地下王国・ドワーフ
ソフィアは目を覚ました。
「ねむ……」
ふわふわの布団に身を包みながら疲れが残っている身体を起こそう——と思ったがやめた。どうせ、まだ起こしに来ないだろうからもう少しだけ寝よう。
そう思った時、今まで何をしていたのか脳裏を過る。
「……! ガビーは!?」
勢いよく起き上がったソフィアは、ベッドの上に立って辺りを見渡した。
ここはゴガガと戦っていた森の中ではない。ソフィアが住んでいた焼け焦げた広場ですらない。
見渡した部屋は、ソフィアが宮廷で過ごしていた部屋に似ているが別の場所だ。
「な、なにここ?」
大理石を基調にした机の上には、紅茶とクッキーが置かれている。まさにソフィアが住んでいた部屋みたいに過ごしやすさが見て分かる。
その時、ソフィアの目が熱くなった。気がつくと一筋の涙が零れ落ちた。
「あれ、おかしいな……」
ソフィアの中で情景となって一ヶ月半前の惨劇が目に浮かんだ。
もし今までの経験が夢だったのなら……そう考えてみたが、机に置いてあるナーシャとソフィアが描かれている絵が無い。
その時点で、ここは別の場所で、現実だと分かってしまう。
「クゥウ」
ソフィアが涙を拭いて現状を整理しようとした時、ベッドの中から子犬の甘える鳴き声が聞こえてきた。
その声に聞き覚えがあるソフィアはすぐさまベッドに飛び込む。
「おはようズーズン!」
「ヌン!」
ズーズンが尻尾を振ってソフィアの懐に入る。その際にソフィアの頬を舐めてきた。
すぐ甘えてくるズーズンの仕草を可愛く思うソフィアは、話しかけた。
「ズーズン、ここがどこか分かる? ——ワカラナイヨ、ソフィアチャン!」
勝手にズーズンに声を当ててみるソフィア。ズーズンはソフィアが起きて嬉しいのかずっと尻尾を振りながら顔を舐めてくる。
「ズーズン、何を言ってるのもうー!」
嫌な空気を壊すため、その場の雰囲気を楽しんだソフィアは、もう一度見渡した。こんな事をしていた時に本来の住人が戻ってきたら恥ずかしくなってしまう。
ノックの音が聞こえてきた。
唐突な音に肩を浮かして驚くソフィアは、反射的に布団に包まった。そのまま隙間から扉を注視しながら言葉を投げかける。
「はい!」
「あ、起きたんだ!」
元気な女の子の声が扉の外から聞こえてきた。そしてゆっくりとドアノブが回り、扉が開かれる。
「おはよう!」
ソフィアよりも少しだけ大きな女の子。髪色が仄かに赤いのと、服の上からでも分かる薄っすらとついた筋肉。その筋肉も褐色肌だからこその肉体美。
「お、おはよう?」
ソフィアは今だに掛け布団の中から視線だけを動かして女の子の方を見る。その時、ズーズンが吠えた。
「キャキャン!」
ズーズンの声からは、緊張が伝わってこない。それどころか親しい雰囲気すら感じてしまう。つまりは、現状は悪い魔族ではないと分かった。
「貴女が助けてくださったのですか?」
「そうだよ! そしてうちはノーム! ドワーフ族のノーム! 敬語とか要らないからね!」
元気な女の子——ノームは、ソフィアにそう言った。すかさず掛け布団を取っ払ったソフィアも、声を張る。
「わ、わちゃしは……私はソフィア!」
噛んでしまって顔が真っ赤になってしまった。同年代だろう女の子とこんなにも近くで話すのは初めてとても緊張している。
赤面しながらドワーフ族が何だったかナーシャに教えてもらった知識を思い出す。
(確か……精霊族の土属性と人間族の半魔だったけ?)
