最愛の——
葉が襲ってくる。
先程と同じ状況なら避けられたドゥクスも太陽光の熱によって動きを鈍くされている状態だと厳しい。
更に【権能】の絶技を二度も解放してしまったから、明確な疲労が見え始めている。
ズーズンと違い時間による制限は少ない。あと一発ずつなら放つ自身はあるが、今使ってしまえばゴガガの体力を減らせない。
「ブブギィィィ!」
現状を打破するため、ドゥクスは遠吠えに近い声で鳴いた。すると、後ろから光る物が飛んでくる。
後方にいる支援部隊から回復魔法が届いた。
回復魔法によって復活した魔猪達に淡く冷たい空気が通る。
風魔法と氷魔法による連携技。
氷魔法を直接ぶつければゴガガの大幅に回復になってしまうが、氷が生み出した微々たる冷気を風魔法で生み出した些細な風ならば少ない回復だけで済むと数多くの実験で知っていた。
この合体技によって熱の処理は出来たが時間の問題。
長く続けばゴガガの回復に繋がる。そもそも永続的に魔法を放つことが出来ない魔猪は、交代で行わなければいけない。その為、この瞬間にも擬似太陽を壊さなければいけないが——距離が遠すぎて攻撃の手段が限られてしまう。
それこそソフィアの様に簡単に跳んでいけるだけの膂力を手にするか、ズーズンの様に限界が決められていない【権能】を使うくらいしかない。
ドゥクスの【権能】は、どちらも触れていないと効果が無い。だから、使用できないので……強制的に方法が一つになる。
「【土魔法・土波!】」
土波によって高台が作られた。
これで少しばかりか距離を稼ぐ事が出来る。
ただでさえ標的がドゥクスになっているのに、目立つ行動をした。しかし、こうでもしないと届かない。
目の前に枝の群生が現れる。
そして猛烈な動きでドゥクスを叩き始めた。
この攻撃を避ければせっかくの高台が崩壊してしまう。更に後ろにいる魔猪達に被害が出てしまうから、ドゥクスは強化された皮膚だけで耐え凌ごうとしていた。
一撃が重たく、ぶつかれば多少なりとも痛みが出てくる。それが数発、数十発と続き赤く腫れてきてしまう。
更に先ほど放たれた【葉狂い】もある。葉はドゥクスに触れると軽い切り傷を作った。ただそれだけならば良いが、視界を埋め尽くす攻撃がずっと続いている。
「魔力の向上を確認しました。迎撃に入ります」
ゴガガの声が響いた時、ドゥクスは発動する。
「【大地魔法・竜ノ怒号!】」
魔法が発動した時、ドゥクスはよろめく。少なくなった魔力の中で最大の火力を持つ魔法を使ったからだ。
だが、魔法は高台に顕現しなかった。
「魔法不発を確認しました。魔猪王の殺害に入ります」
地面をかち割り、巨大な根が三本も現れた。根が同時に向かう。
高台の上で逃げ場が無く、更には魔力も残っていない。
その絶望的な状況にドゥクスは笑った。
「カッハハハハハ!」
刹那、擬似太陽に向かう影が見えた。
その影は巨大な岩であり、ドゥクスが作り出した擬似太陽を壊す魔法。
「間抜ケガ!」
魔力は、使い切った。
本来ならばこの場に顕現させればすぐに撃てたが、ゴガガの枝や根が邪魔で放てない。
だからこそ、ドゥクスは自分が囮になって遠方に魔法を出現させた。そうすれば高性能すぎるゴガガは失敗したと勘違いしてトドメを刺しに来るだろうと踏んでいた。
そして巨岩は擬似太陽にぶつかる。その衝撃は計り知れず、ドゥクスの元まで熱波が届いた。
擬似太陽は熱を強く出して溶かそうとするが、勢い凄まじい巨岩は溶けきる前に爆ぜた。
更なる衝撃が発生し、擬似太陽も爆破する。
「大規模な熱を確認しました」
自分の魔法には耐性を持っていないゴガガは、爆破によって葉が燃えてしまう。それだけでなく、自身を守るためにゴガガは根と枝で防御の姿勢を取っていた。
