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不可視の剣


「次はそこだ」



 嘲笑うように剣聖が指を差した——ノームの右足に剣の軌跡が煌めく。

 その場から慌てて下がる。すると、地面に剣筋が通った。


 やはり見えない速度で剣を動かしている。ただそれだけならば目を見開く物だが、剣聖の名前はそれだけでは無い。


 剣聖は、先程から一歩も動いていない。どうやってノームの目の前まで来て剣を振るって元に戻っているのだろうか。いや、そもそも元に戻る必要は無い。


 それなのに元の位置に戻っているとしたら、明らかにノームを馬鹿にしている。



「剣聖め、このムーエを嘲笑いやがって!」


「一介の新兵が何を言う。死ね」



 もう一度、指を差す。すると、ノームの真上から剣筋が通る。僅かな風の動きを読み取って右に転がって避けたノーム。しかし、剣聖は更に指を鳴らした。



「くっ!」



 転んだ瞬間に剣の衝撃がノームの鎧にぶつかり、簡単に砕け散った。

 変装の為に用意した鎧が砕け散ったのはまだ良い。だが、強固に造られた鎧が一振りで砕けた事に問題がある。



「ムーエ、後方に戻れ!」



 上官が叫んだ。側から見ればノームは、新兵のムーエだ。新人が首魁に向かって自殺行為に近い行動を繰り返している。

 兵隊としての行動に相応しくない未熟者だと分かる行動を見兼ねた上官が叫んだのだろう。



 だが、この戦いは常識が通じない戦いになってきている。上官のように戦闘に慣れているとしても相手は人災。文字通り厄災に成り得る存在だ。



「うちが盾役になります! そのうちに攻撃を!」


「何を言っているか! 上官命令を聞け!」


「防御力には自信があります! その為に訓練をしてきました!」



 ノームの鬼気迫る声に頷いてしまった上官が兵隊を動かそうとした瞬間、剣聖が指を擦り合わせて鳴らした。


 突発的な音に剣聖を見ようとしたが、ボトボトと落ちる音が響く。

 地面に血をぶちまけながらドワーフ50名が切り刻まれた。



「な、何をしたんだ!」


「ただの【絶技】だ。ゴミが死のうが関係ないだろ。それよりも早くお前も使え」


「ふざけやがって……」



 ノームは怒りに飲み込まれないように息を整える。目の前で同胞が切り刻まれる覚悟は、戦争が始まった時から分かっていた。


 今はただそれが起こっただけだ。


 そう何度も心中でつぶやいて怒りを抑えた。



 仮初の冷静を手にしたノームが新兵ではないと分かり切った雰囲気を滲ませる剣聖を睨みつける。まさにその通りなのだが、バイザーから見える瞳が笑っているように見えた。


 明らかに馬鹿にしている。

 剣聖は、お前が【絶技】を使った所で未来は決まっている——と言いたげだった。



「【権能・部分解放・土籠手】」 



 小声で【権能】を解放したノームの手に土が盛り上がっていく。

 ノームは挑発に乗った訳ではない。けれども、このままでは剣聖の【絶技】を見抜く前に死んでしまう可能性があった。だから、鎧よりも圧倒的に強度の高い籠手を纏う。



「少しは本気になったか」


「そうだね……貴方は何故、ドワーフを殺すの」



 ノームは【絶技】を見極めるのと、ドワーフ軍が包囲網を完成させる為に時間を稼ごうとしている。


 だから、聞きたくもない返答を聞かなければいけない。



「簡単だ。我々は神の使徒。そして半魔、魔族は人類を蝕む害虫。ならば、駆除はするべきだろ」


「外道が……」


「何を言うか。お前も、嘘を身に纏ってドワーフを蠱惑の穴に落としているだろう」


「ふん。薄っぺらい挑発ね!」



 籠手を身に纏った拳で殴り掛かる。剣聖は、それに対して一歩も動く事はなくただ来るのを待っていた。


 これもまた挑発。

 そう感じたノームは、惑わされず【土籠手】を剣聖に振った。


 それでも一歩も動かない。

 舐められていると分かったノームは殺す気で下ろした。



「そこも、もう俺の場所だ」



 声と同時に金属音がぶつかり合い、響き渡る。この異質な感覚が広がった時、剣聖は抜刀していた。


 ノームは歯を食いしばってもう片方の【土籠手】で殴りつけようとする。けれども、剣聖は抜いた剣をノームに向けたままだった。


 互いに突き刺さって死亡。


 そうなるかと思ったが、この絶対的な自信を前にしてあり得ない。



「これでもくら……え」


「俺の場所と言ったはずだ」



 もう片方の拳とぶつかり合い金属音が響き、弾かれる。剣に防がれたはずなのだが、ノームに向けられた剣は微動だにしていない。


 ここまで近づいても目視出来ない剣速。風すら発生させない繊細な動きを可能に……。


 違和感を覚えた。


 瞬間、殺されそうになっていながらも思考が加速していく。


 今にも走馬灯が頭を支配しそうになってしまいそうだったが、加速された思考は、今を生き残る為に使われていく。



 もしあの時にソフィアの”本気”を受けていなければ、この連撃に耐えられなかった。最初の会合で心を折られていた。


 ソフィアの拳に比べれば、こんな物は怖くない。あれだけの濃密な死を体験していなければ、今死んでもいいと思っていた。



「ありがとう……ソフィア」


「……さらばだ」



 ノームを正面から叩き切る軌跡の寸前にノームは叫ぶ。



「【権能解放!】」



 全身を土が覆い尽くす。

 それはソフィアの時に見せた巨大カエルではない全身鎧。



「何……!」



 切っ先と土が触れる瞬間、剣聖の手が剣の重みに逆らえず軌道がズレた。



「ここからが本番よ人災!」

次は明日!

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