皆の行方
ズーズンを引き剥がしたソフィアは、たっぷりとズーズンを叱りつけた。その際に尻尾が垂れ下がっていたが、そんなのは関係ない。
「ノームが無傷だったから良いけども、次やったらもう許さないからね!」
「クゥ……」
「甘えてもダメ!」
ソフィアに寄り添おうとしたズーズンだったが、一喝されてしまい後ろを向いた。
あまりにも哀愁が漂う背中にソフィアは可哀想になってしまう。やはり飼い犬が噛んでしまうのは、飼い主の責任だと心に打ち付けて考えるようにした。
「うちは大丈夫だから、気にしないで!」
「で、でも……」
ソフィアが心配そうにノームの手を見ているとニッコリと笑顔を向けてくれた。
それだけでも救われる気持ちにはなるが、家に泊めてくれただけでなく——そういえばソフィアは何でこの場にいるのか聞いていなかった。
「——今更だけども、どうして私はここにいるの?」
「そういえば話して無かったね!」
ノームは天真爛漫なまま話し出した。
「まず、うちがいつもの様に宮廷を抜け出していた時——」
ソフィアは今の言葉が気になってしまうが、話の腰を折らない様にジッと我慢して聞く。
「あ、まずここは地下!」
「は?」
ソフィアはあまりにも変な話に首を傾ける。
窓の方を見ると燦々と輝いている太陽と緑豊かな木々が見える。更には長閑に鳥が飛んでいる。
こんなにも素晴らしい景色が見えているのに、青空が無いなんて可笑しい。その証拠に綺麗な青空が広がっている。
「地下って」
失笑してしまいそうなソフィアの手をノームが取る。そのまま手を引っ張って窓に連れて行かれた。
「ほら、あそこを見てソフィア」
「ん?」
ソフィアはこっそりと【竜皇気】を発動して視力を上げた。そこに見えた物にソフィアは度肝を抜かれる。
青空の遥か奥に洞窟を思わせる突起物が見える。それは鍾乳洞だったり、単なる岩だったりしている。
あまりにも現実味が無い光景だが、ゴガガを倒したソフィアにとっては不思議では無いと感じてしまった。慣れとは怖い。
「すごい、本当に地下なんだ」
「そうでしょ? ここは、土龍の力で作られた地の領域——別名、ドワーフ王国だよ!」
また天真爛漫な笑顔がソフィアを迎え入れてくれた。
その笑顔はとても華やかな物に見える気がする。だけども、あまりにもぎこちない表情な気もしてしまう。
ソフィアはノームを心配してしまうが、きっと気のせいだと思い、笑顔で返した。
——その時、ふとガラスに映った自分の顔を見てソフィアは驚愕する。
ノーム以上に口角がぎこちなく動いていて、まるで人形みたいな顔をしていた。
その様子を見て、また赤面してしまう。
「だ、大丈夫ソフィア?」
「うん、大丈夫大丈夫」
突然、蹲ったソフィアにノームが声を掛けてくれる。それが余計に恥ずかしい。
「よかった……それで痛い所は無い?」
「うん! 平気!」
恥ずかしさのあまり声が大きくなってしまったが元気! というイメージを持ってくれれば良いかな、くらいにソフィアは思う様にした。
「そう——さっきの話に戻るね」
どんな話をしていたのか忘れていたソフィアは何も言わずにノームの言葉に耳を傾ける。
「えーと、宮廷を抜け出した所だよね。その後、趣味の洞窟探検をしていた時」
話の始まり方から、ソフィアを助けてくれた時の話だった。随分とソフィアのせいで話が切り替わってしまい、申し訳ないと思いながら相槌を打つ。
「うん」
「突然、地上から爆発音がしたんだ! あまりにも大きな音で驚いていたんだけども——興味が沸いてそっちに向かった!」
「……すごいね」
少しだけ引き気味で聞いたソフィアなのだが、爆発音という所が引っ掛かる。
「向かったら……何と黒い水みたいなのが、ドバドバと垂れてきたの」
「え、あ、」
「なんとその水が鉱石に触れた瞬間、鉱石が水に沈むみたいに消えていったの!」
(ああああああ!)
