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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
第1章 囚われた魔王の娘
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暗黒宮・迷いの森

 周りは暗黒。

 元から暗視を持っているソフィアにはどうでも良いくらいの暗さだが、持っていない者だったら森だと分かるまで目を慣らさないと動けないくらいだ。



「ナーシャ!」



 知らない場所に転移させられたソフィアは、自分の身よりもナーシャが同じ場所に来てないか心配している。

 足の痛みは、もう気にすらしてなかった。



「ナーシャ、どこに行ったの!」



 ナーシャが居なくてソフィアの心は鉛の様に重たくなっている。頭の中は不穏な妄想や幻想がグラグラと回っている。

 どうして悪の権化である”勇者”が居たのか。

 どうして勇者は何もしていない父親を殺したのか。



 どうして……幸せな日々を失わないといけないのか。

 どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどう——し…………て。



「どうして私から……奪うの」



 涙を流しながら言葉を吐く。

 胃液が口に広がって、苦味を感じた。

 ストレスなのか、勇者が与えた痛みなのか分からないが胃袋は傷んでいた。


 全てを奪い去った勇者を名乗る人間族。

 この恨みは絶対に忘れないとソフィアは、ボロボロと溢れ落ちてくる涙に誓う。


 それからどれだけの時間を泣いただろうか。

 ソフィアには考えも付かない時間を泣きに泣き続けた。


 泣いては疲れて眠り、また泣いては疲れて眠るを繰り返し、二日も過ぎてやっと空腹に気が付いた。



「……ごはん」



 自分で作ったことのないソフィアは、どうやって食事を取れば良いか分からない。

 狩猟をした事がないソフィアは果実を求めて歩き出した。



「……ナーシャ」



 ご飯を探して歩いている。

 ただそれだけの事なのに今まで用意してくれていたナーシャの顔を思い出してまた目尻が熱くなる。

 このまま泣いて、飢えて、死んでいくかもしれない。それも良いかもしれない。

 ソフィアはそう考えてしまう程に思考が衰退していた。



「どうして……なの」



 それもこれも、ずっと一人ぼっちだったソフィアの親代わりになっていたのがナーシャだからだ。


 母親はソフィアを産んだ時に亡くなった。国王として多忙な父親はソフィアと一緒に居る時間は少ない。

 毎日を寂しく過ごしていた時、慰めてくれたのがナーシャだった。


 ナーシャはソフィアの全て任せていたメイドであったから自ずと一緒に居る時間が増えていった。少しずつ心を開いていったソフィアは、ナーシャを姉と言うよりも母親として甘えていたのだと今知った。

 この幸せがずっと続くと思っていた。なのに、人間族が奪い去った。



「もうやだよ……」



 また重たい感情に支配されたソフィアは、座り込んでしまう。



「……死んじゃいたい」



 そう言葉にした時、何かが騒ぎ出した。



「やめてくれ、離してくれ! (わたくし)は——何もしてないぃぃぃいい!」



 男の叫び声が聞こえてくる。

 声の響きからしてそこまで遠くない。



「へ!? な、なに!」



 また勇者の犠牲者が現れたと考えている時、他の声も聞こえてくる。



「私は知らない! 魔猪も食べてない! ずっと果実で生きていたんだ!」


「ブギィ! ブウ!」

「ブギギ!」「ブギィィ!」



 襲われていると誰にでも分かるくらいの叫び声を上げている男にソフィアは、立ち上がった。



「ま、また誰かが死んじゃう!」



 気が付いた時には震えていた足で走り出していた。

 とにかく助けたいという感情よりも目の前で死んで欲しくないという一心で走り切った。



「な、何をしてるの!」



 その場には、真っ黒な角と羽を生やした小悪魔を三匹の魔猪が囲んでいた。

 三匹に噛まれている小悪魔と目が合った。



「プギィ!」「ププギ!」


「助けてくださいそこのお方! お、お礼はなんでもします!」



 初めて目にする魔猪を警戒してソフィアは、【竜皇気】を発動する。

 全身を暖かい空気が包み込んだのを感じると拳を構える。


 魔猪の一匹が小悪魔を離すとソフィアに対峙する。ソフィアは、いつ開戦するのか魔猪の瞳を睨んだ。


 戦闘の始まりは、ふとした時だった。

 唐突に魔猪が牙をむき出して突進を始めた。


 雰囲気だけを一丁前なソフィアは、突進してきた魔猪を恐れて手を突き出す。あまりの恐怖に拳から手を広げた状態になってしまった。


 突き出した瞬間、魔猪が手に触れたのを感じたソフィアは、恐怖から目を閉じた。

 勇者によって吹き飛ばされた時みたいにソフィアは、衝撃に身構えた。


 ズドン! と重たい衝撃音が森に響く。

 ギッシリと生えている木々にぶつかるとそのままへし折れた。


 血は吐いてないが視界が霞み……気絶した。



「……え?」



 気絶した魔猪を見て、ソフィアは目を疑った。自分に触れた魔猪が吹き飛ばされただけでなく、木々をヘシ折って飛んで行ってしまった。


 奥の方で「プギィ……」と言葉を残して気絶したが、あれだけの力を持っていたなんて信じられない。



「な、何これ?」



 自分の掌を見詰めたソフィアは、見覚えある柔らかい掌が見える。何の苦労も知らない手は、ソフィアが一番知っている手。


 それなのにあれだけの力を持っているなど夢でも見ているに違いない。そう思い始めたソフィアは、小悪魔を離して目を見開いて凝視してくる魔猪二匹に向かって走り出した。



「わ、わ、わわわわ! 止まって!」



 力強く踏み出すと魔猪を超えて奥の木に当たった。その木は見るも無残に粉々になっている。

 たった一歩で木を粉砕した。

 どうやったらそうなるのか思考が追い付かないソフィアを置いて、魔猪は声を出した。



「ブ、ブギィ!」

「ブギブギ!」



 何かを言いながら木をすり抜けるように走り去っていく。見た所、ソフィアの恐ろしい膂力を見て逃げ出した様子だ。



「へ?」



 一瞬にして想像を超える歩幅で進んだソフィアは、遠くなっていく魔猪をただ見ていた。このまま襲っても良いが、自分にコントロールできるとは想像も付かない為、ただ見ているだけにした。



