決戦 ゴガガ
大量の草木がソフィアに異様な速度を持って降り注ぐ。今までと同じ圧倒的で膨大な力の放流に任せる攻撃だと思えた。だが、……ソフィアはすぐに考えを改める。
吐き出されている森の終わりが見えない。先ほどのブレスよりも瞬間的は破壊力は無いように見えるが、土砂と変わらない勢いで迫る攻撃は物量として破壊力を持っている。
何よりも怖いのは、ブレスと違ってぶつかれば消滅する——とは限らないからだった。
吐き出されている森は少しずつ蠢いている。この木はガガと同じ様にゴガガが生み出したゴーレムなのかもしれない。
しかし、何故今になってこの【権能】なのか、考えてしまいそうになったが、ソフィアは握る手に力を込めて腰を回した。
「そっちが本気ならば私だって! この一撃で全てを終わらせてやる!」
木の切っ先がソフィアの目の前に迫る。
目を閉じて、全ての意識を目の前の木に向ける。そして腰を限界まで力強く回して、拳もこれ以上は握れないほどに握力を強めた。
ぶつかる衝撃に備えて本気で地面を踏みしめて……——声に出した。
「【竜皇拳・竜突き!!】」
本気で放たれた拳は、風を巻き込み、生えている木を巻き取り、土をめくり上げる。この洗礼された一撃は、まさに竜のブレスを思わせる圧倒的な破壊力。
この一撃に全てを込めたソフィアの拳が木に触れようとした。だが、木に触れる事はなかった。
ソフィアの拳がぶつかるよりも先に尋常ではない暴風が衝撃波となって木を砕いた。
ソフィアが放った拳の衝撃波は、吐き出された木々を粉砕して突き進む。まさに衝撃が天を駆け抜ける様に見えた。
あまりにも凄まじい衝撃だからか、ソフィア自身も押されてしまう。何とか一歩前に出て自分が放った衝撃に耐える。
その瞬間、勢いが増していった。
この衝撃波は、今もソフィアの拳から放たれていると感じた。
まさにこの一撃は、ソフィアにとってのブレス。その想いをさらに乗せて力強く一歩前に出る。
「いけえええええ!」
「竜の対処不可能、回避不可能、防御不可能……大賢者——応ト……」
遂には衝撃波がゴガガの口に達した。刹那、森とソフィアの拳のブレスがぶつかり合い、壮大な爆炎を上げてながら爆ぜた。爆発で生じた空気の波が、暗黒宮全体を大きく揺らす。
更にゴガガ内部で爆発を起こしたのか、炎を撒き散らして焦げてしまう。
「……機能、停、し、」
声と共にゴガガが墜落し始めた。
ドカンと巨大な音を立てて落ちたゴガガの身に纏っていた枝が消滅し始めた。
「や、やっと……」
ソフィアはゴガガを倒した事で安堵する。
消滅していくゴガガを見ていると子魔猪がポツリと残った。
その子魔猪は、先ほど戦ったガビーと言われていた個体に似ている。顔もどこかドゥクスに似ているが何よりも小さい。
「もしかして……」
慌てて子魔猪に駆け寄って顔に手を添えた。頭には可愛らしい花びらで作られた髪飾りが付いていた。確か、その花の名前はサルビア——だったとソフィアは思う。
「……ソ」
か細い声が聞こえてきた。子魔猪を優しく抱きかかえる。
鼓動が聞こえてくるが、今にも消えてしまいそうなくらい弱い。
この子魔猪が、ゴガガの中にいた理由は分からない。けれども、ドゥクスがゴガガに執着した理由を考えると……決して子魔猪——いや、ガビーのせいでこうなったとは思えない。
だからこそ、ソフィアは自分が出来る最大の優しさを持って話しかけた。
「私は、ソフィアだよ」
「ぃ……」
ガビーが蹄を向けた。
その蹄はずっと震えている。
「ぃ……げ」
ガビーの目が上を向いた。その時、ソフィアはガビーの瞳に映った異様な光景を目にした。
「な、そんなの!」
ゴガガを倒したのに、天井を覆い尽くす枝が残っていた。それだけでなく枝が降下を始めていたのだ。
ソフィアが殴りつけても破れなかった強固な枝が全てを崩壊させるために落ち始めた。
「ソフィア様!」
突然声が響いたと思うと子犬姿になっているズーズンの背にアシュバが乗って現れた。
アシュバは驚愕という顔を貼りつけながらも焦っている。
「ゴガガの討伐を……ってなんで子魔猪が!」
「ゴガガを倒したら出てきてね——敵意はないみたいだけども……あれは……」
ソフィアの視線が枝を見ているが、アシュバは首を横に振って応えた。
「分かりません……あの枝がゴガガの一部なのは間違いありません。それに私達を殺そうとしているのは分かります!」
ソフィアは深く頷いた。
二人の方を見る。血だらけだったアシュバとズーズンの傷は塞がっていた。
どの様に塞いだのか分からないが、今は話している暇はない。それに二人は、今にも倒れてしまいそうな姿勢をしていた。
