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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
第1章 囚われた魔王の娘
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100年の忠義

 脚は重たい。

 肺は苦しい。

 鼓動が早くなる度に心臓が痛くなる。


 あの方——先代ソフィアに仕えてから、幾星霜。

 老いぼれになってしまった今では、この巨体は動くだけで痛みを生む。


 ドゥクスは生きているだけで苦痛を受けていた。


 100年前、先代ソフィアが大賢者に殺されて、暗黒宮に囚われてからドゥクスは種族の存命だけを考えて生きていた。



 原初の獣族。

 かつてはそう言われていたが、今では皆が真の獣まで堕ちてしまった。

 魔鹿族は、言語を失い、文明を失い、ただ野草を食べて交尾して無駄に数を増やし……獣として生きるようになった。

 魔狼族も、獰猛な獣になって知性を失った。もし魔狼王が魔族だったらこうはならなかったかもしれない。


 魔猿族も野生に帰った。

 魔熊族も、魔鼠族も、魔兎族も、何もかもが獣族から単なる獣に戻った。


 もう、獣族の生き残りは魔猪族と初代女王だけになっていた。だが、それはまだ良かった。


 獣族が絶滅し始めたのは、まだ闇の領域に住んでいた時からだった。あの時は闇の領域内でも魔皇帝と意思を合わせず、孤立してでも種の存続に没頭していた。


 に出会うまでは。




「プギィ!」


「……歳ハ取リタクナイ物ダ。昔ヲ思イ出ス事ガ増エテシマウ」


 ドゥクスは、溜息を吐きながら報告してくれる魔猪に耳を傾ける。


「プギプギ!」


「女子供ノ避難完了カ。デハ精鋭部隊ハ前線ヘ」


 残った魔猪が——精鋭部隊300匹。

 だが実際は精鋭部隊と言われているが、魔猪族の武力を誇った者達ではない。その者達は前回のゴガガ戦で死亡してしまった。

 ここに残っているのは、その時に子供だった者。



「ヤットダ。ヤット、ソフィア様ト出逢エタ。ヤハリ魔皇帝ノ予言ハ当タッテイタ。」



 魔猪達が横一列に並び出す。

 全員が鼓舞するために鼻を鳴らしている。

 この森を抜けた先に、巨大な根本があると思うと恐怖で心が苦しくなるからだ。


「デハ行コウカ。我ガ盟友達ヨ!」


「ブギイイイ」「ブギブギ!」


 魔猪達が声を響かせる。

 その声は避難した妻や子、家族を想う、共通しているのは死を覚悟していた。


「行クゾオオオオオオ!」


 ドゥクスが駆け出すと魔猪達も後を付いてくる。まさに戦争の始まりを思わせる風景に、切り込まれる魔法。


「【土魔法・土波!】」


 土で作られた大きな波が目の前にある木々を薙ぎ払う。


「ココマデカ」


 一気に開けた場所に飛び込んでいくドゥクスだったが観たものに驚いてしまう。


 ゴガガの周りに数千を超えるガガが蠢いていた。目的は分からないが、辿り着くまでに何匹が死ぬだろう。


 けれども、ドゥクスは足を止めない。


「怯ムナ! 我々ノ道ハ前ノミ!」


 速度を上げて、ガガへ迫る。

 パッと見で二百メートル先に根本があり、その奥地に幹がある。


 果たして辿り着けるのか。果たしてソフィアの為にゴガガの体力を削れるのか。


 ドゥクスには果てしない光景に見えたが、気合を入れて更なる魔法を放つ。



「【土魔法・自動人形土槍隊】」



 土が盛り上がり、人型へ変わっていく。その全てが槍を持っているからまさに槍隊。


 魔法で作られた槍隊はガガと交戦が始まる。けれども、ガガの戦力は数千という大雑把な数しか分からないほどの多さ。それに対してドゥクスが作り出したゴーレムの数は100体だけ。