精霊族は多岐に渡って存在する。中でも五大精霊族と言われている属性が、火・水・土・風・木と言われている。その全てが見た目は人間族に近く竜族とも共通している部分がある。
特徴も存在する。
人間族に比べて背丈が小さく、丸い。そして竜族よりも力が弱い。
あまり良い特徴ではないが、良い部分もある。小さい分、手先が異常なくらい器用である。
その精霊族土属性——通称・土族と人間族が禁断の恋に落ちてしまった。
本来ならば極刑モノだったのだが、今よりも人間族と仲が悪い訳ではなかったから、ドワーフ族として繁栄してきた。
その後、皮肉にも土族を含めた精霊族は人間族によってほとんどが滅ぼされてしまったが、現精霊族魔王が生まれてからは環境が変わったらしい。
ここで本題になるのだが、ドワーフ族はどういった種族なのか。
そう考え出したソフィア——は、残念な事に覚えていない。そこだけポッカリと穴が開いてしまった様に知識が無い。
「え、えーと」
人間族が大嫌いなソフィアでも、半魔は関係ないと知っているから穏やかな顔で向かえようと思ったが、同年代の女の子に対してどのような顔をして良いのか分からない。
「ソフィア?」
その時、ノームから声が掛かった。身構えていても驚いてしまう。
「え、な、なに?」
「そのパジャマのサイズ大丈夫だった?」
「え?」
ソフィアは今更になって気がついた。
今まで着ていたのはドレスではなくて首元にフリルが付いている純白のワンピースを着せられていた。
ソフィアの背中に冷や汗が出てきた。
あのドレスは、本人の許可が無ければ決して脱げない造りになっている筈なのに、ワンピースに変わっているのはおかしい。
「の、ノームが着せてくれたの?」
「うん、そうだよ……あ、へ、変なことはしてない!」
ノームが両手を出して否定するが、ソフィアにとってはそんなのはどうでも良い。それよりもどうやって脱がしたのか気になる。
「……どうやって?」
「え?」
「どうやってドレスを脱がしたの?」
ソフィアの言葉には隠された殺気に近いものがある。本来はそこまでじゃないが、ここが魔竜国ではない時点で危険が訪れる可能性がある。
もしかしたらこの場で【竜皇気】を発動させてノームを倒さなければいけない。
「それは」
ノームの声を緊張しながら聞く。どのような結果になっても良いようにこっそり【竜皇気】を発動させながら。
「普通にだよ?」
ソフィアに対して「何をいっているんだこいつは」という含みを感じる。もしかしてドレスについてナーシャが教えてくれたのだが、冗談混じりだったのかもしれない。
「あ! もしかしてドレスの話? ”竜人族”だから知っていると思ったけども、あのドレスはドワーフ王国製だから、外し方も分かるよ?」
「え、そうなの?」
ノームの早口で説明されていく。
ソフィアは【竜皇気】を消してノームの話を聞くことにした。
「うん、本来は本人だけだけども、ドワーフ王国には本人ですら脱げなくなった時の為に極秘の外し方があるのですっ!」
「そうなんだ!」
ノームの自信がある話し方に直ぐに納得したソフィア。その横でズーズンがノームの方に近寄る。
「ズーズンも回復してよかった!」
ズーズンの頭を撫でているノームに、ズーズンは尻尾を振って応える。なんだが、ソフィアよりも仲良しにしてそうで嫌な気持ちが少しだけ出てきた。
「ところでなんでズーズンの名前を知っているの?」
「え、それは本——きゃっ!」
ノームが何かを言おうとした瞬間に、ズーズンの牙がノームの手を噛んだ。
「グゥウウウ!」
「なんで怒るのズーズン!」
すぐさまソフィアがズーズンを抱っこすると涙目のノームが「ごめんごめん」と謝っていた。
何故か物凄く怒っているズーズンを宥めるのに、緊張感が少しだけ和らいだ。
今日から第2章です!
次の更新はあす!




