連戦
呼吸が耐え切れなくなったドゥクスは、地上に鼻を出した。血の匂いが多くなってきている。同時に何匹も魔猪が殺されているという事実を一嗅ぎで見抜いた。
急いで地上に飛び出したドゥクスは、【権能】を解放する。
魔猪を襲っているガガ、更には奥で君臨しているゴガガに目掛けて声を張り上げる。
「【獣王・牙刃解放オオォ!】」
刃となった牙を生やしてドゥクスは走り出した。
【権能】によって上がった膂力は、一瞬でガガの目前まで移動する。そして交差する瞬間に切り裂く。縦に裂かれたガガは少しだけ蠢くとすぐに絶命した。
そのまま走り出したドゥクスは次々とガガを切り裂いて進む。
「【権能】を感知しました。対処に入ります」
連続で同じ【権能】を使用したことによってゴガガは認識してしまった。これによって麓にたどり着くのは修羅の道になった。
だが、ドゥクスにとっては仲間がどんどんと死んでいくのが辛い。
(想イヲ無駄ニシテハナラナイ。ダガ……)
自分自身は犠牲になってもいい。
それは民を導く王様で、民を守る為に動いている王様だから。
その思いが強いドゥクスは死んでもいいと考えているが民の犠牲は……目に映る分は助太刀したいと考えている。
とても自分勝手だとは分かっている。
ここで戦っている者達は死んでもいい——そうそういう覚悟を持って戦地に立って牙だけで戦っている。
どれだけ絶望的な戦力差だけども、種が——それこそ妻子に生き残って欲しいという想いや縄張りに残った者達を思いながら戦っている。
多くの覚悟を持っているのはドゥクスにも分かっていた。
「……死ヌノハ違ウ」
王の素質としては落第点だろう。だが、ドゥクスは自分が王である必要は無いと考えている。
命を一々考えてしまう。だから、お前は王の中でも一番弱いと何度も魔皇帝に言われた。
それは軍での話であり、個人間での話では無いと分かっている。更に魔皇帝が言いたい事も理解が出来ていた。
王として民を導くために民の命を駒として勝利を手にする。そんな王に誰が付いて行きたいと考えるのだろうか。
皆が想いを乗せているとしても自分から死にたいと考える自殺志願者はこの場には居ない。
その気持ちを強要されているに過ぎないのだから、ドゥクスは民を戦争に使いたく無い。
そんな事は、夢物語だと知っていた。
足腰に力を入れて踏み出す。
強化された脚力によっていつも以上の加速を持って走っていた。すると、目の前にガガの大群が道を塞いだ。
ガガが枝で殴りつけようとしてくるが、寸前で牙を交差させる。すると、簡単に枝が裂かれた。
柔らかい物を切り裂く感触がドゥクスの牙を通して感じる。
すぐに目の前のガガを切断していくと心の奥底で疲労を感じ始めていた。
嘗てよりも疲労が溜まりやすくなったドゥクスは、この乱戦は想像以上に体力を使うと実感する。
久しぶりの【権能】の使用で消耗していく体力と、今だに終わりが見えないガガの大群。
だけども、引けない。
引いてはいけない状況に緊張が張り詰める。
枝がズルズルと降りてきた。
枝は異様なまでに柔軟性を持っている。それだけでなく、一撃で魔猪を貫く威力を持っている枝が……目の前の景色を覆った。
カーテンの様になった枝がドゥクスに迫る。
同時に先ほど生み出した自動人形の魔法に念を送り、解除した。
このまま自動人形が切り刻まれてしまったら体力を回復してしまう。そうなってしまったら今までのダメージが意味なくなってしまう。
そして攻撃を見極めようと目を細めたドゥクスは、あまりにも複雑に絡まっている枝のせいで回避が不可能だと察した。
