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回心


 純白の翼を持った男——へカトルは上空からドワーフ王国を探していた。



「有りませんね……っ……」



 痛みが走った。

 神託を頂いた時から身体が燃え盛るように痛い。

 けれども、その痛みが生きていると実感させてくれる。


 痛めば痛む程、主が与えて下さった【権能】を使用している証拠。



「さあ、今日も雨を降らせましょう!」



 へカトルは、見つけた村を片っ端から燃やし尽くす。



「虫の魂も天に還ります。半魔にも慈愛を恵んで下さるとは……あぁ! 何と尊い御方なのでしょうかぁ!」



 ついつい昂ってしまったへカトルは、火力を間違えた。

 最初は火の粉、次第に炎に変えなければ楽しめないのに最初から溶岩の雨を降らせてしまった。



「いけませんいけません。仕事に私情を持ち込んでは……ですが、これだけ順調でしたら少しのミスは修正が効きますね」



 下からドワーフの悲鳴が響いてくる。それだけでへカトルは高揚感を覚える。


 肉が焼かれて焦げ臭い。けれども、その臭いがたまらなく好きで仕方ない。この力を与えて下さった主に、再び畏敬の念を送ると剣聖が居る方を見る。


 今頃、仕事仲間……確か異世界語でビジネスパートナーとなった剣聖ベルモンドが、ドワーフを鏖殺しているだろう。


 あの者の【絶技】ならば、誰も止められない。炎竜の力を手にしたへカトルでも難しい可能性が見える。



「厄介な力を貰いましたよね——いざとなった時の殺し方に悩みます」



 しかしへカトルは、1ヶ月半の間過ごしたベルモンドを信用していない。そもそもこの世界に召喚されただけの人間族の癖に主から恩寵を与えてくださっている現状が気に入らない。