「ごめんね二人とも……それで魔猪達は大丈夫なの?」
「はい! ゴガガの崩壊が確認された時からゴガガの根元に洞窟が顕現してました。もう大半の避難は終わっております! ソフィア様もすぐに出ましょう!」
「うん、そうだね!」
ソフィアはガビーとアシュバ、ズーズンを抱えて走り出す。
本気で走り出せばすぐに辿り着けるが、案内をしてくれるアシュバが気を失えば無駄になってしまう。
アシュバが指示できる限界の速度で走り出した。
「森の中をまっすぐです! 更に次を右に曲がってもらって進んでください!」
「分かったよ!」
枝がどんどんと落ちてきている。
枝が木に触れると徐々に曲がって、最後にはへし折れてしまった。
先ほどの拳のブレスでも穴が開かなかった枝は、明らかにソフィアよりも強い。
このままではこの四人が殺されてしまう。せっかく助かったというのに……という焦りが生まれ始めていた。
「アシュバ! 最後の道まで教えて!」
「へ、平気ですか!?」
「このままじゃあ間に合わないの! ほら早く!」
アシュバは叫ぶように返事をしてからソフィアに言い出した。
「ゴガガが生えていた場所に向かってください! 根元まで辿り着けば見える位置に洞窟が出現しています!」
「分かった!」
ソフィアは一瞬だけ本気を出す。三人は意識を失ったのか、ソフィアの動きに合わせて動いてしまっている。そこを慎重に抱きしめながら突き進むと、途方もない距離だった道のりは終わり、洞窟が見えてきた。
洞窟は見えているのだが、もうすぐそこまで枝が降りてきている。
ソフィアが本気を出した瞬間から落ちてくる速度が一気に増していたのだ。
明らかな殺意を持ってソフィアを殺そうとしていたのが分かった時、ソフィアは三人を洞窟に向かって投げた。
「ごめんね、皆」
ソフィアは拳を構えて、腰を捻る。
枝はソフィアの近くまで迫ってきていた。だからこそ、またもう一度、本気で拳を振るう。
凄まじい勢いに地面が陥没したが……。
枝はソフィアの拳の形に凹んだだけだった。
もうソフィアの【権能】ではこの枝を壊すことは出来ない。そう諦めてしまいそうになった時、足元を支える感触がする。
目線を落とすと先ほど投げたはずの子魔猪が足を支えていた。
「何しているのガビー!」
「も……私は、ぬだけ……で」
ガビーがソフィアを想い、何かをしようと考えているのは分かる。やっと……ゴガガから、ガビーを解放できたのに——。
「そんな事は言わないでよ!」
地面から根が飛び出しガビーを包み込み出す。すると、そこには一人の……ソフィアと同じ背丈の女の子が立っていた。
「ソフィー様、助けてくれてありがとう。私はもう死んでいるのと変わらないの……100年前に貴女様を助けられなかった時から」
ガビーは懸命に話そうとしていた。ソフィアの目に涙が浮かび上がる。
「関係ないよガビー! 私はここに居るから」
「ごめん、なさい。守れなくて。助けられて……迷惑ばかりで……」
「いいの、そんなの! だから、お願いガビー! 貴女だけでも逃げて!」
ガビーの全身を先ほどよりも太い根が包み込む。そして姿形が先ほどまで戦っていた大トカゲとなった。
「こうして……また話せる様になったのはソフィー様のおかげ……です」
「いいの、いいのガビー! だから……」
ソフィアの手に根が触れる。
ゴガガと同じとは思えない優しさに溢れている根がそっと手を包み込んでくれた。
「ソフィー様、ドゥクスをよろしくお願いしますね」
「嫌だよ、ガビー……まだ会ったばかりなのに!」
涙が溢れて来て止まらない。ソフィアは必死にガビーの手を掴んで離そうとしなかった。
「私は、あの日……からずっと。ゴガガに取り込まれた日から、もう死んだのと変わりません」
「どうして……なの」
ソフィアの手をそっと離したガビー。
理不尽さにソフィアは嘆く事しか出来図、自分の無力さを呪うしか出来ない。
「だから……ありがとうございます。殺戮しか出来なくなった私にまた愛情を与えてくれて……ソフィー様、また……どこかで」
ガビーは枝に触れた。すると、そのまま吸い込まれるように消える。
ガビーと融合した枝はその場で止まった。すると一気に歪み出した。枝は多様な形を作り出し、部分的に破裂してしまいそうなくらいに膨れあがる。
そして枝が破裂し始める。
それはゴガガと同調していたガビーだからこそ出来る自爆——自殺——だった。
余談 花が出てきましたが花言葉として家族愛があります。
ガビーがドゥクスと暮らしていた時に好きだった花になります。
それとガビーがソフィーと読んでいる意味はまた本編で!
次の更新あす!




