決戦5
アシュバは音が鳴っている方角を何度も見つめていた。あの場で今にもソフィアが戦っている。
その戦いは自分達の為だというのが心苦しい。
すく横で気絶しているドゥクスを見た。
ズーズンに連れて来られた時からずっと気絶しているのは【権能】の使いすぎだと言われていた。
ズーズンとの関係性もあるだろうし、今は休ませてやりたいが——これだけの戦闘音では辛いものがあるかもしれない。
気絶しながら魘されているドゥクスを見てソフィアの勝利を祈る。
この戦いが終われば……やっと闇の領域に戻れる。そうなれば、ソフィアに本当の過ごした年を話せるかもしれない。
アシュバは心にそう思いながら見ていると、折れていたゴガガが消滅したのを見た。
「な、なんですか!」
「ガウガ!」
「木龍というのですか!? もうずっと前に亡くなられた支配者ですよ! どうやって……ソフィア様が危ない!」
アシュバがその場に向かおうとしたがズーズンによって止められる。
ズーズンに首根っこを噛まれていて一切動けない。
「離してください!」
ズーズンに言うが、離してくれる気配が無い。ソフィアの身が危ないと言うのにこの犬は! と怒りそうになった時、ズーズンの鼻息が聞こえた。
たったそれだけでズーズンの言いたい事が分かる。
「ソフィア様ならば木龍に負けないですか……相手は神として扱われてた支配者ですよ!?」
ズーズンの言葉を信用できない。アシュバは木龍と対峙した事があるからどれだけの強さを持っているのか知っているからだった。
「神々に勝てるだなんて……それは正気ですか?」
ズーズンが鼻息を荒くしてアシュバに言ってきた。正直、その言葉を信じていいのか分からないが——ソフィアと対峙したズーズンの言葉だから信用してもいいかもしれない。
「——それが本当ならば」
アシュバはソフィアの方を見た。
その時、木龍となったゴガガも見える。
あの日、あの場所で対峙したよりもスケールが小さくなっているが、込められた力を考えると巨木同等に近いと言っても良いかも知れない。
アシュバは息を飲み込む。
次の瞬間、ゴガガが真上へ吹き飛ばされた。
何が起こっているのか目を疑った。ソフィアが吹き飛ばしたと知るまで少しだけ時間が掛かる。
続けてソフィアも飛び出して、天井にぶつかった。
もう決着間近であると察したアシュバは、ソフィアの方を見ない。どうにか無傷で戻ってきてくれると分かったからだった。
このまま大賢者が作り出した空の枝が消えていき、本当の青空が見える。そうアシュバが思った時、ズーズンの声が聞こえた。
「グルルルルルゥゥゥ!」
「な、なんですか」
アシュバの目の前に立ったズーズンは魔狼王の姿を取っている。いつの間にかドゥクスも魔猪達によって避難させられている。
この場に何かが……空からズルリと落ちてきた。
枝が形を作り出すと大トカゲの形になっていく。明らかにズーズンよりも巨大な姿になっているのだが、怯まないズーズンが牙を剥き出しにしていた。
「ソ、ソフィア様が倒したんじゃ……」
「ガウ!」
ズーズンがアシュバに言った。
一気に食らいつこうとするズーズンを片手で対処するゴガガ。
「そんな、置いて逃げるなんて!」
ズーズンはアシュバに逃げろと言ってきた。
その言葉を最後に、ゴガガの枝で作られた爪にズーズンが吹き飛ばされる。
木々をへし折りながら吹き飛ばされたズーズンの方を見ると倒れていた。
意識はあるらしく震える手足に力を入れて立ち上がろうとしている。だけども、ズーズンが倒れている場所から根が飛び出して突き刺された。
ズーズンの身体から血がドバドバと吹き出してきた。口からも赤黒い血を吐き出している。
「ズーズン!」
アシュバが近寄ろうとした時、子犬になってしまったズーズンが吠えた。
「キャン!」
「見殺しになんて出来ませんよ!」
ゴガガに拳を上げて走り出したが、一本の枝に吹き飛ばされる。木にぶつかった衝撃で筋肉が裂けて骨が軋む。
簡単な一撃で意識を失いそうになったアシュバ。
ズーズンに迫るゴガガは、口を開いた。
アシュバの視界からは見えないが、魔力の高まりを感じる。
「【木龍魔法・深淵森林咆哮】」
黒緑の葉で作られたブレスが周りの木々を粉砕しながらズーズンに向かう。
力の放流に子犬は飲み込まれていってしまう。
アシュバにはどうしようもない。
どれだけ無力なのだろうか……。
アシュバはここを任されたのに、ソフィアの期待に……ソフィアはどこに行ってしまったのだろうか。
アシュバの思考を悪い方で埋め尽くした時、声に出した。
「『飛んでください!』」
無駄だとは分かっているが、アシュバは【洗脳魔法・誘惑】を放った。
これでゴガガの意識を少しだけでも——無駄だった。
龍は完全耐性を持っている。いや、正しくは龍と同等か、それ以上の力を持っていないと攻撃は何も効かない。元神だった木龍に効くはずも無かった。
——小さな身体になったズーズンが突き刺さっている根から飛び出した。偶然にもアシュバが放った魔法は、ゴガガに効かなかったが弱り切ったズーズンに効いた。
ズーズンが根から飛び出して落ちたおかげでブレスに辛うじて触れなかった。何とかズーズンの命を救えて安心したのか、魔力切れか意識が朦朧としてきた。
「邪魔が入りました。小悪魔を殺害してから魔狼王の吸収に入ります」
ゴガガの足がゆっくりと向かってくる。
どうにか逃げようと動いてみたが、枝がアシュバの足に突き刺さり固定される。
「ソフィア様、また会いましょう……私は死んでも魔皇帝様の一部になるだけです……」
ゴガガは背中の形を変える。大量の枝が生えてきたと思うと一本にまとまりだした。
アシュバの胴体と同じ太さを持った枝。
「殺害に入ります」
アシュバの足に突き刺さった枝が持ち上げられた。焼ける痛みが走り、歯を食い縛る。
体を動かそうとしたが、もはや気力はない。
枝が飛び込んできた。
完全に死を悟った時、声が聞こえた。
「アシュバ!」
殺す勢いで飛んできている枝とアシュバの間にソフィアが入り込んだ。
枝が一撃で粉砕された。
やっぱり主人は世界最強の存在なのだとアシュバは霞む視界の中で見ている。こんなにも凄い魔族に仕えられて幸せ物だったと。
「竜の接近を感知しました」
アシュバの足を食い止めている枝を手刀で切断してから、アシュバは抱えられた。
「ソ……ソフィ、ア様」
「ごめんね、待たせたねアシュバ……ズーズン」
ソフィアは今にも泣きそうな顔でアシュバを見ている。
血だらけになったアシュバは、ソフィアのドレスに自分の血が付かないように力を振り絞って拭き取ろうとした。
「今、終わらすからね……ズーズンと一緒に——もう少しだけ待っていてね」
いつの間にかズーズンもソフィアに抱かれていた。アシュバは移動したのを察知できなかった。それだけソフィアは高速で移動を行なったらしい。
「は、い」
アシュバの視界が切り替わった時、地面に寝かされていた。そしてソフィアの怒りを見る。
「私は絶対にお前を許さないゴガガ!」
次の投稿も明日!




