朝食
「起きて、ソフィア!」
「むっ……」
身体を大きく揺らされているソフィアは、まだ起きない。まだ夢の中に居る。
本来のソフィアは、朝が弱い。どれだけナーシャが起こそうとしても起きなかった。
何度か起きようと努力はしたけども、布団が離してくれなかった。ソフィアには絶対に勝てない敵だから仕方ないと諦めている。
そう思いながら、身体を揺らしてくる何者かを無視して寝返りを打つ。
「キャン!」
隣で寝ていたズーズンがソフィアの身体に乗って吠えている。ソフィアを強引に起こそうとしているのは伝わってくる。
だけども、低血圧で不機嫌なソフィアは、ズーズンが上に居ても強引に身体を動かして退かす。
「ソフィア!」「キャキャン!」
女の声とズーズンの吠える声が重なる。それがとても鬱陶しいと思った時、ソフィアの頭が少しだけ冴えてきた。
「あと少し……」
また寝返りを打って声から遠ざかろうとすると、ソフィアの上を乗り越えてズーズンが来た。何よりも【竜皇気】を切っている生身では、肉球は狂気に成り得る。
「うぐっ」
ソフィアが、呻き声を上げたのと同時にズーズンが顔を舐めてきた。眠気がある時に犬に舐められるのがどれだけ変な気分になるのか……ソフィアはこの一ヶ月半で学んでいる。
当然、ちょびっとだけ不愉快になる。
「もう、やめてズーズン」
ソフィアが布団の中に潜ると、ズーズンも強引に顔を突っ込んできて追撃をする。その強引さにソフィアは、根負けした。
「起きるよー!」
布団をガバッと取っ払ったソフィアの懐にズーズンが凄まじい勢いでぶつかってきた。あまりにも突然な頭突きにソフィアはお腹を痛める。
「うぐ! こら、ズーズン!」
またしても呻きながらズーズンを捕まえて持ち上げると、舌を出しながらハアハアと言っていた。自分が怒られているとは少しも思っていない顔にソフィアは、面白くて吹き出してしまった。
「ふふっ! もう突然来たらびっくりするでしょー」
ズーズンをギュッと抱きしめると、身体をグネグネとクネらせて脱出されてしまった。
あんなにも、かまってかまって! と攻めてきたのに起きたらこれだ……とソフィアは悲しく思う。
「おはよう、ソフィア。朝ごはん出来ているよ」
「あ、ノーム……おはよう」
いつの間にか”部屋の中”に居たノームに朝の挨拶を済ませると、辺りをキョロキョロ見る。まだ頭が完全に覚醒してないからか、全部を認識するまで時間が掛かってしまう。
そんなソフィアを見兼ねたのか、ノームが手を引っ張り出した。
「ほら、まずは歯磨きから済ませるよ」
「うん」
そのままノームに手を引っ張られながら、朝支度を全て終わらせたソフィアは、ノームに誘導されながら、ノームの部屋に入った。
「おへや」
「顔を洗っても眠いの?」
「うん」
椅子に座って、今にも眠ってしまいそうなソフィア。その時、ノックが響いた。
ノームが返事すると近衛兵が入ってきた。昨日出会った近衛兵は剣を持っていたが、今は銀色のお盆を持っている。しかも、六人も入ってきた。
お盆はソフィアの座高からは見えないが、湯気を立てているから何かすぐに分かった。
今思えば、昨日はクッキーしか食べていないからお腹が減ってくる。
遂に近衛兵の一人が机の前に立つとお辞儀してから机に皿を乗せる。
皿の中身は、黄色に一筋の白色が伸びているスープ——ソフィアが大好きなコーンポタージュだった。
「本日の朝食は、ドワーフ王国産で揃えてあります。メニューは、コーンポタージュ、特産サラダ、白パン、ベーコンエッグ、各種ウィンナーを添えてあります」
「はぁあああ〜!」
並べられていく料理の数々にソフィアは涎を垂らしてしまいそうなくらいだった。このまま我慢していては、空腹で死んでしまう。
想いが強くなっていく一方、お腹も鳴り始めた。遂に我慢の限界だ! と言いそうになった時、全ての料理が並んだ。
「では、失礼致します」
近衛兵が居なくなった瞬間に、ソフィアはノームの方を見ると少しだけ笑っていた。多分、苦笑いのように見える。
「どうぞ、食べて食べて!」
ソフィアは自然と口角が上がって笑顔になる。けれども、浮かれすぎなのもいけないと思い、一応、ズーズンの方を見るといつの間にか食べ始めていた。
「いただきます!」
ソフィアは、スープから口に運ぶ。久しぶりのスープにソフィアの手元は震えてしまっている。こんな料理と言える食べ物はあまりにも久しぶりだった。
ここまで想ってしまうのだったら、昨日の段階で駄々を捏ねて夕飯を食べればよかった……その前に何かあった気がする。けれども、思い出せないからソフィアは料理に集中する。
遂に口の中に入れた。
コーンの芳醇な味わいだけでなく、クリームの濃厚が広がっていく。
あまりの衝撃にソフィアはニヤけてしまいそうになるが、グッと堪える。ここでニヤけては、最後まで持たない。
次にサラダを食べた。これまたサラダも絶品。新鮮さだけでなく、しっかりと野菜の甘みを感じる。野草みたいな雑味も苦味も無い。しかも、ドレッシングまである。
これほどの贅沢が許されていいのか……王族だから良い!
ソフィアは、サラダを淡々と口の中に運んで咀嚼して飲み込んだ。
待ちに待ったベーコンエッグとウィンナー。
どちらも宮廷で住んでいた時も食べる機会が無かった料理。名前だけは知っていたが、ナーシャが頑なに許してくれなかった。
それを今から食べると思うと——ニヤけてしまう。
「楽しそうだねソフィア」
「そ、そうかな!」
恥ずかしさから、そそくさとウィンナーを切って食べた。
あまりの衝撃にソフィアは止まる。こんな食べ物がこの世に存在していたのか、驚きを隠せず、片手で口を隠しながら呟いてしまった。
「お、美味しい……」
「喜んでもらえて良かったよ」
「とっても美味しいよノーム ありがとうね!」
ソフィアは、自分が出来る最大限の笑顔を向ける。すると、ノームはフォークとナイフを置いて、ニッコリと笑い返してくれた。
ノームも楽しそうにしている。″昨日″から仲良くなった二人は食事を楽しんだ。
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