ドレス通り
ノームから貰ったウィンナーの串を食べ歩きながら街並みを見ている。
庶民の食べ物は初めて食べたソフィアだったが、雑に作られているからこそ味わえる豊富な味がある。
何よりも森で狩った鹿肉を焼いただけよりは美味しい。
他にも食べ物を巡る散歩は終わらなかった。肉、魚、野菜の串揚げや果物のザク切りや、飴など、様々な種類が形姿を変えて販売している。
しかも、その全てが金貨よりも下の下、銅貨数枚で買える破格の安さ。ソフィアは、この地だけは守らないといけないと薄っすら思う。
「もうお腹いっぱいー!」
「ノームは少食だね」
「ソフィアは、成長期だから入るんだよ」
食べ過ぎで少しだけ膨れたお腹をノームが触ってくる。乙女心が傷付きそうになったソフィアは、その手を払う。
「やめてよね」
「プニプニしてて可愛い……」
「もう!」
ソフィアが仕返しとばかりにノームのお腹を触ると——六つに割れた腹筋がある。
どうしてここまで筋肉があるのか、考えてしまいそうになったソフィアは、昨日見た水晶の風景を思い出す。
あの惨劇に備えたから……。
「もうくすぐったい!」
「ノームの筋肉すごい……」
ただ溢れる様に言った言葉に対してノームは、一歩前に出た。いや、ソフィアを抱き寄せた。
「な!」
「これはね、趣味だよ」
ソフィアが思っていた事情ではなくて、単なる趣味だった。こればかりは考え過ぎも良くないと心を咎める。
妙にカッコよく言うから少しだけトキメキそうになってしまった。けれども、変な空気感になっても仕方ないのでソフィアは何も言わない。
「ヌ°ンヌ!」
ズーズンの怒り声が聞こえてくる。すぐさま視線を落とすとノームのズボン裾を噛んで引っ張っていた。
ソフィアがすぐさま止めようとしたが、それよりも早くノームが離れた。
「怒られちゃったみたい」
「気にしないで、ズーズンは何も考えていないと思うから」
ソフィアの言葉に何故か苦笑いを浮かべているノームに、疑問に思う。
ノームはきっと犬や狼が喋ると思っているに違いない。もしかしたらズーズンの魔法詠唱でも聞いた可能性から——ソフィアが目覚める前——勘違いしているのかもしれない。
そんな風に思っていると、ノームが喋り出した。
「お腹も触れたし、買い物にいこっか」
「うん!」
買い物。
この単語にどれだけの魅力が秘められているのか、この時のソフィアは知らなかった。
★★★★★
圧倒的に煌びやか。
ソフィアは、大通り——通称、ドレス通りに来て目を瞑ってしまいそうになる。それだけドレス通りは眩い物ばかり。
ドレス通りには、服を着せた人形が露店のように並んでいる。それだけでもソフィアにとっては刺激的なのに、ガラスの中に豪華絢爛な装飾を施された高級品のドレスが並んでいる。
この大通りだけで、一年間の服が揃ってしまうほどに賑やかで煌びやか。
「すごいすごいっ!」
「ソフィア少し待ってー」
ソフィアを追いかけるためノームがズーズンを抱えたまま走って来る。こんなにも大通りに服があるとは思えない——いや、想像すら出来なかったから見ているだけで楽しい。
そう思っていたのは、最初だけだった。
「どれも……」
ソフィアは、外から店の中を見ている。そうやって何度も展示された服を観察して気がついてしまったのだった。
「着れない!」
展示されている服がどれもドワーフ基準の大きさ。たまに大きいのもあるが、ナーシャなど大人の女性向けであってソフィアには大きすぎる。
それだけならば無理をすれば着られる。しかし、ドワーフ基準だけ背丈は合ったとしても横幅が小さい。
つまりドワーフだと小さくて、他の魔族基準だと大きすぎる。
ソフィアにとって丁度いい大きさの服が見当らない。
あまりにも種類が無くて悲しくなってしまう。
ドレス通りにはソフィアが求める服は存在しない。そう言われた気がしてしまった。
肩を落としてしまったソフィアにノームが近づいてくる。何か言ってくれるのかと考えてみたが、ソフィアの想像を超える。
「魔術が付加された服ならばサイズは関係ないよ」
「ま、魔術なら……」
ソフィアは魔術は嫌だ。何故ならば、人間が開発した技術であって、誇り高い魔族が使うべきではない代物だから。
少しだけ使ってみようか考えてはみたが、初めて買う物でも人間っぽいのは考えたくない。それは普段から使っているノーム達を侮辱するのと同じ。だけども、ソフィアにも譲れない部分はある。
どうしても魔術だけは肌に合わない。その想いから、ノームに断りを入れようとした時。
「ソフィアに渡したお小遣いなら、魔法のも買えるよ」
「買うっ!!」
★★★★★
満面の笑みで浮かべて歩いているソフィア。隣ではズーズンも嬉しそうな足取りで歩いている気がする。
ノームもソフィアの気分を読み取ったのか声が楽しげだった。
この一日は楽しい事ばかり。なのに、何かを忘れてしまった。重大な何かを。
ソフィアは、モヤモヤを感じながら宮廷に戻るべく帰り道を歩いていた。
(でも、楽しいならいいかな)
どこまでも楽しい雰囲気を身に纏ったまま、歩いているとすぐに宮廷が見えてきた。
周りを確認しながら、本来はそこから街に出るはずだった穴を潜る……手筈だったのだが、穴が見えない。
「ノーム、どうやって戻るの?」
「任せて! 【土魔法・潜土】」
ノームの周りが水みたいに滑らかになって沈み出した。ノームは、ソフィアに手を差し伸ばす。
「ほら、ソフィア」
「うん!」
ソフィアは、手を取って呼吸を止める。そうすると、ノームが一気に沈み込んだ。ノームの魔法の範疇にいるおかげでソフィアにも適応されたらしい。
土の中は、見たことがない風景が広がっていた。茶色なのに、水のように透き通って見える。
想像も出来なかった風景を楽しもうとした時、上に連れて行かれる。
「ぷはっ! 周りは誰もいないね!」
「……すごかった!」
呼吸を忘れていたソフィアはただ純粋に感動していたが、抱っこしていたズーズンが異常なくらいに暴れている。突然の入水もどきでびっくりしてしまったらしい。
大慌てなズーズンを宥めながら近衛兵に気をつけてソフィア達は部屋に戻った。
その日は、そのまま眠った。
夢に入る前、ソフィアはモヤモヤを抱えたまま眠る。
次は明日!