深呼吸したドゥクスは、力を入れて衝撃に備える。
後ろで戦っている魔猪達を見た。
この枝をあの場に到達させてしまえば、全ての魔猪が死んでしまう。
だからこそ、ドゥクスは声を出した。
「【獣王剣術・一閃!】」
更に牙が伸びた。
巨大な刃となった牙を大きく横一直線に動かす。
あまりにも緩やかで優しい一撃が枝に触れる。
たったそれだけで眼前にある枝が切り裂かれた。壮大な音を立てながら落ちていく枝と同時にドゥクスの牙も元に戻る。
元から切られていた様な綺麗すぎる断面図は、魔猪王の【権能】だからこその切れ味。
だからこそ、ついでに切られたガガは、切られた事に気が付いていないのかジタバタと動いてから絶命した。
「損傷0.1%に達する空間切除を感知しました」
空間自体を断絶して強制的な切断攻撃を与える絶技ですらたったの0.1%だけのダメージ。
これ以上、声が聞こえないところからドゥクスは、警戒心を——大幅に体力を削る技ではないと知ってします。
だが、落ち込んでいるのではない。
この一撃によってゴガガの元まで行きやすくなった。それだけでも、今の現状を考えれば大きな一歩に違いない。
そう感じた時、地鳴りが響く。
地面が強く揺れるということは一つしかないとドゥクスは叫んだ。
「根ガ来ルゾォォォオオ!」
声と同時に地面を割りながら巨大な一本の根が飛び出した。
そして真横に動かされた根は魔猪達を薙ぎ払う。
元から感知していたドゥクスは、高く飛んだ。何とか回避は出来たが、逃げれなかった魔猪五匹が轢き殺された。
完全に押し潰された魔猪の死体は、魔猪かどうかも分からない血だまりだけが残る。
更に魔猪だけでなく、粉々になったガガの姿もあった。
敵も仲間も関係ない大雑把な攻撃にドゥクスは心を痛める。
そう考えていても、戦争は止まらない。
辛うじて生き残った魔猪も怪我をしている。足を押し潰された者、胴体を潰されて半殺しになっている者など様々な怪我を負っている中で、ガガがトドメを刺そうと攻撃を始めていた。
今、後ろに戻れば魔猪達を救える。けれども、前に進まなければソフィアの役には立てない。
まさに今までの自問自答を提示されたドゥクス。
そして時間を進めるかの様に魔猪達に先ほどの根が叩きつけられようとしていた。
先ほどよりも速度は上がっている根に、ドゥクスは駆け出した。
「サセテタマルカアアアア!」
根の真下に立ったドゥクス。ぶつかる寸前でもう一つの絶技を解放する。
「【獣王剣術・闇穴!】」
巨大で鋭利に尖った牙はそのまま枝に触れた。
吸い込まれる様に触れた枝は、一つの穴を空けたのだが、落ちる音が聞こえない。それもそのはず……
その一撃は魔狼王が噛み砕いた一撃に匹敵する絶技。
触れた場所に問答無用で特定の大きさの空間駆除を行う。この技の反動はとても大きい。だからなのか、ゴガガの声が響いた。
「全損傷が3%に達しました。標的を魔猪王に絞ります」
声の後に暗黒だった空から一つの光が差し込んだ。
その光源にドゥクスは、歯を噛み締め攻撃に備える。
「【天空魔法・天災ノ襲来】」
擬似太陽が顕現していた。
サンサンと輝いている。今まで暗闇に閉ざされていた暗黒宮に突如の光。
目が暗闇に慣れていたから、突然の光に痛む。
すぐさま目を閉じたが、じんわりと痛みが広がり出した。
更に擬似太陽は砂漠を思わせる熱を放ち続ける。
急激な温度の上昇に耐え切れない魔猪が倒れ始め、ガガも動きが鈍くなった。
「【森林魔法・葉狂い】」
自由を奪った状態で更なる魔法が放たれた。
連続投稿22日目だと思ったら20日目でした




