守る者、守られる者
球体の中からガビーの声が響くように聞こえてきた。
ここまでソフィアがやってくるのは有り得ない——まさにそう感じさせる声。
「なんでこの場にソフィー様が」
声には色んな感情が入っている。
驚愕、困惑、激怒……そして大半を占めているのが、否定。
ガビーの感情を感じてもソフィアにとってはどうでもいい。大切なのは一つだけだった。
「迎えに来たよガビー」
「そ、そんなのいけません。私はソフィー様を裏切っただけでなく、殺そうと……しました」
ガビーの拒絶が濃くなった途端、足の痛みが強くなってきた。まだ耐えられる痛みではあるが、これ以上になってくると辛くなるが、それがどうした。
「……何から話そうかな」
ソフィアは深呼吸をしてから優しくそっと話しかける。
「まず自己紹介からね! 私はソフィア・メルクク・ドルドレイド。ソフィアと呼んでくれたら嬉しいな」
「そ、フィア様?」
ガビーはやっと気が付いた。目の前にいる存在はソフィーではなくてソフィアだという事を。
「うん、私はソフィーじゃなくてソフィアだよ。名前は似ているけどね」
ニッコリと笑ったソフィア。
ガビーの球体が大きく揺れる。
何を意味しているのか分からないが驚いている事は間違いない。また、ガビー自身を否定しているともソフィアは思った。
「……そんな、だって……ソフィー様と一緒で……まさか、私は……!」
ガビーの小声が聞こえてくる。
次の瞬間、ソフィアの足に猛烈な痛みが走り抜けた。あまりの痛みに声が漏れ出てしまう。
「……っ!」
「私はもっと、もっと、もっと、犯してはいけない罪を!」
球体の色が赤黒く変わり出した。
更にソフィアの足に突き刺さる痛みがどんどんと増えていき、連続的に痛みが発生している。
「ソフィー様に二度も…………あぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
ガビーは発狂した。
心配したソフィアが球体に触れようとすると棘が突き刺そうと飛び出してくる。
この一撃を手に食らってしまった。
【竜皇気】を飛び越えて猛烈な痛みが走り抜けた。
膝をついてしまいそうな痛みにソフィアは下唇を噛んで堪える。
「大丈夫。落ち着いてガビー」
「いけないいけないいけないいけない! 私は、私は、私はあああああ!」
ソフィアの声が届かない。だからこそ、ソフィアは棘だらけになった球体を抱き締めた。
その瞬間、全身に痛みが走り抜け気絶してしまいそうだったがグッと堪えた。
「大丈夫だよ、ガビー……私は居るよ」
「私は、私は……」
ソフィアはガビーに語り掛け続ける。
とにかくガビーがソフィアの声を聞いてくれるようにただ真摯に声をかけ続けると……ガビーの声が聞こえなくなった。
「大丈夫、大丈夫だよガビー……落ち着いたかな」
「……ソフィ……ア様?」
やっと聞き返してくれた。
「安心して、私と共にここを出よう?」
「……ダメです。私がソフィア様と一緒に居たら……傷つけてしまいます」
ガビーは涙声のまま話している。
ソフィアは、血だらけになりながらも懸命に——ただ純粋に話した。
「ガビーは知らないみたいだね」
「え、」
満面の笑みを浮かべたソフィアはこう言った。
「私はとっても強いんだよっ! それこそガビーが心配しなくても良いくらい強いんだ!」
ソフィアは、子供の様な目一杯に元気な声で言う。
ゴガガを——いや、ガビーを倒した時を思い出しながらソフィアは力強く言い切った。
「だから、心配はいらないよ! ほら、前を向いてガビー!」
「ですが……」
ガビーは躊躇っていた。本当にソフィアの元に行っていいのか。その様にソフィアは感じ取る。この球体から出てこれるなら、ソフィアがどうにかするから……出てきてほしい。
その想いでもう一度、言葉を掛ける。
「戻っておいでガビー。何がっても私が、どうにかするから!」
あまりにも頼りない言葉。だけども、ソフィアにはこれ以上は思い浮かばない。
どれだけ言葉を飾っても、ソフィアの口では伝わらないそう感じたからだった。
その言葉と同時に球体が開く。
ちょうど抱きしめていたソフィアの胸元にガビーが入り込んだ。
「ソフィア様は、やっぱりソフィー様です」
「ふふ、おかえりなさいガビー」
胸元に入り込んだガビーをソフィアはギュッと抱き締める。
力強くと優しさを持って、最大限の愛情を持ってソフィアは抱き締めた。
「……ありがとうございますソフィア様!」
ガビーの目には涙が溢れていた。それをそっと手で拭ってあげると、突然、手を取られる。
「ソフィア様の手が血だらけに!」
「……コケちゃっただけだよ。ほら、早く洞窟に戻ろう」
「うそです!」というガビーの声が聞こえてきたがソフィアは無視して来た道を強引に戻る。
——と思われた時、またしても声が聞こえた。
「ガビーの拘束が完全に外れました。魂の蘇生による妨害です。全権限をゴガガに移行しました」
ソフィアはこの声を絶対に忘れない。
散々苦しめられていた声がガビーが入っていた球体から聞こえてくる。その球体も開かれた状態から徐々に戻っていった。
「ゴガガ……」
「【森の領域】の崩壊を確認しました」
ゴガガの声が響き続けるとガビーがソフィアの裾を掴んだ。その手は恐ろしく震えている。
ガビーの手を優しく包み込んでソフィアは声に出した。
「ガビー、先に戻ってて」
「ソ、ソフィア様は!」
「私は、ゴガガと決着をつけるよ」
ガビーが首を大きく横に振った。しかし、ソフィアはもう一度だけ言う。
「ガビー、私は誰にも負けないくらい強いよ。それに……会いたい方が居るでしょ」
「……分かりました」
ガビーがソフィアの裾を名残惜しそうに離した瞬間に、球体から枝が飛ばされてきた。すかさず掴み取り、へし折ったソフィアは、ゴガガに視線を動かした。
「その球体が本体だったかなゴガガ」
「再度、竜を感知しました。【権能】を略奪します」
ソフィアはゴガガに向かって走り出す。先ほどの痛みを覚悟していたが、何も痛くない。
それどころか穴が開いたはずのドレスは無傷だった。
あの痛みはガビーの心情による精神攻撃だったという嬉しい誤算だ。
これで気にせずゴガガを倒せるとソフィアは、本気で構える。
ソフィアが構えた瞬間、目の前の球体から枝が飛び出してくる。すぐさまソフィアは拳で粉砕して迎え撃った。
連続で飛ばされてくる枝を全て撃ち落とすとソフィア自身が飛び出す。
進路を塞ぐように次々と枝が飛んでくるがその全てを粉砕して、球体の目の前に立った。
「ここで最後だ!」
本気の一撃が球体にぶつかる。
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