 もしキグレ並みに力を持っていれば考え方も変わるのかもしれないが……。



「あれだけ持っていたら殺し放題ですよね」



 へカトルは、魔族を殺したくて仕方ない。

 天界にいる時は自制しているが、下界に降りてきたら我慢が出来ない。

 そもそも魔族や半魔をどの様に扱おうが——それこそ無意味に殺害しようが——怒られる訳はなく、むしろ褒めてもらえる。


 今回も主から、半魔を殺せば殺すだけ炎竜の力を授けると言われている。


 つまりこれは虐殺ではない。

 使命ある害虫駆除だ。


 異世界人がネズミを使って生体実験をする様に天使たちは魔族や半魔を使って実験する。そして邪魔になったら殺したり、見かけただけでも殺す。



 それが許される環境を作ってくださった主にまたしても祈りを捧げる。



「……あぁ、主よ……素晴らしき環境をありがとうございます。おや?」



 下から響いていた絶叫が聞こえてこない。

 興ざめしてしまった。

 せっかく心地の良い合唱団の歌声を聴いていたのに、変な所で途切れてしまったら怒り心頭である。



「生き残りでも探しますか」



 だが、あくまで私情は棄てる。神託は半魔の絶滅。それならば生き残ってしまったドワーフも殺さなければ主の期待に応えられなかったとして眠れなくなってしまう。


 溶岩の雨でも辛うじて生き残るドワーフはいる。だからこそ、へカトルは【権能】を解放した。



「【権能解放】」



 全身を炎が包み込んだ。

 またしても痛みが身体を貫くが、へカトルは快楽を覚える。



「あぁ! 主に捧げます【炎竜魔法・炎竜の顎門】」



 へカトルの目の前に魔法陣が浮かび上がると、そのまま巨大な炎があふれ出した。

 炎は、形を変えていきトカゲの様な見た目になる。そのまま動き出すと——村を炎で飲み込んだ。



「これで終わりですね」



 村は、跡形もなく溶けた。

 元からこうすれば良いのだが、へカトルは敢えてドワーフ達が痛む様に雨を降らせていた。


 いつもの予定ならばこれで終わりなのだが、今日は物足りない。

 本当ならば村全体を炎で囲んで逃げ場を消した状態で、火の粉の雨で炙っていく。もう死んでしまいたいと何度も願った所で、天使の慈悲として焼き殺す。


 けれども、今日は一発目から溶岩で殺してしまった。


 もっと殺したいと殺意が芽生え出してくると、何キロも先に小太りのドワーフが走っている。



「ちょうど良いところに居ましたね」



 早速、羽を使って飛び出したへカトルは、すぐさま到達してドワーフの目の前で降り立った。



「お、お前は!」


「下等な半魔が誰の許可を得て喋っているのですか」



 へカトルの姿を見たドワーフは、抜刀していた。地に頭を付けて命乞いしなければいけないのに、戦おうとしているのが気に入らない。



「炎よ、燃やせ」



 詠唱ですらない言葉で炎が生み出され、ドワーフを焼き払う。

 何とも言えない悲鳴を上げているが、ギリギリ死なない力加減で調整した。



「虫風情が、どちらが上位種か教えてあげないと分からないのですね!」



 火に焼かれてのたうち回っているドワーフの顔面を蹴り飛ばす。

 鼻から血を吹き出したドワーフは、そのまま気を失ってしまった。



「おや、まだ終わりじゃないですよ【回復魔法・治癒】」



 強制的に回復してドワーフの意識を覚醒させた瞬間、炎を作り出して頭を握る。

 そのまま持ち上げると、ドワーフが誰なのか気が付いて歪んだ笑みを浮かべた。



「——あぁ! 貴方はドワーフ王アングラですね! これも主の導きですねぇ!」


「……」


「このまま殺すのは勿体無い。あぁ勿体ない! 【回復魔法・大治癒】」



 先ほどの回復魔法よりも圧倒的な速さで火傷を治していく。更には疲労感など、全ての不具合を治した。



「殺すなら殺せ」


「先ほども言いましたよねぇ! 話せと言うまで話すなと!」



 へカトルは下等種族があまりにも言うことを聞かないのが腹立つ。しかし、ここで私情を多く出してしまったら神託の達成が難しくなる。


 主は半魔の根絶。

 ならば、ドワーフ王国の王城が分からないとドワーフの絶滅が出来ない。



「【主よ、堕落した咎人に神聖なる光を見せたまえ。さすれば咎人は心を入れ替え、主の矛になりましょう……回心(コンバージョン)】」



 冷静に神聖魔術を掛けた。

 手を離すとアングラが跪いた。


 回心は、洗脳魔法よりも凶悪な場面を見せる時がある。何故ならば……。



「喋ることを許可する」


「はっ! 我が命は、全て主の為に使います」


「よろしい、ではドワーフ王国の場所を言いなさい」


「ドワーフ王国はこのまま北に直進すれば洞窟があります。通常は入れませんが、この王家の印を見せれば自動的に認証されて入れます」



 へカトルは笑い出した。

 あまりにも都合よく進んでいくから、もはや笑いが止まらない。


 これもまた主の導き。



「よろしいでは、死になさい」



 手を炎に纏わせると、剣の形状に変わっていく。これから斬首をしようとした時、不愉快なドワーフが頭を差し出さなかった。



「何をしているのですか、早く首を出しなさい」


「はい、その前にご報告があります」


「手短に」



 ここまで精神的にタフだと一興にも感じる。

 ドワーフの言葉は、遺言くらいに考えていると……。



「生き残った竜族が居ます」


「な、ななななっ!」



 あまりの出来事にへカトルは尻餅をついてしまった。まさかこんな辺境地でその名前を——大罪者の名前を聞くとは思わなかった。



(主よ、申し訳ありません。この魂を捧げますので……通信を切断します)



 天使に内蔵されている主への自動送信を強引に切断した。その出来事だけで10年は悲しみに溺れられるが、今はそれでも後悔しない。



「その者の名前は」



 名前を聞いた時、へカトルは歪んだ笑みを浮かべる。



「ドワーフの根絶が終わりましたら天使として転生させて頂けますよう申請します。よくやりましたアングラ、では死になさい」


「はっ! ありがたき幸……」



 首が地面に落ちた。

 血がへカトルの熱によって蒸発する。その時の匂いがいつもよりも香ばしく心地よく思う。



「絶対に、殺しますソフィア」

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