燃え広がる炎
ソフィアは目を瞑り、意識を集中させ【竜皇気】を全力で展開する。
身体の隅々まで意識が向かったと感じた瞬間、拳を放った。
拳を放つと風が巻き起こり、暴風が作り出される。
暴風の勢いに乗って身体に纏わり付いていた炎が巻き込まれていく。
そのおかげで肺に空気が戻った。
身体に空気による清々しさが元に戻ると痺れていた手足が次第に治り出す。
まさか完全耐性を持っていた筈なのにと不安に思いながら炎が纏わり付いていた部分を見ると何も焼かれていなかった。
ならば、あの手足の痺れや肌のピリつき具合など体調の不安定さが生まれたのはどうしてだろうか。
ソフィアには解決策が見つからない。
この一瞬に炎が飛び込んできた。
ソフィアを捕らえるように炎が網目状に変質されていく。
突発的に出て来た網は落下しているソフィアに向かって投げられている。
この状態を対処するには一つしかない。
「この!」
もう一度、本気で殴りつけた。
拳を空に向かって放つだけで暴風が生み出されていき竜の息吹となって炎の網を消しとばす。
その隙にソフィアは地面に降り立つ。
またしてもその瞬間を狙っていたのか炎矛が何本も掃射され始めた。
炎矛に囲まれたから真上を向いて翔び立って回避しようと思ったが、真上からは白い炎塊が叩き込まれる。
完全に逃げ場を失ったソフィアは、すぐさま回転するように蹴りつけた。
円形に叩き込まれていく蹴りによって炎矛は霧散していく。
そのまま拳を突き上げると白い炎と衝突し、激しい衝撃を撒き散らしながら炎を消し飛ばした。
「顎門も消すとは! これこそ魔王だ!」
バルバトの声だけが響く。
楽しげな声が鬱陶しいが、決定打を出せない。
このままジリ貧な戦いになってしまう可能性がある。
だからこそ、ソフィアは目を瞑り音にだけ集中した。
様々な音が聞こえてくる。
どこからソフィアを狙っているのか、どこから炎を飛ばして来ているのか。
どうやってソフィアを仕留めようとしているのか、目では分からないから聴覚に集中する。
ふつふつと炎が燃え上がる音が聞こえてくる。
その炎の音は、様々な場所から鳴っている。
あまりにも数が多い。
ソフィアには様々な音が聞こえてくるせいで正確な場所が分からない。
だが、これ以上、無駄になり得る戦いをしないようにしたい。
何よりもノームが心配になってしまう。
どうしても天使とノームでは力量差が出てしまう気がする。
そう思った時、地中から伸びてくる異質な存在に気が付いた。
すぐさまノームが戦っている街の方向を見ると七色に輝いた鉱石が飛び出していた。
そしてその中心には白に燃えている天使が閉じ込められている。次の瞬間、鉱石が砕け散った。
「ノーム、やったんだね」
ソフィアは、呟いた。
ノームが天使に勝てた。それだけでソフィアの中にホッとした情緒が出てくる。
その時だった。
天使が死んだのと同時に炎が地中を伝ってこちらに向かってくる。
炎が集まる場所は、崩れ始めていた王城だった。
ソフィアはすぐさま王城に向かう。
だが、辿り着いた時には遅かった。
王城から炎が吹き出しており、全てが溶けるように燃えている。
これほどの火力を今まで見たことがない。
そうソフィアが感じた時、炎の中心から声が聞こえて来た。
「やっと元に戻れたぜ。さあ第二ラウンドだ」
炎から出て来たのはバルバトだった。
しかし、その見た目は変わっており、白い炎の身体に竜を思わせる身体付き。
何よりも顔が竜そのものだった。
身体に纏わせていた白い炎がより複雑な動きをし始める。
まるで炎自身が意思を持っているような動きにソフィアは唾を飲み込んだ。
何よりもこれだけの距離を取っているのに熱さを感じる。長時間、ここに居れば汗を掻いてしまいそうな熱は持っている。
バルバトが手を広げると竜の顔が三つ生まれた。
どれも真っ白な炎によって作られた竜。
「【炎竜魔法・炎竜の顎門】」
詠唱と共にソフィアに向かって飛び込んでくる。
大口を開けた白い炎の竜三体に向かって拳を構えるとすぐに放った。
もちろん、本気で放った拳によって炎は、暴風に巻き込まれて散り散りになった。
これで終わりかと思ったが、霧散せず火の粉となったまま消えない。
その火の粉が次々と姿を変えていく。
今、まさに倒したばかりの竜の頭に変わった。
「これぞ炎竜だ! 燃える炎がある限り魔法は消えねえ!」
三体が火の粉の数だけ増える。
それだけで危険性は増す。
何よりもソフィアにとって先ほどよりも火力が上がっているせいで暑くて仕方ない。
今もドレスの下で汗を掻き出している。
こういった些細な環境の変化でも大局では大きく判断を変えてしまうかもしれない。
この大軍をかき消すほどの一撃を放たないといけない。
視界を埋め尽くす炎竜の顎門が襲い始めた。
一体一体が近づけばソフィアの視界を埋めてしまうほどに大きい。
だからこそ、ソフィアは一発一発をただ速くして瞬殺していかなければいけない。
だが、そうすれば圧倒的な速さで魔法が増えていき、ソフィアだけではなく地下王国に炎が巻き起こる。
それだけは避けなければいけないのだが、考えている程の余裕がない。
そこでソフィアは——。
全力で踏み込んだ。
ソフィアに踏み込まれた地面がヒビ割れて崩壊していく。
そのまま重心を前に傾けてソフィアは跳んだ。
ソフィアにぶつかった魔法は吹き飛ばされる。そのままソフィアは突き進むとバルバトの目の前で止まった。
「な、何が」
ソフィアの本気に付いてこれないバルバトに拳を構える。
「どれだけ増えても本体を潰せば!」
ソフィアは拳を握り締めてバルバトにぶつけた。




