惨劇
ドワーフ王国内に速報が流れた。
ドワーフ先鋭部隊壊滅。
地上三村、及び一町全焼。
ドワーフ王 アングラ・クフル・アルバ戦死。
国内が大きく揺れ動く。
国の舵を取っていた国王が先鋭部隊と死んでしまった。
もはや国としての運営は不可能になった。
そう恐怖に取り込まれてしまったのだ。
「ノーム……」
恐怖に飲み込まれたのは国だけではない。ノームも恐怖に取り込まれ、部屋に閉じこもった。
ソフィアは、扉の前でノームを呼んでいるが声が返ってこない。
「近衛兵の方がね、ご飯ここに置いとくってよ」
ノームの声は聞こえない。
ノームは、唯一の身内であったアングラを殺されてしまい、半狂乱に陥った。何もかも自分が悪いと取り乱してしまい、今は鎮静剤を打って部屋の中に居る。
上層部も国王を無くした事によって崩壊が始まっている。完全にドワーフ王国は滅亡に近づいている。
「じゃあまた来るね……」
「クゥウ……」
足元で鳴いているズーズンを抱っこして部屋に戻る。
部屋に戻ってきたソフィアは、ベッドに腰掛けた。ソフィアはズーズンに抱きつくと、ポロポロと涙が零れ落ちてきた。
もっと早く思い出していればアングラを失わないで済んだ。
もっと早く助けに行ければノームを傷付けなかった。
ソフィアにもっと力があれば……。
完全に無い物ねだりだった。
ただ己の無力さを呪うしかない。
そんな毎日だったのに、生ぬるい生活に身を落としてしまったから決断が遅くなってしまった。
魔王を名乗ったには、王にならなければいけない。
「ムン」
ズーズンがソフィアの抱っこから抜け出した。
どうしたのか視線で追うとソフィアの膝の上で座り出した。
「ごめんね、苦しかった?」
抱きついた時に苦しくて嫌になったのかと思ったが、ズーズンは何もしてこない。それどころかソフィアの上で毛づくろいを始めた。
ズーズンにとってドワーフ王国が滅亡しようが、どうなろうが関係ない。何故ならば犬なのだから。
その事実に気がついた時、ソフィアは大事な事を思い出した。
「……パパなら、何があっても”友達”を助けるよね」
ズーズンの己を貫く獣らしさから助言を貰った気がした。そんな筈はないのに。
「ありがとうねズーズン」
そうと決めたソフィアは部屋を飛び出す。すぐさまノームの部屋の前に立った。
ノックをしながら名前を呼び続ける。けれども、ノームからは何も返ってこない。
そうだろうと思っていたソフィアは——。
★★★★★
ノームは虚無に包み込まれていた。
自分が前に出ていれば剣聖を止められると思っていた。
何もかも上手くいくと思っていた。
現実は、上手くいかない。
ソフィアが喉に刺さりそうになった剣を止めてくれなければ死んでいたに違いない。
でもあれは……確かに肉を突き破る感触がしていた。なのに、気がついた時にはソフィアが抱えていてくれて……。
記憶がグチャグチャに混ざっていて思い出せない。とにかくソフィアが助けてくれたのは覚えている。
あの時、死んでいれば……。
ノームは、死んでいったドワーフやアングラの顔を思い浮かべながらそう感じてしまう。
あの場で死んでいたならば自分はここまで苦しい思いをしなくて済んだ。
けれども、生き残ってしまった。
ノームが居なければドワーフ王国が攻められる理由が見つからない。ならば、この場で——。
もう何度もナイフを手にして喉を突き刺そうとしたが、途中で怖気付いてしまう。何よりも助けてくれたソフィアの顔が浮かんで手が動かなくなってしまう。
「ノーム!」
扉の外からソフィアの声が聞こえてきた。先ほども来てくれたのにまた来てくれる。
こんなどうしようもないノームを気にかけてくれる。それだけで重圧がのし掛かってきて死んでしまいそうになる。
ソフィアは純粋で活発で、本来のノームからは正反対。だからこそ、本能的に惹かれてしまったのかもしれない。
だけども、その光が今では眩しすぎて目が潰れてしまいそうになる。
「ソフィア……うち」
弱々しい声が漏れ出ていた。
今にも潰れてしまいそうな声は、思い詰めたから出てきた弱音は扉に届かない。
「全然強くなかった」
言葉は更に漏れ出てくる。
聞いた話だとあれだけ苦戦した剣聖をソフィアは数発で倒してしまった。
ソフィアは、ノームよりも圧倒的に強い。なのに、自分勝手な決断でソフィアを置いていき、大切な同胞と唯一の家族が死んでしまった。
全ては自分のせいだ。
ノームは、自分が生み出した恐怖に飲み込まれる。
刹那、扉が吹き飛んだ。
「え」
ノームは、突然の出来事に剣聖の姿を思い浮かべた。ついに人間族がここまでやってきてしまった。
ソフィアが叫ぶように名前を呼んでいたのは、危機を教えてくれていた。その事実に気がついて目を瞑った時、声が響いてきた。
「ノーム」
扉の前に立っていたのはソフィアだった。
ソフィアは、何も気にしない素ぶりでノームの目の前まで歩いてくる。
「な、なんで来たの! うちはそんなこと頼んでない!」
ソフィアが来てくれた。
内心は嬉しい筈なのに、反発するように否定してしまう。
「そんなの決まっているよ」
ソフィアが、ノームの目の前で座った。気がついた時には手が顔に来ていた。もしかして打たれるのではないかと思い、目を強く瞑ってしまうと——。
「迎えに来たんだよ」
泣き腫れて赤くなった瞼をそっと撫でて、頬を触り……抱きしめてくれた。
相手は7歳下なのに、年齢など関係なく抱きしめてくれる。
「なんで、どうしてなの! うちはもう……どうしようもないくらいに負けて、ソフィアにも迷惑をかけて……爺やを殺したのに」
言葉が溢れ出してくる。けれども、ソフィアは強く抱きしめてくれてただ黙っている。
ノームが言葉を求めていないと分かっているのか、たまたまなのかは分からない。けれども、親身に受け止めてくれた。




