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硬貨


 朝食を食べて満足したソフィアは、ベッドで二度寝をしようと考えていた時、ノームが立ち上がった。

 ノームの方を見ると、ソフィアの瞳をずっと見ている。



「ソフィア、これ」



 ノームが物を渡してきた。その物は、ソフィアにとって見覚えがある。というよりも、何よりも大切な物と言っても過言では無い。



「ありがとうノーム!」



 感激しすぎてソフィアは抱き付く。そして今までワンピースで過ごしていた事を思い出して少しだけ恥ずかしくなる。



「そ、そんな! ……あ、修繕が必要だったから直して置いたから!」


「ほんとうにありがとー!」



 恥じらいよりも嬉しさの方が勝つ。またしてもギュッと抱きしめたソフィアは、ノームの薦めもあって着た。


 やっぱりバーニックがプレゼントしてくれたドレスに身を包むと心の底から安心する。



「そういえばソフィアは、ドレスの【権能】は使っていないの?」


「へ?」



 突然、訳の分からない話をノームが始めた。【権能】と言われてもソフィアには見当が付かない。そもそも【権能】は上位の魔族が使う特別な力なのだから、ドレスに付与されている訳が無い。



「と言うと?」


「……本当に知らないみたいだね。じゃあ説明すると」




 ノームが話し始めた内容にソフィアは驚愕する。まさかここまでの力が隠されていたとは——。




 ★★★★★




 ソフィアは、ノームからドレスの使い方を教えて貰うと上機嫌になっていた。

 上機嫌になっている理由は、もう一つあった。



「本当に”街”に行くの!?」



 まさか街に行けるとは思っていなかった。

 ソフィアにとって街はナーシャがこっそり買ってくれた絵本や小説に書いてある幻想だった。


 これがソフィアにとっての初めての街になる。様々な物が売っていたり、飾っていたりしてどんな風景が広がっているのかワクワクが止まらない。



「うん、ドワーフ王国を案内するよ!」



 嬉しくて堪らない。本当に街に出ても良い。こんな日がやってくるとは思ってもいなかった。


 街の中にはどんな姿をした民がいるのだろうか、全身鎧を着て過ごしているかもしれない、ソフィアみたいなドレスを着ているかもしれない……もしかした半裸かもしれない。


 様々な妄想をしてきたがソフィアは答えを得られなかった。



 ——だけども、これから正解を見る。


 ソフィアは、頭の中で一杯になった妄想を振り払ってノームの手を握ろうとした時だった。



「でも、その格好だと目立つから服を変えてもらっていい?」


「え」


「あとズーズンも行くなら首輪と縄ね。」


「クゥ……」



 まさかドレスが目立つとは考えていなかったソフィアは、せっかく返ってきたのにまた着替えないといけないのが面倒であるし、寂しくもある。


 ズーズンは、首輪と縄が嫌なのかソフィアの影に隠れている。



「どうしようかな——あ、これなんてどう?」



 ソフィアのドレスよりも地味な色合いをしたドレスを渡される。見た目は可愛いけども、ソフィアとしては茶色は着たくない。けれども、ここで我慢しなければ……。



「うん、わかった!」



 ソフィアは、街の魅力に負けてドレスを着替える。渋々、着替えてみたソフィアは、姿見の前に立った。



「——思ったよりも可愛い」



 茶色は茶色でも、クリーム色に近い色合い。そして胸元にある落ち着いた緑が良い。食わず嫌いならぬ、着わず嫌いはいけないと肝に銘じる。



 次はズーズンの番だった。


 ズーズンもソフィアが首輪を持つと首を差し出してきた。だけども、縄だけは駆け回って付けてくれない。



「ズーズン、言うこと聞ける?」


「……」



 ソフィアがズーズンを捕まえた。持ち上げて顔を近づけて確認しようとしたが、やっぱり言葉はあまり通じないのか外を見ている。


 やっぱり元は狼だったから縄で制御されるのが嫌なのかもしれない——ふとそう思ったソフィアは、優しく微笑んで抱えた。



「私が飼い主として責任を持って見ているよ」


「うん、そうしてもらって良い?」



 ソフィアは、ノームの了承を得て嬉しく感じる。これでやっと街に行ける……ソフィアは気が付いてしまった。


 初めての街なのに、お金を持っていない。あまりにも残酷な現実。だけども、ソフィアはそこまで落胆しなかった。




(見れるだけでも幸せ者だよね)



 これから行く場所は、完全な異界。ならば、一発目から冒険せずに、ここは街という今までと違う空気を堪能すれば良い。


 きっとドワーフ王国の後に行く魔皇帝の元でも街には行ける……もう、止める人々は居ないのだから。



「よし、行こう!」



 ソフィアは気合を入れ直して、ノームの方を見直した。瞬間、ノームが皮袋を手にしていた。



「せっかくだし向こうでもご飯を食べようか。ほら、少ないけどもソフィアの分ね」


「え……」



 ノームが持つ皮袋よりも二回りは小さい。けれども、そんな事はどうでも良い。ソフィアにとっては、今もカチカチとぶつかり合って鳴っている硬貨の方が気になってしまう。



「ごめんね、うちはあんまりお金を持ってなくて」


「あ、いや、ううん! 私は大丈夫だよ!」



 急いで目線を皮袋からノームに移す。これでは、自分が金の亡者みたいだとソフィアは考えを改めて拒否した。



「大丈夫だよ。これはお礼だから」


「へ? 私は何もしてないよ」



 ノームはお礼と言ってソフィアに押し付けてきたが、ソフィアの方が感謝してもしたりない位の恩を与えて貰っている。



「本当だよ——もし言うことを聞かないなら……」


「な、なになに……」



 ソフィアはノームの雰囲気が変わったのを感じ取る。もしかしたら怒らせてしまったかもしれない。



 ソフィアが怯えた仕草をしていると、ノームが笑い出した。



「何もないよっ! ほらソフィアの分ね!」



 皮袋を強引にソフィアの胸元に押し付けると手を離した。落ちていく皮袋を慌てて手にしたソフィアは、ノームの方を少しだけ膨れて見る。



「手にしたからソフィアの物ね!」


「もうー、強引なんだから!」



 ソフィアの反応が面白かったのかノームはまた笑い出した。その声に反応してソフィアはもっと頬を膨らませた。

次の更新は明日!

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