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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
第1章 囚われた魔王の娘
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今こそ立つ時

「損傷5%の攻撃です。攻撃対象者の認識ができません」


 ドゥクスは間違っていなかったと心の底から思い、また残念にも思う。



「ソ、ソフィア様……」



 口を動かすだけでも痛い。今にも気絶してしまいそうだが、必死に意識を保つ。


「私の前で死のうとしないで!」


 ソフィアは怒っていた。

 少女らしく顔を赤くして、涙を流しながらドゥクスに怒っていた。


 その気持ちがドゥクスにとって嬉しい。けれども儚く見えて辛い。



「我ハ、ソフィア様ヲ……」



 償いの言葉を言おうとしたが、上手く口が回らない。

 意識が朦朧としてきて視界が暗くなってきた。



「もうバカな事はしないで……」



 助けて貰ったがここまでの命に違いは無い。

 瞼を閉じようとした時、暖かい物が触れる。


 ソフィアがそっと優しく抱き締めてくれた。



「血デ……汚レテ、シマィ、マス」


「そんなの良いの——ごめんね、私が弱いばかりに」



 ソフィアの暖かい気持ちに包まれてドゥクスの身体は少しばかりか楽になった気がした。

 もう死んでしまうから、軽くなったのかもしれない。



「ソンナ事ハ……」


「ありがとうドゥクス、私のために。でもね、もう大丈夫だよ——ズーズン!」



 ソフィアの声が響くとズーズンが隣に現れた。どこかからか飛び降りてきたみたいだが、音を鳴らさない繊細な動きで現われた。


 そしてドゥクスを加えて背中に乗せると走り出す。尋常じゃない速度なのに、ドゥクスに伝わる衝撃波は圧倒的に少ない。


 これまた繊細な動きであっという間に後方まで辿り着いていた。



「ガウガ!」


「ソウカ——役ニ立テズ済マヌ」


「ギャンガ!」



 残っている魔猪達が急いで回復魔法をかけ始めている。これで延命は出来たかもしれない。


 ソフィアと初代の獣族女王(ズーズン)に誇りを持ち、敬意を払い、瞼を閉じるとそのまま気を失った。



 ★★★★★



 ソフィアがドゥクスの元に辿り着く少し前。



「んぅ……」



 頬を濡れた何かが触れている。

 少しばかり心地良い気がするけども鬱陶しい。


 更に濡れた何かは顔の全部に触れ出して……フンスフンスと呼吸が聞こえてきた。


 この瞬間に誰がやっているのか理解したソフィアは、思いっきり抱きついた。



「何してるのズーズン!」


「ヌン!」



 大きな顔がソフィアの目の前まで来ていた。

 モフモフを堪能しようと頭を撫でる。

 少しだけ頭が痛いと思いながら視線を動かすとアシュバが跪いていた。


 アシュバの動きに気がつかなったという事は、ソフィアが起きるまでずっと跪いていたらしい。


 その瞬間、何が起こったのかソフィアは思い出した。



「あ、ドゥクスはどうしたの!?」


「ここを出てから三時間以上は経過しています」



 勢いよく立ち上がる。しかし、足元がふらついてしまいよろけた。


 まだ酔いが抜けないソフィアに、アシュバがある物を差し出した。

 それは橙色で円形に近い果実——オレンジだった。



「そ、それは……」


「酸味は酔いに効きます。ソフィア様の抵抗力があればすぐに良くなります」


「……うん」



 酸味だけでなく苦味もあって嫌い。だけども、アシュバがこのタイミングで嘘を言うとは思えないソフィアは、皮のまま噛み付いた。


 口の中を駆け抜ける刺激に肌を震わせる。吐き出したい気持ちも出てくるが、我慢して噛んでいると……不思議と頭痛が消えていた。

 更に感じていた不快感も無くなっている。


