多い。



「は、はやくついてくださいいいいいいい」



 アシュバの悲鳴が聞こえてきた。

 ソフィアもアシュバを背上に乗せようとしたがズーズンが身体を振るって逃げる。

 ソフィアと一緒に乗ってみるとずっと唸っており、一歩も動かなくなってしまった。


 そこでソフィアがズーズンに叱ると尻尾を垂らしながら優しく首根っこを噛んだ。アシュバも痛く無いと言った為にそのまま発進したのだが……。



「ま、まだですか!? まだ着かないのですか!?」


「え、なんて言ってるのぉおおお?」



 【竜皇気】を纏って聴力も強化されているがソフィアは聞こえないフリをしていた。何故ならば……。


(変な気配がする……多数の視線かな——だけども、敵意ではなくて怯え?)


 ソフィアの【竜皇気】は全てを向上させる。だからこそ、普段は鈍い第六感が訴えかけていた。

 多数の獣が魔狼王に恐れて遠目から見ている。その中でも一際、大きな獣が注視していて技量を見極めようとしているのもソフィアは見抜いた。



(この数は、魔猪王かな……ここで止まるのはいけないね)



 もしここで止まってしまったら縄張りのど真ん中になってしまう。そうなれば一番弱いアシュバを狙うのは目に見えて分かる。

 単体だけならばソフィアだけでも勝てる自信はあるが感じただけでも数百は超える個体数。

 守る自信がない為、アシュバには我慢して貰うしかない。



「ズーズン、もっと速度を上げられる?」



 ズーズンの耳元で言うと一気に速度が上がっていく。【竜皇気】を解けば一瞬で気を失ってしまいそうな速度に、ソフィアは【権能】の有難さをひしひしと感じている。またこれだけの速度を一瞬で出せるズーズンは本当に魔王の一席だと実感した。



 ★★★★★



 気が付いた時にはゴガガの根元までやってきていた。この場から見える景色は荒野と化した山に見える。



「アシュバ、アシュバ!」



 当然、気絶してしまったアシュバを揺さぶりながら叩いているソフィア。



「そ、ソフィア様、地面はどこですか」


「今踏んでるところだよ」



 目と頭がグルグル回っているアシュバにソフィアは優しく言っていた。

 アシュバはただ地面に座り込んで動かない安心感を得ていた。



「も、もう勘弁してくださいソフィア様……」


「考えておくね」



 ズーズンの機動力があれば端から端まで移動が可能になる。それでも魔族界屈指の速度で二時間以上は走行しなければいけない為、ゴガガの支配領域の大きさに度肝抜いた。


 こんな化け物を作り出した大賢者はどんな人間族なのだろうか——ソフィアは妄想を始めた。


 壮大な巨躯。それこそ天を貫くゴガガの幹よりも巨大な体をしており、一掴みで魔族の国を握り潰す。しかもそれだけでなく本質は魔術師なのだろう。人間族が使う【魔術】——魔族が使う【魔法】の別名——を開発した人物だから、脳味噌が三つあるに違いない。更には、同時に処理すだけの手や足がそれぞれ五本ずつ。


 まさに悪の化身である天使みたいな見た目だろう。



(……怖くなっちゃった。今日はズーズンと一緒に寝ようかな)



 寒くもないのに身振いを起こしたソフィアは子犬になったズーズンをぎゅっと抱きしめた。その際に顎を舐めてくる仕草が可愛くて仕方ない。

 このまま抱きしめて一日を終えてもいいかもしれないが、ソフィアには確認しなければいけない事がある。

 今、立っている地面は茶色の硬い土に見える。けれども、本当はゴガガの根が地下から隆起してきた姿だ。

 それならば今立っているのも感知してもおかしくない。なのに、アシュバが出発の時に言っていた。



(ゴガガにとって危険がなければ魔王ですら虫程度の認識……)



 どれだけ剛胆な存在なのだろうか。いや、ゴーレムだからこそ教えられていない物事に対処できないというニュアンスで話していた。



「——アシュバ、どうしてゴガガは魔王を無視するの?」



 ソフィアは、出発前に言わなかった点を聞いた。



「ゴガガは、幹よりも奥にあると言われている闇の領域に繋がる洞穴を守るのと魔皇帝の排除を最重要にしています。けれども——」


「魔皇帝の身代わりにアシュバがなったから意味はないって事?」



 ゆっくりと頷いて納得したソフィアは、ズーズンの頭を撫でながら続きを聞いている。



「そうです。洞穴を守る事に意識の全てを使っています……なので、ってソフィア様! 【竜皇気】を纏った状態で根を蹴ろうとしないでください!」



 ソフィアが足を高く上げて踏みつけようとしているとアシュバが慌てて止めた。



「え、反応するかなって」


「やめてください! もし攻撃とみなされたら空に広がる枝が襲ってきます! 太陽光を遮断する程の枝がですよ!? やめてください本当に!」



 アシュバが鬼気迫る顔で説得してきたのでソフィアは申し訳なさそうな顔でそっと数歩下がった。

 ソフィアも上にある葉を見て、あれが襲ってくるなら止めようと思う。

 そこからは足並みを慎重に揃えて——ズーズンは動かないようにソフィアに抱えられながら——歩いた。


 途中でアシュバがゴガガについて話し始めた。声色に少しばかりか憎しみが篭っているが、ソフィアは気にしないようにしていた。



「これだけの暗黒を作るとなると幹は、異様に高くなってます。それは遠目からでは霞んで見えないですが根元まで来ると姿形がはっきりと見えます」



 そう言われてから四十分程、歩いていたら幹が見えてきた。山といってもそこまで高くなく平坦に近い道のりだったからか疲れは少ない。とソフィアは考えていたが【竜皇気】のおかげで今の疲れが消えているだけだ。



「え……これを人間族が作ったの?」



 ソフィアは見上げながら言った。

 途方も無いくらいに巨大な幹は、ソフィアが何十人で手を繋いでも難しいくらいに太い。更に、幹の長さも異様に高く、ずっと見ていても先が見えない。

 ある幹の高さに達すると枝分かれが見えるが、そこからは一切を遮断する闇が広がっている。


 その闇の部分こそ太陽光を遮断する葉であり、この暗黒宮を作り出している枝の集合体。



「大賢者の別名は、知恵神です。神に知恵を与え、神に至った人間。その思考回路は、我ら魔族や人間族でも分かりません。けれども、今は亡き主神は言いました——」



 ——あいつが、魔族だったら世界が一日で滅んでいた……と。

次の更新は明日!

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― 新着の感想 ―
[一言] 非常に面白い!!!続きが楽しみです! 応援してます!! ずーずん!!!( ᷇࿀ ᷆ )
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