最終決戦 ゴガガ
「んぁ”あ”あ”!!」
突然の衝撃に全身の骨が軋む。このタイミングで疲労が上限に達してしまい、【権能】が強制的に解除された。
ソフィアを潰そうとしてくる枝が、更に追い討ちを掛ける。圧倒的な重量の中で、ソフィアの贓物がグチャリと鳴った——気がした。
「あ”あ”あ”ッ!」
今まで感じた事の無い絶望的な痛み……もはやそれは痛みではなく異様なまでに熱く感じていた。
痛みが上限に達したのか、意識が朦朧とし始めた。
(な、なんで……ここで……)
自分ならゴガガに勝てる。そう信じていたのに、まさか後一歩で足りなかった。やはり何年も支配してきたゴガガに勝つのなんて夢物語……だったのかもしれない。
「『——闇の者よ』」
突如、声が響いた。
朦朧としていて今にも消えてしまいそうな意識にどこかで聞いた声が——聞こえてきた。
「『竜の力を解き放つ』」
「何……を」
言っているんだ——そう言おうとした時、ソフィアの意識が完全に途切れる。
★★★★★
景色が変わった。
ソフィアは真っ黒な視界の中でひっそりと思う。先程まで何をしていたのか分からない。だからこれは、場面が何度も切り替わる夢のなのだと。
「『闇の者よ』」
「貴女は?」
「『我が名はソフィア。闇竜ソフィアだ』」
ソフィアはもう一人の自分にそう言葉を掛ける。果たしてこの自分はいつからここに居たのだろうか。そもそもソフィアなのだろうか。
「『偉大なる【闇の領域】の支配者——昔の話だがな』」
★★★★★
ソフィアはそこで目を開けた。気が付いた時には頭いっぱいに憎悪が埋め尽くされていた。
「この枝……邪魔」
ソフィアが手を軽く振るう。すると、押し付けられていた枝が——消え失せた。
声を発しなくなったゴガガから機械的な悲鳴が聞こえた気がしたが、ソフィアは気にせず一歩前に出る。
どうして消え失せたのだろうか。どれだけ考えても分からない。そもそもその思考など全てが鬱陶しい。
ただ目の前にいる枝を消滅できるのならばそれでいい。
その思いでソフィアはまた一歩前に出る。
「……消えて」
蠢いて迫ってくる枝に手を向けた。すると、ソフィアの影が伸びて枝を飲み込む。
沈んでいく枝を見ながらソフィアは思う。憎しみに埋め尽くされているソフィアは、全ての枝に対して死んで欲しい……と。
その時、口が勝手に開いた。
「【権能解放・闇の領域】」
ソフィアが口にした言葉はずっと住んでいた魔皇帝の領土を意味しているただそれだけの言葉。なのに、その瞬間、ソフィアの影から大量の影が広がって行く。
辺り一面を暗黒で覆い尽くした影が枝に纏わりつくと一瞬で沈み、消滅した。
どのような力なのか分からないが目の前の枝が綺麗さっぱり消えていて爽快な気分になる。
空を覆い尽くす枝から降り立ったソフィアは、怒りに任せて枝に向かって叫んだ。
「全部——消えて!」
ソフィアの声に反応して影が、暗黒宮の空を登って枝に到達した。そして枝に触れると、その場で沈むように消え始めた。そういう原理になっているのか分からない摩訶不思議な光景にソフィアは、ズーズンが行なった権能を思い出すが……。
(——あれ、ズーズンって誰だったけ……どんな”魔族”だっけ)
影は、そのまま凄まじい勢いで飲み込み出している。枝に飛びついていく影に、ソフィアはそっと手を向ける。そうするとピタッと止まった。
ソフィアが手を指揮者のように真横に動かす。たったそれだけで水のように動いていた影が、剣の鋭利さを持って通った。
剣の軌跡の様に飛ばされた影が枝に触れると、切断され、沈み、消えた。
「機能回復。損傷95% 大賢者様・送……」
「うるさい!」
ソフィアが声がする方向に手を向ける。ただそれだけで影が動き出して森の一部を消し去った。
ソフィアは更に影を動かそうとした時、足元が突然動き出した。
地面からあまりにも巨大な根——いや、枝の群生がソフィアを押し退けて現れようとしている。まさにこの群衆が残り5%なのだろう。
「【森林魔法・神々の慈愛】」
ソフィアが影を動かすと、枝が緑色に発光していた。そのまま凄まじい速さで再生し始めただけでなくソフィアに纏わり付くように枝が動き出したが、足元の影に触れると沈んでいる。
その光景に怒りを覚えたソフィアは、拳を作って放った。瞬間、足元の影がソフィアの拳に憑依して暗黒の籠手を作り出す。
「邪魔、消えて!」
緑の発光に影がぶつかると地鳴りを起こした。どれだけの衝撃だったのか分からないソフィアは、更に拳を押し付けると、籠手になっていた影が喰らうように飛びついて発光する枝を消した。それだけで終わらず、影は地面すらも消し去ってしまった。地面にポッカリと開いた穴はどれだけ深いか分からない。
ソフィアは、影が空中に待機して自分を支えてくれると無自覚に知っていたから軽い動作で自分の影に乗った。
ゴガガのよく分からない魔法にどんどんと怒りを覚え出した。
「邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔! 全部、全部が邪魔なの!」
ソフィアが叫んだ瞬間、今も沈ませて消滅させている影が足元に集まった。
「全部、消えちゃえ!」
そうソフィアが言葉にした足元に溜まった影が水飛沫のように全方向に飛んだ。影は地面、木々、空の枝など無差別に沈ませる。更に沈ませた場所が新しい影となってまた弾け飛ぶ。まさに侵食して全てを消し去ろうとしていた。
刹那、目の前に親指程度の球根が落ちてきた。すぐに捕まえたソフィアは、徐々に力を入れていく。
「竜・原初顕現・対処不可能・創造主・送信不可能・権能解放・失敗。コア・消耗・最終防壁崩壊・自爆失敗・ゴガガ機能停止数秒……」
「お前さえ居なければ、お前さえ来なかったらこうならなかった”勇者”!」
再度、集まってきた影に対して球根を握り締めた。
「大賢者様応答不可能・ゴガガ完全消」
刹那、ゴガガはソフィアに粉砕されて、影に飲み込まれ、この世から消えた。
ソフィアは、ゴガガが親指程度の球根で枝や植物に寄生して支配する植物型ゴーレムと知る事はない。今は冷静に物事を見るよりも怒りに任せて、幻覚の勇者に向かって影を飛ばす。突如、ソフィアが叫んだ。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ” !!」
頭がかち割れてしまいそうな痛みが襲ってくる。この痛み、この言動、どれもソフィアとは思えない行動に身体が……いや、ソフィアの根本が否定を始めていたからだった。
「『決して逃れられない破壊竜の衝動。全てを忘れて、殺そうとする本性が……ソフィアだ』」
また響いていた声が終わった瞬間、ソフィアは意識を失った。足場になっていた影も同時に消えたせいで、ソフィアは底が見えない穴に落ちていく。
★★★★★
ソフィアが見えない穴に落ちていく最中に子犬が飛び込んできた。
胸元に背中を押し付けて、子犬は懸命に叫んだ。
「キャキャン!」
一瞬で魔狼王と大きさを変えた子犬——ズーズンは、ソフィアの位置を調整して背中に安定させると……静かに穴に落ちていった。
明日で第1章は終わりです!
今回は、ソフィアの隠された力の一片をお見せしました。またこの力に付いて詳細は本編で。
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