表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/162

戦地


 何かを忘れたままソフィアは目を覚ました。

 起きてすぐに朝支度を終わらせたソフィアは、昨日と同じくノームの部屋に来た。



「ノームー、入るよー」



 一応ノックしてから部屋に入ると——そこには誰も居なかった。

 どこかに出掛けていると思ったソフィアは、無意識のまま外を見る。


 ここからでも街の活気が見えると昨日知ったのだが、街は異様なくらいに鎮まっている。それどころか、宮廷内部でも働いている音がごく僅かな気がした。



「どうしたのかな」



 ノームも王族と言っていたから、きっと大切な仕事で外に出ているのかもしれない。ソフィアはそう思いながら自分が寝ていた部屋に戻ってきた。


 ソフィアは、机に何か置いてあると気が付いて駆け寄る。すると、手紙が一通置いてあった。


 手紙の封を開けて、見てみると短い文が書いてあった。



『うちは、ドワーフ王国を巡る仕事に行きます。ソフィアの事はアングラに話してあるので、安心して魔竜国に帰ってね』



 どこか違和感と、昨日からあるモヤモヤで不穏にも感じる。けれども、どうしてそう思うのか分からないソフィアは、一緒に置いてあったクッキーを食べた。



 ★★★★★




 早朝、ノームは洞窟の中を歩いていた。

 街の最果てにある洞窟から軍を率いて地上に向かっている。


 目的はただ一つ。


 剣聖と天使の討伐。

 人災を取り除かないと、ドワーフには未来がない。


 このまま放って置けば、地下にある城が見つかってしまい、焼き尽くされる。せっかく大賢者から逃げる為に地下に王国を築いたのに意味が無くなってしまう。


 もうこれ以上は人類の好きにはさせない。

 その思いだけを持ってノームは先頭を歩いていた。



「ノーム様……本当に宜しいのでしょうか」


「うん、それにここではムーエですよ」


「はい、かしこまりました」



 ノームは名前を偽っていた。

 ただノームがドワーフ族の中でも異例中の異例だから、秘密にされているだけだった。それこそノームの存在は、身の回りを警護している近衛兵とアングラしか知らない。



 100万人を超える人口で知っている人数は、たったの十数人。それだけノームの存在は厳重に隠されている。


 厳重に管理されているからこそ鬱憤が溜まって宮廷を抜け出して街に出てしまう。その時に使い始めた名前がムーエ。



 ムーエは偽りの自分であって、隠された願望でもある。だから……



(ソフィアだけは——うちが守る)



 顔も名前も知らないソフィアに、自分と同じ運命を感じてしまって自ずとノームと名乗った。


 あれだけ小さな体に詰め込まれた異常な膂力。喋る狼を従えている娘。背中に生えている少しの鱗。これだけの情報でノームは全てを理解していた。



(あの子は、うちと同じで”半魔”でも”魔族”でもない)



 ずっと幽閉されてきたノームだからこそ、ソフィアの気持ちが分かる。そして生まれ持った【権能】のせいで生き方をめちゃくちゃにされたのも分かる。


 だから、ソフィアは守ると心に決めて洞窟を抜けた。




 ★★★★★



 地上。

 そこは緑豊かで川のせせらぎが聞こえてくる穏やかな場所。


 ——だった。



「ここまで……」



 ノームが見た景色は炎。

 木々は燃やし尽くされて灰しか見えない。川は干からびて焼け焦げた跡しか見えない。


 動物の白骨死体がばら撒かれている。その中の何個がドワーフの死体なのだろうか。


 地上は全てが業火に燃やされた死せる地になっていた。



「これが炎竜の力……」



 天使が使っている【権能】。それはかつて世界を支配していた竜皇の力。


 七柱の竜は神として崇められていたが、人間族の反逆によって殺されてしまった。その力は、それぞれ魔族に憑依したが……大半は、人間族に奪われた。


 ドワーフ王国がせめられているのも土龍——地竜の卵であるノームが居るからだろう。



(絶対に負けないんだから)



 このまま突き進めば上空で天使を目撃した場所まで辿り着ける。あと少しで、亡くなったドワーフ達の無念を晴らせられる。



 自分を鼓舞させていると、アングラが下がっていくのが見えた。その際に他の兵達にも声を掛けている。これはノームにだけ話しかけていると徴集された一般兵に気が付かれてしまう可能性があるためにカモフラージュとして話しかけて回っている。



 一応、王としての責務もある為、今後の政治も気にして最前線から後方に向けて声をかけているらしい。



 遂に全面戦争が始まる。

 そう思った瞬間、後方から叫び声が響いた。


 唐突で驚いたノームは、すぐさま魔法を放てる態勢になって後ろを振り向こうとした時、目の前に全身鎧を着た人間族が立っていた。



「ドワーフ軍だな」



 流暢に話しかけてくる声質は、男。ドワーフからしたら見上げてしまうほどに高身長。しかし、線は細い気がする。



 「剣聖……」



 ノームはすかさず無詠唱化した【土魔法・土矛】を放つ。


 突然、空に出てきた土が一瞬で形を作って剣聖を貫こうとする。しかし、剣聖も読んでいたのか剣を持ち出して薙ぎ払うように振るう。


 剣とぶつかった土矛は、消えた。

 もし上から攻撃が来なければ全身鎧を粉砕するだけの威力を込めていた。単純に運がいいのか、ノームが分かりやすいのか。


 考え方によっては変わるが、今考えていては仕方ない。



 ノームは追撃をする為、一歩前に出る。



「そこ注意だ」



 ノームが前に出た瞬間、斬撃が走り抜ける。防御力の高さには自負しているノームだが、直感でしゃがんだ。ノームの真上から風の通る音が聞こえた。



「なっ!」



 剣聖は剣を振っていない。つまり目に見えない程の速度で剣を振った事になる。


 あのまま立っていたならばノームは真っ二つになっていたかもしれない。耐え切ったとしても確実に後遺症は残ってしまうだろう怪我を負っていた。



 ここからが正念場だとノームは気合を入れ直した。

次の更新はあす!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