 身体の不調が無くなったソフィアは、大きく背伸びをする。そしてアシュバに言った。



「じゃあ行ってくるね」



 アシュバは心配そうな顔をしていた。けれども、ソフィア本人はこれ以上、仲間を失いたくない。


 仲間だと思ったからにはこれからもずっと居たいと思っている。



「ソフィア様……、負けるかもしれませんよ」



 確かにソフィアはゴガガに負けた。だがそれは、アシュバ達を守らなければいけない状況下に居ただけでなく【竜皇気】の力加減も分からない時だった。


 ここから先は、ドゥクスを助けに行くだけになるかもしれない。いや、それが一番望ましいと分かっている。



「私は負けないよアシュバ。もう真っ暗な生活は終わりにしようよ」



 ソフィアは最終決戦に挑む気持ちで居た。



「で、ですがソフィア様に何かあったら! (わたくし)は……」



 アシュバはそれでも応えてくれない。やはりアシュバの明晰な頭脳が何かを語っているのかもしれない。



「アシュバ——私ね、一度も本気で戦ったことが無いの」



 アシュバを心配させないようにソフィアは言う。しかし、アシュバの顔色は変っていない。



「あれだけの力を持って本気では無いと正気ですか……! 【竜皇気】にそこまで力が込められているなど一度も聞いたことありませんよ!」



 アシュバは【権能】や魔法について研究していると話していた。ならば、ソフィアの限界値も分かっている。



「本当だよアシュバ——私を信じて」



 ソフィアの説明に噓偽りはない。

 本当に最大の力で殴ったことがなかった。だが、それをどう説明しても専門的に知識を蓄えてきたアシュバは分かってくれない。


 だからこそ、ソフィアに出来る事はただ目を見て真意に話すしかない。



「そうだとしても……ゴガガは!」



 ゴガガの強さは知っている。それでもソフィアが経験した一ヶ月半よりも、アシュバが経験した"三年"の方が濃密に恐怖が詰まっている。


 何よりも戦闘能力に関しては無力なアシュバだからソフィアが感じられない恐怖をより多く感じて話しているのかもしれない。



「もう時間はないのアシュバ。今も魔猪達は傷ついているの分かって」



 ソフィアは、強引さを見せた。そうでもしないとアシュバは引かない。



「……」



 それでもアシュバは引かなかった。

 これだけソフィアを大切に思っていてくれているのは嬉しいが今は一刻を争う。


 そんなソフィアの変わらない態度にアシュバはため息を吐いていた。



「——わかりました」



 ソフィアの顔を見てアシュバは言葉を続ける。



「条件を付けますが良いですか?」


「うん!」



 満面の笑みをアシュバに向けるとまた一つだけため息を吐いていた。それからアシュバもにっこりと笑ってくれた。



「危険を感じたら逃げてください! それから絶対に無茶は許しません! 傷だって絶対にダメですからね!」



 子供に叱るようなアシュバは、最後にソフィアに向けて言う。



「絶対に無事で居てくださいソフィア様」



 ソフィアに向けられた儚い微笑みが、どこか懐かしさを感じてしまった。

 この一ヶ月半しか会ってないのに、ずっと一緒に居たみたいな感覚に落ちたソフィアは頭を縦に振った。



「もちろんだよアシュバ。じゃあ行ってくるね」



 そう言うとソフィアは、【竜皇気】を発動させて跳んだ。一瞬でアシュバが豆粒よりも小さく見える。その時に手を振っていてくれたのが見える。


 それだけでソフィアは心強く思える。



(待っててねアシュバ)


「キャキャン!」



 木を踏み台にして跳んでいくソフィアに声が届いた。それはズーズンの物だった。

 ズーズンも付いて行くと決めたのか、速さ重視の体型で走りながら並列していた。



「ドゥクスを助けるよズーズン!」


「ガウ!」



 元気な返事にソフィアの心はやる気に満ちていた。

明日にも投稿!

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