 魔猪達よりも多少は強いからまだマシだが、どれだけ戦力を縮められたか分からない。


 絶望的な戦争だけども、ドゥクスに戻る気は無い。



「家族ヲ守ルニハ戦エ! 傷付イタ者ハ後退シロ! 戦線ヲ保テ!」



 ガガと衝突する魔猪達。枝をぶつけられながらも突進して幹に傷を作る。そしてもう一匹がぶつかり、へし折る。


 折れた段階で再起不能になるガガだが、数はまだまだ減らない。


 次々と戦いが起こっていると悲鳴が聞こえてきた。魔猪の一匹がガガの枝に刺された。


「【土魔法・土壁!】」


 魔猪とガガの間に壁を作り出して強引に剥ぎ取る。


「プギ!」


「良イ、後退シロ!」


 傷付いた魔猪が後方で待機している200匹の援護部隊に合流した。


 一部分だけ見たドゥクスは、足に力を込める。魔法を連発して精神のすり減りを感じるが、まだゴガガには届いていない。


「フン、ゴミ程度ガ!」


 ガガを巨大な牙で投げ飛ばし、踏みつけて粉砕していく。獰猛に振っているだけで触れたガガ達は絶命していった。


 この勢いが他の魔猪達を勇気付けた。


 それぞれの勢いが増していき、土槍隊も攻撃のタイミングが増えていく。


 それだけでも少しは前進できたと感じた時、ドゥクスの脇腹に違和感を覚えた。


「フウゥ……小癪ナ!」


 一体のガガが脇腹に枝を刺していた。あまりの興奮に痛みはない。急いでへし折った。


 図体の大きなドゥクスには小さな怪我だけども塵も積もれば山となってしまう。

 このままでは動けなくなってしまうが、ドゥクスは回復魔法を持っていない。


 いや、どれだけ願っても習得できなかった。


 だからこそ、近くにいた魔猪が叫んだ。


「ブギイイ!」


「プギ!」


 叫び声に誰かが返事した。

 すると、不可視の魔法がドゥクスを包み込む。


「回復、有難ク」


 支援部隊からの回復魔法が飛んできた。

 これだけの距離を正確に射抜く魔法の精度にドゥクスは誇らしく思う。


 全員は生きて帰れないが、少しだけでも種族の存命を。


 そう強く願いながらドゥクスは魔法を放つ。


「【土魔法・土波!】」


 ガガの後方に土の波を発生させて飲み込んだ。それだけで多くのガガを粉砕できたが、大きなよろめきを感じる。


 流石に群衆となっているガガを殺すのに魔力を使いすぎた。だけども、そのおかげでゴガガの元まで辿り付けそうになった。


「走レ走レ、走レ!」


 ドゥクスの言葉に魔猪達が後を追う。

 これでやっとゴガガの麓まで辿り付ける。そう感じた時、実が落ちてきた。


「修復の遅延を確認しました」


 今殺した数よりも膨大な量の木の実が降ってきた。そして地面にぶつかると一瞬で根を張ってガガになる。


 今の魔法が水の泡になってしまった。


「ゴガガ……我ヲ敵ト認識シテナイノカ」


 あくまで魔狼王にやられた傷を回復するための増援であり、生まれてきたガガもドゥクスを認識していない。


 こちらが襲わない限りは、全てを無視している態度にドゥクスは怒りを抑えた。


(我々ハ、オ前ニトッテ害虫デモ無イノカ)


 ここで無闇にガガを襲ってはいけないと理性では分かっている。だが、もうすでに魔猪達は傷付いている。更には先程のガガと魔猪は戦闘を続けている。


 まさに混沌とした戦場にドゥクスは、冷静さを失いそうになっていた。


「ソウカ。ソレナラバ一撃ヲ与エテヤル」



 速度は徒歩と変わらない。

 襲ってくるガガを確実に粉砕する。

 その繰り返しで先程とは打って変わって簡単に根元まで辿り着いた。



「【権能解放】」



 ドゥクスの牙が太く、鋭く、そして巨大になる。


「久シイナ、最後ニ会ッタ時ハ魔猪剣王ヲ名乗ッテイタナ。ソレガ今デハ過去ニ囚ワレタ老害ダ」


 ドゥクスは幹に話しかけるが、返答は来ない。


「アノ日、オ前ヲ救エナカッタ。我ハ、愛シタオ前ヲ救エナカッタ。ダカラコソ、ソノ罪ハドコマデモ背負ウダロウ」


 ドゥクスは牙の切っ先で幹に触れた。


「冥界デ会オウ」


 牙が幹に触れる。



「【獣王・牙刃解放】」



 伸びた牙が幹に突き刺さる。するりと刺し込まれる。あまりにも柔らかい物を斬っている感触だった。


「迎撃開始します。目標は魔猪王の軍勢です」


 牙が途中で止まった。

 外皮は柔らかい。

 中身は異様なまでに硬い。


 本来の木とは思えない真逆の性質にドゥクスは驚くことなく牙を押した。だが、まだ一割も達していない。

 ズーズンのは空間の消滅だが、ドゥクスのは線をなぞるように切れば消滅させることが出来る。


 魔力を有しない技だからこそゴガガに効く。


 だが、それはダメージを与えられるというだけに過ぎない。

 わざわざ弱点を残しているほど、暗黒宮の王は甘くない。


「損傷0.5%・魔狼王による損傷を放棄し、魔猪王・及び魔猪族の殲滅に入ります。ガガは駆除を開始して下さい」


 落ちてくるガガは、魔猪の殲滅に向かう。

 たった500匹の魔猪が遂に1万を超える木々に立ち向かう。

ドゥクスは、先代ソフィア……つまりは、前世で配下だった魔族になります。

前世のソフィアに多大な恩があるため、老骨に鞭を打ってでも今のソフィアに忠義を全うしようとしてます


便宜上、先代ソフィアと言ってますが名前は違います! わかりやすさ重視!

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