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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
第1章 囚われた魔王の娘
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仲間になりたそうな子犬

「アハバ様、どうしたんですか?」


「どうもしてない。ただ俺は空を見てただけだ」


「そうですか、アハバ様は風景が好きなんですね」


「風景ではない……いや何でもない」


「言いたいことがあるなら言ったほうがいいですよ。寡黙なのも良いですが、それは魔皇帝の威厳しか守れません。もっと考えを発しないと下々は何も分かりませんよ」


「——そうだなソフィー」



 ★★★★★



 ソフィアは目を覚ました。

 奇妙な夢を見ていたのか頭がふわふわとしていて覚えていない。よく眠った達成感だけはあった。



「んぅ……おはようアシュバ」



 いつも通り木の上で眠っているだろうアシュバに声を掛けた。しかし、返事は返ってこない。



「どっかに行ったのかな?」



 洗顔と歯磨きがしたいソフィアは起き上がる。

 真っ暗闇だが朝な気がする。そう思いながらソフィアは歩き出した。


 ガガによって森の構造は変わるが大きな川は変わらない。流石に塞き止めれず、構造を変えられないと知った時には感激した。



「あったあった」



 数日の間、お世話になっている川を見つけると木の枝をへし折り、お手製の歯ブラシを作った。少し前の王族暮らしでは考えられない程に困窮しているがこれもこれで良いものだ。



「そうだ……アシュバも居ないし水浴びしよ」



 アシュバは雄と言っていた。

 その為、水浴びをしたいけども我慢するという日が数日に一回はあった。



「——よいしょ」



 何日も着ているのに汚れないドレスには、最高級の【清浄魔法】が掛けられている。ナーシャが内容を教えてくれたが一ミリも覚えていない。


 服を脱いで川の中に入っていく。冷たい水が眠気と汚れを飛ばしてくれた。

 全身を軽く磨いていると音がした。

 草木を掻き分ける音が聞こえてくる。



「あ、アシュバ? アシュバなら水浴び中だから来ちゃダメだよ」



 アシュバの背丈だけで自分よりも年下と決め付けているソフィアは優しい声色で言う。しかし、音は止まらなかった。

 アシュバではない何者かが川に向かってくる。急いで身体をドレスで隠したソフィアは、【竜皇気】を纏った。


 草を掻き分ける音が止まった。

 ソフィアのすぐ目の前で止まった。



「もしかして……」



 魔狼王と戦闘していたのを思い出したソフィアは、すぐに戦闘態勢になる。いつでも殴り飛ばせるように力を込めて——。


 何かが飛び出してきた。

 黒炎が飛んでくると思ったが想像の斜め上を行く物が出てきた。



「どうした、どこから来たの?」



 小型犬よりも小さな犬——それこそ子犬が一匹いた。

 胴体は長く脚は短い。そしてチャームポイントはお尻だろう身体付き。

 全身を撫で回したくなる子犬が可愛い目をソフィアに向けていた。


 適当に水気を取りながらドレスを着たソフィアは、犬に駆け寄って頭を撫でようとする。すると犬は身体をコロンと回して腹を見せてきた。


 この行為が意味する理由をソフィアは知っていた。



「もう懐いてるの? どうしたのチミィ?」



 お腹を撫でながら声を掛けていると尻尾を振っている。完全に陥落している子犬は、愛玩犬の仕草ばかり見せてくれる。



「ソフィア様〜〜!!」



 アシュバが草を掻き分けながら出てきた。



「あ、水浴び中でしたか!? 失礼しました!」



 後ろを向いたアシュバにソフィアは終わった事を伝えた。



「良かったです! もしソフィア様のお身体を見てしまったら死ぬしかありませんでしたが……それで、この辺で犬っころは見てませんよね?」



 アシュバが怖い目つきで指差す。咄嗟にソフィアは自分の後ろに子犬を隠そうした。けれども子犬は前に飛び出してアシュバに噛み付いた。悲鳴をあげながら手をブンブン振るアシュバに犬は獰猛な顔で噛みつき続ける。