「夢だよね」



 夢だと信じて自分の頬をつねると痛い。

 もし夢だったらナーシャは今でもベッドの隣で待っていてくれている——そう淡い期待もしていたが無駄だった。



「まあそうだよね……それで大丈夫?」



 一通りの出来事を現実と知ったソフィアは、先程まで噛まれていた小悪魔の方を見た。小悪魔は、ソフィアの膂力に怯えたのか腰を抜かした様に座ったままだった。



「あ……はっ! 助けて頂きありがとうございます! 私は悪魔族の小悪魔アシュバと申します!」


「私は……竜族のソフィア」


「……竜族の方なら納得です! あれは噂に聞く【竜皇気】ですかね?」



 ソフィアは驚いた。

 竜族の秘宝とも言われている【権能】を知っているなんてごく一部の魔族だけと随分と昔に教えられた。



「なんで知っているの?」


「……私は【魔法】や【権能】を勉強している身でして——あ、そうでしたね! 私の事を言ってませんでした!」



 アシュバは人間族の子供ほどしかない背を大きく見せる為に胸を張った。



「私は、現魔皇帝でありますアハバ・イシュア様の懐刀……自称ですが。分野は【魔法】と【権能】を専門にしてます魔学の学者になります!」


「ま、魔皇帝様の!?」



 魔皇帝といえばソフィアの父親であるバーニック魔王よりも位の高い存在。

 魔王達を使い魔とする闇の支配者・悪魔。

 文字通り、闇の領域の支配者である大悪魔の名前こそアハバ・イシュア。



「アハバ様の従者様だったなんて……そんな貴方様がどうして?」


「私に敬語は要りませんよ。竜族という事は王族の方でしょ? 私は魔学の専門家と言っても特別な存在ではなく、下っ端です……なので私は身代わりにさせられましたから」



 自虐交じりに言ったアシュバはその後、乾いた笑い声を上げていた。小悪魔は、悪魔の中でも一番下なのだから使い捨てにされるのは理解ができる。けれども、ソフィアにとって従者は家族同然である為、信じられないと口に手を当てていた。



「身代わりって」


「そこを話すには森についてから話します!」



 声色を変えたアシュバが説明を始めた。



「この森は、暗黒宮・迷いの森と言います。名前の通りで暗闇が広がり、迷いを誘う構造をしています」


「暗黒宮・迷いの森?」



 聞いたない名称にソフィアは頭を傾けた。



「憎っくき大賢者が魔皇帝様を封印する為に作った物理的な結界です。暗黒は、夜目が効く魔族には関係ないと思われているかもしれませんがこれは朝が来ないを意味してます……つまりは明日が来ないと比喩してます」


「人間族は陰湿ね。という事は、えーっとアシュバさん以外にも魔族が?」


「呼び捨てでお願いしますソフィア様。今、暗黒宮にいる魔族は、私と孤高の魔王である魔狼王、魔猪の軍勢を率いている魔猪王がいます」



 ソフィアは、アシュバに「かわいそうに……」と言った。



「魔王が二人に対して小悪魔一人……どうして——あ」


「そうです。この場所は魔王と魔皇帝様を閉じ込める為でした。しかし、魔皇帝様は私を身代わりにすることで生き残りました」


「大丈夫だよきっと!」



 悲観的な顔——小悪魔は元から顔が皺くちゃな為、解りづらい——をしているアシュバにソフィアは、元気つけようと言った。



「もう死んだのと変わりませんよ……なぜなら」



 アシュバは言った。更に続けこう言った。



「ここを抜けるには最後の一人になるしかありません……」


 暗黒宮を抜け出す方法は、二人の魔王を殺すしかない。アシュバは、言い方を変えていたが、そうとしか受け取れない。


 ソフィアは、父親が魔王だったからこそどれだけ厳しい戦いになるか分かっている。しかも、魔族の中でも下から数えた方が早い雑魚中の雑魚、何も習得してない人間族でも殺せる可能性がある小悪魔など死ぬしかない。

 そう印象付ける出来事はさっきもあった。


 魔猪は人間族の食料になる。つまりは、装備さえ揃えれば人間族にも殺せるのに、アシュバは集団で噛み殺されそうになっていた。

 その魔猪を統率している魔猪王を相手にするなど自殺に等しい。



「他には何もないの?」


「あります。けれども、勝算は0に等しいです」



 ソフィアは、真摯な目でアシュバに問い詰めた。



「どうして?」


「それこそ暗黒宮・迷いの森の名前になった守護者——対魔皇帝用殲滅型自立ゴーレム・ゴガガを殺さないといけないからです」



 ソフィアは、頭を傾けてハテナを浮かべた。

魔皇帝は魔王を統べる皇帝になります!

その戦力も権能も馬鹿げてますが……それは後々!


次の更新は明日あたりかと!

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