決戦 剣聖
身体中を通った線は、外部から内部まで通過している。色濃く見えている線が次々とソフィアの内臓に向かい出した。
ソフィアは距離を取って様子見をしようとしたが、線が追跡して襲ってくる。どうしてもソフィアの内臓に達してしまう線に、ソフィアは覚悟を決めた。
取った距離分を詰めた。線が来るよりも剣聖を倒せば【絶技】が消えるかもしれない。だから、本気の拳を振るう。
刹那、地響きがした。
ソフィアの踏み込みではなくノームが【権能】による攻撃をしているのかもしれない。
「俺の勝ちだ!」
気を取られた瞬間にソフィアの内臓に達していた。線の色が見えた時には斬撃がドレスを撫でる。
もう皮膚まで不可視の剣が達していた。そのまま内臓を通過していき、斬撃がソフィアの内部に拡散され臓器をズダズダにした。
——と思われた。
ソフィアは、確かに内部を何かが通った気がしただけだった。意識していなければ気にも留めないくらいの力で何も思う所がない。
それはそうとして、本気で振りかぶった拳は、もう剣聖の顔面に達しようとしている。
だけども、このままではキグレの話を聞けないと分かっているソフィアは、足首を強引に捻って顔の横に拳を通らせた。更には力を拡散させてどうにか剣聖にはダメージを与えないように拳の波動を通過させる。
その代償として訓練場のほとんどが崩壊してしまった。同時にすぐさまノームの安否を確認する。
「もう離脱してたのね」
ノームはもう訓練場には居なかった。今頃は、ドワーフが居なくなった街で戦っているのだろう。
安堵したのと同時にソフィアは、剣聖に視線を動かす。
「ば、バケモノ」
剣聖は震えながらその場で尻餅をついた。
そこまでではないと思っているソフィアは、剣聖の胸ぐらを強引に掴んで睨みを効かせる。
「それでキグレは何者なの」
ソフィアの尋問が始まった。
★★★★★
ノームは、ソフィアと立ち位置を変えて天使の近くに出た。炎が飛び出してくると思ったが、何も来ない。
何が起こっているのかと視線を動かすと魔狼王が天使と炎の打ち合いをしていた。
魔狼王の黒炎は、どこか粘着質を思わせる厄介な代物に対して天使の炎は爆発を起こしている危険物そのものであった。
飛散した炎は、城に触れると燃え出す。思い出が詰まった城が燃え出してノームは、悲しみに涙が溢れそうになった。
しかし、この場を戦場に選んだからには当然覚悟していた。
城なら作り直せばいい。
家ならば建て直せばいい。
けれども、命は帰ってこない。どれだけ願おうが人災が無くなるまでは命は簡単に壊されてしまう。
もはやノームに思い出を残して居られる選択肢は無い。
溢れる炎を止めてくれているズーズンの隣に立った。
「ありがとうございます魔王陛下。うちは大丈夫ですので、作戦通り地上の護衛をお願いします」
ズーズンは返事をしないまま燃える城に突入していった。炎に対して耐性があるズーズンだからこそ設定された扉にした。そうでもしないと天使に作戦が気が付かれてしまう。
ノームは、呼吸を整えた。
大ガエルの姿から動きやすい人型に戻る。
人型でも【土龍ノーム】は使える。けれども、防御力が減ってしまう。
だけども、ソフィアの邪魔にならず天使を倒すには人型で、街に出るしかない。
「おや、魔王は逃げましたか」
「どうかな!」
ノームが飛び出した。
身体に【大地魔法・重力操作】を発動している。そのおかげで【権能】で付与される膂力よりも素早く動ける。
圧倒的な速度は、普段の数十倍に達するが天使は歪んだ笑みを浮かべて炎の壁を出現させた。
目の前に出された炎の壁に向けて突撃しようとしたが、数十メートル離れて居ても肌に伝わる熱の強さに重力を弱めて上がった。
そのまま重力操作しながら空中で浮遊し続けているノームは、炎の壁を見た。
炎の壁は詠唱していない魔法か、【権能】による【絶技】だろう。
ならば、もっと上の段階があると踏まえて……ノームは魔法を詠唱した。
「【大地魔法・地震!】」
炎の壁など関係ない地下からの攻撃に出た。天使を中心に揺れ動き、地割れを起こす。すぐさま崩壊してしまった所で、天使は羽を使って飛び上がった。
「短足なドワーフがよく上まで来ましたね」
「天使のそれは飾りじゃないのね」
互いに皮肉をいった瞬間に衝突する。
ノームの手には岩で造られた籠手があり、天使は炎の籠手を纏っていた。
炎と岩。
ぶつかり合うと融解して溶岩へと変わってしまう。そのまま天使の炎の勢いが強くなって爆発する。
凄まじい勢いで爆風を撒き散らしてノームは街に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされている最中にも天使は火炎弾を飛ばしてくる。
すぐさま重力操作を行い、一時停止すると重力を強くして自分自身が街に落ちた。
街に落ちたのと同時に【権能】を使い、石畳を粉砕させながら身に纏った。
全身鎧よりも重たい装備を身につけた。重力操作がなければ動けなくなってしまう程の重さを手にしてノームはその場で足腰に力を入れた。
「【炎竜魔法・炎竜の顎門】」
天空で造られた膨大な炎が街を飲み込もうとする。
「【土龍魔法・土龍の鱗!】」
ノームを中心に街が波となって炎にぶつかる。
街で造られた波と炎がぶつかり合い、壮大な音を掻き立てながら吹き飛ばされていく。
「くそおおおおお!」
ノームは重力操作を波に向ける。自分自身には重たく、波には軽くする。どんどんと増えていく炎にも干渉を始めた。
相手の魔法にも干渉する【大地魔法・重力操作】。これを超えるには圧倒的すぎる力でねじ伏せるしかない。
それこそソフィアの拳のようにどれだけ上げても無意味なくらいの鋭利さを持ってないといけない。
つまり——……。
「これでどうだあああ!」
炎を完全に掌握した。街の波と炎を混ぜた異物を天使に向ける。
あまりにも大きな物質——家や扉、石畳やそれこそ溶かされた溶岩が天使を飲み込んだ。




