黒薔薇と約束
久しぶりの紅茶とクッキーを心から堪能したソフィアは、ノームの言葉通りに宮廷を案内してもらっている。
廊下を巡り、応接間、調理場、お風呂場、更には晩餐会の会場に、国賓を迎える為の部屋などなど、ソフィアの手を握ってノームは案内してくれる。調理場の時に飢えたズーズンがずっと吠えていて、ソフィアは申し訳ない気持ちになっていた。
宮廷の造り事態はソフィアが住んでいた宮廷に似ている。けれども、調理場の位置だったり、トイレやお風呂場の位置だったり、様々な部分で違う。けれども、どこか懐かしい雰囲気を感じる。
特に注視しない所に使われている細かい装飾が家に似ている——というよりも同じだった。
「ねえねえ」
「どうしたの?」
「この装飾もドワーフ製?」
目についた窓の縁を指差して聞いてみた。この窓も家のと同じだった。
「うん、そうだよ?」
「やっぱり我が家はドワーフが関わっているとみた!」
「え?」
この細かい装飾や美術品の数々、どれも一緒というのはあまりにもおかしいが、ドワーフと竜族は密接な関係があるならば話は違う。
先程ノームがアングラに話していた言葉を思い出しながらソフィアは納得し始めた?
ソフィアは、一人でうんうんと満足げにしているとノームがボソっと呟いていた。
「……やっぱり王族」
「何か言った?」
「え、あ、ううん! 何でもないよ! じゃあ次は自慢の中庭に行こう!」
何事も無かったかのようにソフィアの手を引っ張ってスタスタと歩いていくノーム。
ソフィアはどんな風景が広がっているのか妄想しながら階段を降りて行く。
一階に着くと、ノームの引っ張る力が強くなった気がする。それだけノームは、中庭を見せたいという意思が見え隠れしていた。
「ほら、みてみて!」
突然、ノームが走り出した。【竜皇気】を使っていないソフィアにとっては少しばかり速い。
慌てて付いて行くと廊下を抜けた先に拓けた場所——中庭が見えてきた。
「わあ!」
中庭は多種多様な花が色を見せている。それだけでも凄いのに、本当に驚いたのは、全てがバラという所だった。
様々なバラが色を成している。どれも均一な大きさを持つ花びらは、均等だからこそ率直な美しさを表現している。
バラは中庭の外側に白、内側に進め進むほど明暗が変わっていき、最終的には黒に近づく。
「ソフィア、こっちこっち!」
この場には情緒が溢れているとノームに手を引っ張られながらソフィアは思う。そして向かったのは、中心にある噴水だった。
「……綺麗」
噴水を囲むように咲いている真っ黒なバラ。光を吸収しそうな黒色のバラにソフィアは瞳が吸い込まれてしまいそうになっていた。
あまりにも綺麗な黒色のバラ。どうしてここまで素敵な色味を……ただ単なる黒なのに深みを出せるのか……ソフィアは感慨深かった。
「このお花はね、竜族とドワーフ族の協定を記念して埋められたんだよ」
「協定?」
ソフィアの言葉にノームが頷いた。まるで、ソフィアに対してお辞儀をしているのかと錯覚してしまいそうになるほど深く。
「魔族にも人間族にも半魔は良い顔されない。だから、昔は両方から侵略を受けていたの……だけどね、バーニック魔竜王が20年前に救済してくれたんだ」
ソフィアは、固まった。
まさか父親の名前を聞くとは思わず、立ち止まる。まるで時が止まったのではないかと錯覚してしまう程の驚愕。
「救済後、陛下はこう言ってくれたの『この黒バラの花言葉は、永遠を意味する。つまり、竜族は何があっても貴方達の味方で居ましょう』」
「——そうだったんだ」
ソフィアの中で、一筋の光となって繋がった。
どれもこれも見た事がある品々ばかりだと思っていたが、ドワーフ族との間に友好関係があったんだ。
それは先代魔王が残した遺産とも言えた。
「そ、ソフィア!?」
ノームが驚いていた。慌ててソフィアに駆け寄ってハンカチを取り出してきた。
「え?」
「涙が……」
ソフィアは気が付かないうちに涙を流していた。だから、ノームは近づいて涙を拭いてくれた。
「ご、ごめんね」
「クゥ……」
ノームが涙を拭いてくれた瞬間にズーズンが近づいて身体を擦り付けてくれる。その優しさに包み込まれそうになった時——。
爆発音が聞こえた。
空気を揺らして小さな地鳴りを起こした。その瞬間、ソフィアは【竜皇気】を展開してズーズンを抱っこして、ノームの目の前に立った。
「ソフィア、大丈夫!?」
「うん、私は大丈夫! ノームは?」
「うん、うちも!」
ズーズンもソフィアの腕から這い出て魔狼王と変身した。ノームが目をパチクリして驚いているが、今はそれどころではない。
「ノーム様!」
慌てたアングラが廊下を走り抜けて中庭に来た。この慌てぶりから異常事態だとソフィアは感じる。
「何が起こったの?」
「そ、それが……使われていない鉱山で爆発が起こりました……!」
「その……鉱山ってさっきの」
ソフィアは先ほどの話を思い出しノームに問い掛けると目が泳いでいた。この反応からして明らかにソフィアを助けてくれた場所に違いない。
どうしても爆発したのか分からないけども、原因にノームが関係しているのは間違いないかもしれない。
「あー、色々と話をするには現状のドワーフ王国に付いて話そうかソフィア」
「え、うん?」
そういってソフィアの手を取って連れて行かれる。その時にズーズンが大型犬の大きさになって唸っていたが無理やり子犬に戻して抱っこした。
「も、申し訳ありませんソフィア様。先ほど聞き忘れていたのですが、そちらの犬はなんでしょうか?」
「この犬は、ズーズンです。大きな狼になれるだけなんで気にしないでください」
サラッとソフィアは言った。嘘は付いていないが、詳細は細かく話さない。
元魔王の狼なんですと話しても伝わるはずが無い。それならば完結的な話にした方がいい。
「——左様ですか。では、話される場として」
「うちの部屋で話すからいいよ爺や。紅茶だけ準備してもらえる?」
「かしこまりました」
そう言ってアングラは宮廷の中に戻って行った。ソフィアは、アングラが怯えた瞳をしていた気がしたが、今は何も知らないふりをした。
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