ゴガガ戦の最終局面の記憶が薄っすらと残っているソフィアは、心中で謝る。
あの時、変な声が聞こえてきたと思ったらソフィアを中心に重量感を持った影が生み出せれていき、周辺の物を沈ませる様に消してしまった。
その声が誰なのかどうしても思い出せないソフィアは、ノームに対して顔を伏せる。
「あ、大丈夫だよ! すぐに消えちゃったから!」
ニコニコと笑ってくれるノームの表情が物凄く心を痛ませる。
「それから……一時間くらいかな? ズーズンがソフィアを乗せて降りてきたの!」
その様子を興奮気味に話すノーム。そしてソフィアは、隅っこでいじけているズーズンを抱っこした。
「ズーズンが私を助けてくれたんだね」
優しい手つきで頭を撫でるが、そっぽを向いてしまう。けれども、尻尾は凄まじい勢いで振っていた。
「そうそう! そこでズーズンが……うちに向かって吠えたんだ! 多分助けてとかなんとかだよね、うん、そうだよね!」
あまりにも興奮しているのか話し方が少し変わっている——いや、何かを気にしている話し方にソフィアは首を傾げそうになるが、助けてくれた事実は変わらない。
「そうなんだ、ありがとうノーム。それにズーズンも、とってもありがとうね」
「キャン!」
ズーズンも許してくれたのか尻尾を振りながらソフィアの顔を舐めようとしてくる。大興奮しているのか、何度も吠えていた。
「……ううん、うちはたまたまそこに居ただけだから」
笑顔満載なのにどこか儚い。そう思わせる笑顔にソフィアは虜になってしまいそうになる。なんだろうか、アシュバを——。
「あ、アシュバは!? ドゥクスにガビーは!?」
辺りを見渡しても当然居ない。窓から飛び出す勢いで身を乗り出して、目を見開いて見渡すがその様な面影はない。
「ねえ、ノーム!」
「はい!」
「小悪魔と、うーんと大きいのと小さい魔猪が居なかった!?」
「うちが見つけたのは、ソフィアとズーズンだけだったよ」
ノームの返事を聞いてソフィアは窓から飛び出した。どこに向かえば良いのか分からないけれども、居ても立っても居られない。
ソフィアが見つかった洞窟で生き埋めになっているかもしれない。
すぐさまソフィアは【竜皇気】を”全力”で展開しようとした時、ズーズンの遠吠えが響く。
何か言いたいのだろうと分かるソフィアは飛び降りた窓を見る。すると、ズーズンを抱えたノームが身を乗り出していた。
「ソフィア!」
「私を見つけた洞窟はどこなのノーム! 早く見つけないと!」
「……ズーズンが言うには、ここには居ないってよ」
「……言葉がわかるの?」
今のソフィアは、本気の【竜皇気】を身にまとっている。この純白と石を組み合わせた宮廷くらいならば一撃で粉砕できる自信がある。それだけでなく、特別な皆のためならば——という思考回路になる。
もしここでノームが無駄な嘘を言っているのならば、ソフィアは理由次第では本気の拳を振るうかもしれない。そう感じた時、ノームの瞳を見て、深呼吸した。
その瞳は、ソフィアを心配している慈愛の瞳をしていた。どこか弱き者を守ろうとする——そう、ナーシャみたいな瞳をしていた。
「すぅ……はぁ……ごめんなさい。私、何も聞かないで飛び出して」
「ううん、大丈夫だよ。それでね、ズーズンの言葉は、ざっくりだけども分かるんだ」
窓に向かって跳ぶ。難なく部屋の中に戻ってきたソフィアを見て、ノームは驚いていた。
「それでズーズンはなんて?」
「んーとね、アシュバとドゥクス、それにガビーは、闇の領域に避難したって」
その言葉を聞いてソフィアはその場に座り込む。そして気が付いた時には、涙が溢れていた。
「無事で……本当によかった」
溢れてくる涙を拭こうとしても、次々と出てくる。すると、ノームが隣に座って優しく抱きしめてくれた。
そろそろ気付くと思いますが、本来のソフィアは泣き虫です
次は明日!