「このバカ犬! ソフィア様の裸体を見ただけでなく何たる無礼を!」


「は、離しなさい! こら!」



 ソフィアが犬を抱きかかえると簡単に離した。けれどもアシュバに向かって唸っている。どうやら嫌われてしまったらしい。



「この子は雌なんだから見られても大丈夫なの!」



 アシュバに怒ると次は犬にも怒った。

 ソフィアは「全くもう」と言いながら犬の頭を撫でる。



「ところでソフィア様、お怪我はありませんか?」



 魔狼王との戦闘を思ってソフィアに声を掛けてくれた。アシュバの優しさに嬉しく思うソフィアは大丈夫とアシュバの頭を撫でる。



「何ともないよ」


「そ、ソフィア様は(わたくし)を子供だと思ってませんか!」


「え、違うの?」


「私はこれでも数えるのをやめた程の年齢です! 私にとってソフィア様の方がお子様なのです!」



 強気な言い方をするアシュバがソフィアには、自慢してくる子供姿が重なって見えた。



「嫌ならやめるけど」


「いえ、嫌ではありませんがその犬の前ではやめて下さい」



 アシュバは何故か子犬に対抗心を燃やしていた。ソフィアは子供らしい嫉妬心だと感じた時、抱っこしている子犬がどんどんと重くなっていく。



「へ?」



 そしてあっという間に魔狼王と同じ大きさ——いや、魔狼王になった。

 先ほどの可愛い姿はなく獰猛で野蛮な牙が見えていて、その視線だけで小動物を殺してしまいそうな瞳をしている。

 圧倒的な王の風格にソフィアは、ポカンと置いていかれた。



「バゥ!」



 しかし、魔狼王はソフィアに向かって尻尾を振ったり、頭を押し付けて撫でて貰おうとしたりしてくる。

 先ほどの子犬と同じ仕草に現実だと知った。



「あ、アシュバ、これはどういう?」


「その犬っころは魔狼王ヴォルグですよソフィア様。何でもソフィア様を飼い主に選んだみたいです」



 アシュバの言葉を信じられないが、獰猛な牙も鋭い瞳も可愛く思えた。

 だけども、信用していいのか分からずソフィアはただ見詰めた。



「クゥウ……」



 可愛らしい声を漏らしているが相手は魔王。たまたまソフィアが勝てたから良い物の次はないかもしれない。



「ソフィア様を守る為にヴォルグは全身を包み込むように眠ってました。その時に野生動物から守ってくれましたよ」



 ソフィアは驚いた。

 本気で殴ってしまった相手なのにソフィアを守る為に身を犠牲にするような仕草を見せてくれた。



「本当なの……?」


「ワン!」


「そうなんだ……ふふ、ありがとうねヴォルグ」



 ソフィアがヴォルグの頭を撫でると尻尾を左右に振った。その衝撃で木が反っているが見て見ぬふりをする。



「けれども、ヴォルグって呼びづらいな……」



 子犬に大きさを変えたヴォルグを抱きかかえる。



「キャン!」



 興奮して鳴いているヴォルグの頭を撫でながらソフィアは次々と名前を考えていく。



(ヴォルグって可愛くない……この名前で呼ぶと尻尾を下げるし……何か、うーん、ヴォ、ヴォ、ヴォって変だな……グも可愛くないし、うーん、あっ!)


「——よし、今日からお前の名前はズーズン! ヴォルグ改めズーズンです!」


「ヌンヌ!」



 元気に吠え、そのままソフィアの周りをぐるぐると回って喜ぶ姿に満足の笑みを浮かべる。



「良い名前を貰いましたね犬っころ」



 アシュバが手を差し伸べるとズーズンは舐めた。

 やっとアシュバに心を開いたかとソフィアもズーズンを撫で回そうとした瞬間、アシュバの手に食らい付いた。それも深く噛み付いていた。



「いでぇ!! お前なんて大っ嫌いですよ!」

ズーズンの権能は過去から現在に掛けて存在するイヌ科動物になれます!

その中でも子犬タイプはコーギーとポメラニアンの狭間くらいだと思ってもらえれば|´-`)チラッ


次の更新はあした!

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