この衝撃の中、ドゥクスは最後の力を振り絞る。
心配だった魔猪達は土波によって作られた高台の影に隠れていた為、怪我を負った者は少ない。
それだけでもドゥクスにとっては朗報となり、力が湧いてくる気がする。
道が切り拓く。
一気に足腰に力を入れて、飛び出した。
限界まで上げられた膂力と熱波がぶつかり合い、皮膚を焼く。
ジリジリと焼かれる皮膚の痛みに足を付いてしまいそうになるが、歯を強く噛んで堪える。
このタイミングを逃せば、ゴガガに近づくことは出来ないと考え、必死に走る。
ただ走り、走って、走り疲れても走るのみ。
足が折れてしまいそうになってもドゥクスは走ることをやめなかった。
そして遂に幹に辿り着いた。
「我ハ此処デ死ヌダロウ。シカシ、悔イハナイ。喰ラウガイイ——【獣王剣術奥義・一閃闇穴!】」
ドゥクスの牙が反りを持つ片刃の剣を思わせる形になる。人間族が持つには丁度良い程の小さな牙になった。
「ウヲオォォォォオオ!」
顎の筋肉が破裂していく。支えている足腰の骨が粉砕していく。心臓は鼓動を早めて今にも破裂してしまいそうな激痛が走る。
全身全霊を掛けた一撃は、ドゥクスの身体を本当に消耗していた。
「ガガは対処してください。対処してください」
今までにない速度で落ちてきたガガは、ドゥクスの間に入り込もうとするが刃に触れようとする前に消し飛ぶ。猛烈な勢いを持ってドゥクスは、幹に斬りつけた。
ただ一本の牙は、ゴガガに触れた瞬間に巨大な一本線となって斬り込む。しかし、先ほどの枝とは違い完全な切断にはならない。
「魔猪王による攻撃を確認。しかし、熱による損傷がまだ続いています。ガガは早急に対処を」
ゴガガの声が開始の合図となった。
一本の軌跡は巨大な穴を開け始めていて、最終的には闇穴と同じ物を三連続に開けた。
遂にゴガガの幹は、耐えれきれず亀裂が大きく縦に走る。そのまま地鳴りを起こしながらついには空の枝まで届いた。
「損傷です。損傷です。損傷です」
同じ言葉を繰り返すゴガガ。
今までとは違う損傷の多さにゴガガは異常をきたす。
「迎撃を、迎撃をしてください。迎撃を」
ドゥクスは、倒れた。
【権能】は解除されてしまい、もう一歩も動けない。
まさに全身全霊の一撃だからこそ与えられた攻撃にドゥクスは、笑った。
「グハハハ! 良イ土産ヲ見タナ!」
「損傷が20%を超えました。現時点を持って魔猪王の殺害を最優先にします。同時にガガは回復に回ってください」
森の中が騒がしくなってきた。
地響きの後に根が十本と今までにない数の枝が降りてきた。
暗黒宮に配属されているガガが集まってくるのも見た。
邪魔者が少しずつ減っていくのを見て、これでソフィアの優位性を少しでも確保できたとドゥクスは思う。
枝がドゥクスの足に撃ち込まれた。
走る熱みたいな痛みがある筈なのに、ドゥクスは痛いと感じない。【権能】の代償よりはマシの痛みだったからだ。
そしてそのまま釣り上げられると十本の根が一つに合わさって槍を作っていた。
この一撃は、ドゥクスを木っ端微塵にするだけの力を持っていると感じる。だが、それで良い。もう死ぬ命なのだがら、最後は盛大に死ぬのも悪くない。
そう考えながら目を閉じたのと同時に根の槍が向かう。
「先ニ往ク、ゴガガ……イヤ、囚ワレタ我ガ娘ガビー」
壮大な音が鳴った。
ゴガガの暴発かと思い、目を開けると槍が砕け散っている。
枝が蜘蛛の糸の様に簡単に切られる。
そして地面に落ちたドゥクスは信じられない光景を見ていた。
「死ぬなんて言わないでよバカ!」
拳を握ったソフィアが今にも泣きそうな顔でドゥクスを見ていた。
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