街頭
ソフィアは、ルンルン気分で外に乗り出して行った。まずは宮廷を抜けて、城門に向かっている。
このまま突き進んで行くのかと思ったが、曲がってしまった。
「ノーム?」
「シー! そのまま付いてきて」
ノームの後を黙って付いて行く。緊張感が溢れている中、誰にも見つからない様に——あれ、これは合っているのだろうか。
「ねえ、ノーム」
「静かにしててソフィア……今、兵が」
「もしかして黙って出て行くの?」
ソフィアは、純粋に思った。ここまで静かに出て行かない理由は、ノームは誰にも伝えないで勝手に外に出るという意味。
アングラにも話が通っているとは思えない。他の誰かに伝えているとは信じられないのと、ノームのこの態度が理由だった。
「もちろん! アングラにバレたら怒られるからね!」
「だ、大丈夫なの? 心配かけちゃ……」
「大丈夫大丈夫! 何回もあるから!」
とにかくノームはソフィアを言い包める。その事実に気が付かないソフィアは、簡単に取り込まれた。
むしろソフィアの心情は、何だかスリルが合ってワクワクする、くらいにしか思っていない。
この大半が感情を占めていた時……曲がり角で止まった。
ノームの話によればその角を曲がれば、下に穴がある。そこを潜って行けば街に出られる。
あと少しで辿り着く。そう心中で喜んでいると、ノームが立ち止まった。ノームは、ソフィアに手のひらを見せてくる。その意味合いが分からないソフィアが止まらずに前に出ようとした時、止められた。
「ダメダメ、誰か近づいてくる」
「あ、そういうね」
意味を理解したソフィアはグッと立ち止まった。ノームがソフィアの手を握って戻ろうとしたが、立ち止まってしまった。
「向こうからも誰か来た……」
ソフィアも【竜皇気】を発動させて見ると、薄っすらと影が見えた。あの装備は間違いなく近衛兵。
このままだと捕まって宮廷に戻される。ソフィアは待ちに待った街散策が無くなってしまう悲しさから、ノームの手をしっかりと握った。
「食いしばって!」
「え? ……なっ!」
ソフィアはその場で跳んだ。出来る限り、音を鳴らさないで気をつけたソフィア。
誰にも気が付かれない速度と隠密性は、日々ガガと戦っていたから身についた瞬発力が成せる技だった。
そうとは知らないノームは驚いたのか強く握ってくる。ズーズンもびっくりしていたのか、ソフィアに身体を押し付けてきた。
「すごいよソフィア!」
初見のノームは大いに喜んでいた。
ソフィアが飛び越えた城壁はその辺にある家よりも遥かに高い。飛び越えるには翼が無ければ不可能な高さをソフィアは簡単に飛び越えてしまった。
「ふふんっ! でしょー?」
褒められて嬉しいソフィアは、そのまま民家の屋根に——音を最小限にして——着地した。【竜皇気】に慣れたからこそ、意識することでここまで静かに着地も出来る。これもまたソフィアの自慢だった。
「流石ソフィア!」
「えへへ!」
褒められると喜ぶ単純なソフィア。こうやって率直に褒められると嬉しくて堪らない。
これが友達。
ソフィアはそう思いながら誰も居ない場所を見つけて降り立った。
「じゃあこれから先はうちに任せて!」
「うん!」
ソフィアの返事を受け取ったノームが、ズイズイと手を引っ張りながら突き進んで行く。既に【竜皇気】を解除していたソフィアは、ノームの引っ張る力に負けてそのまま動かされてしまった。
背丈はあまり変わらないのに、やっぱり年齢差なのか、力は負けてしまう。
「何がしたい?」
ソフィアは来る時から必死に考えていた。初めての街だからやりたい事は沢山ある。けれども、何から手を付けていいのか分からない。
悩みに悩み続けて五分。この五分間しっかりと待ってくれているノームには感謝するが、どうしても何からしていいのか分からない。
だからこそ、ソフィアは油断していた。
「……あれ、ソフィア」
「ん? 少し待って」
「いや……ズーズンが」
「えっ!」
ズーズンと言われて自分の手元を見たソフィアは、先ほどまでアホ丸出しで舌を出していたズーズンの姿が居ないと気が付いた。
急いで周りを見るが、ズーズンの姿が見当たらない。明らかに逃げてしまった。
脳裏に犬などの愛玩動物は、環境が変わるとパニックになって走り出してしまう……という言葉が過る。
慌てて走り出そうとした時、ノームが話し出した。
「わかった! 食べ歩き街頭だよソフィア!」
「え、あ、うん!」
ノームに教えてもらいながら走っていくと、屋台街が見えてきた。そこには様々な食材をその場でちょうりしてくれて食べられる店が並んでいる。
ここだけで満腹になってしまいそうな料理の数々——通称、食べ歩き街頭がソフィア達を迎える。
ソフィアは、【竜皇気】を全開で発動してから全ての屋台の足元を——1秒で——見抜く。
すると、一匹の子犬がウィンナーを串刺しにして焼いている屋台の前でお利口に座っていた。まるで、餌を貰えるのではないかと、待っている。
「どうしたんだい子犬ちゃん」
「キャン!」
「これが欲しいのかい?」
老婆のドワーフに話しかけられているズーズンを誰にも気が付かれない速度で走り抜けて捕まえた。
「ご、ごめんなさいお婆ちゃん!」
ソフィアは、すぐさま抱えて老婆に謝ると……老婆は細い目を見開いて驚いていた。
「これまあ、べっぴんなお嬢ちゃんだ」
「え、あーその?」
ソフィアは慣れていない言葉に戸惑ってしまう。オドオドとしていた所、ノームが走ってきた。
「ごめんねお婆ちゃん! お詫びに三本ちょうだい!」
「まいど、”ムーエ”ちゃん」
ソフィアは聞き間違いかと耳を疑ったが、【竜皇気】を発動している今は、そんな間違いをするとは思えない。それだけ【権能】に絶対的な自信がある。
「じゃあこれね」
「ありがとうね!」
「あいよ、また友達とおいでな」
友達と言われた。
ソフィアは、疑問に思っていた事よりも友達と言われた嬉しさから忘れてしまう。更に【竜皇気】も解除してしまう。もう、この段階でソフィアは忘れ始めていた。
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