鹿肉フェスティバル
ソフィアは後悔していた。
目の前に積まれた肉の壁を見て、ソフィアは後悔していた。
「やり過ぎちゃった」
ついつい負けたくないからと【竜皇気】を全開で解放して森を走り抜けた。
鹿が認知しても動けない速度で首をへし折り、後ろで待機している魔猪に投げ渡していくのを繰り返した結果、一部の地域で鹿が絶滅した。
隣に並べられた量の差にソフィアは絶句するしかない。
ドゥクスは20匹程。
ズーズンはゼロ匹。だけども口周りが血で染まっていた。
これだけの数を狩ってきたドゥクスは凄い。更に食べてしまったが沢山狩っただろうズーズンも褒めていいとソフィアは考えている。
「……ソフィア様、本日も宴にされますか?」
「うん、そうだね」
二日連続で宴が始まった。
★★★★★
今回の会場はソフィアが住んでいる焼け焦げた跡ではなく魔猪族の縄張りで行わられる事になった。
どれだけ祭り事が好きなのかソフィアは疑問に感じてしまったが今回に関しては仕方ないと思っている。
何よりも自分自身が調子付いて狩りすぎてしまったからだ。
(全部食べきれるかな)
殺したからには全て食べ切りたい。
それだけは大切にしないと誰かに怒られそうだとソフィアは思いながら考えていた。
「魔猪達が解体を終わらせました。あとはズーズンが炎の調整をしていますのでもう暫くお待ちください」
ソフィアはアシュバの説明を聴きながらお利口に待っている。正直に言えばすぐに食べ始めたい気分ではある。何よりも【竜皇気】を使って良い具合に疲労も溜まっているし、今お腹一杯になれば幸せになれるだろうと考えている。
「ガウ!」
大型犬ほどになっているズーズンが鹿の足部分を咥えて持ってきた。
ソフィアの考えを読んでくれたと考えて満面の笑みでズーズンを迎え入れる。
ソフィアの目の前に座ったズーズンは鹿肉を押し付けるように渡してくる。
「ヴォルグ……イイヤ、ズーズン殿ガ餌ヲ渡スナド珍シイデスナ」
ドゥクスが背中に焼いた鹿肉を大量に乗せてやってきた。
脚の部分が多いのは食べられる範囲の大きさなのか、ソフィアの隣で凝視しているズーズンの好みか分からない。
「そうなのズーズン?」
お利口さんにお座りの状態で待機しているズーズン。
ソフィアはズーズンの頭を撫でながら貰った鹿肉を切り取り渡して上げる。
しかし、ズーズンは食べなかった。
「魔物ノ掟デス。強イ物カラ食事ヲ頂ケルト」
「え、結構普通に食べていたと思うけども」
「それは気分だと思いますよ。所詮は犬っコロですから」
なるほどと相槌をしたソフィアは一口だけ食べてからズーズンに指示を出した。
やっとズーズンが食べ出したのを見たソフィアは優しく微笑む。
(こんな環境でも幸せってあるんだね)
どこか悲愁を思わせる雰囲気を身に纏って声を出した。
「じゃあ皆も食べて!」
ソフィアの声が響いてから宴会は始まった。
魔猪達が一斉に動き出してそれぞれの好みを持っていき、食事を楽しんでいる。
流石に1000匹となれば70匹を超える鹿を一瞬で消費してしまう。
追加で捕らえる必要がある為、ソフィアは立ち上がった。
「如何されましたかソフィア様?」
「もう少しだけ鹿を獲ってくるね」
「ソフィア様が直々にですか!? 雑用ならば魔猪の精鋭部隊に任せれば良いですよ」
アシュバが想定していた反論をしてくる。
「ううん、私がそうしたいだけだから大丈夫。ほら、皆は楽しんでいて」
アシュバが言いかけた瞬間に【竜皇気】を纏って跳んだ。
★★★★★
ソフィアが森を飛んで行くように居なくなるのを見届けたアシュバは溜息を吐いている。
「もう勝手なのですから」
「アシュバ殿ハ良イノデスカナ」
「私が行った所で足手纏いになるだけです。それに私に敬語は必要ありませんよ」
「分カッタ。同志トイウ事ダナ」
「そうです。しかし、私がソフィア様の右腕であるのは変わりません。そこは履き違えないで下さい」
ドゥクスはアシュバの言葉に高笑いした。
まるで嘲笑しているようで嫌な気持ちが積み重なる。
「イヤ、申シ訳ナイ。我ノ旧友ト似テイタ物デナ」
「旧友……アハバ・イシュア様ですか」
「ソウダ。アシュバ殿ノ元主ダ」
その言葉には少しばかりか重みがあった。
旧友をどうして裏切ったと言いたげな声だとアシュバは思う。
「魔皇帝様とは主従契約はしてませんよ。なのでビジネスパートナーというだけです」
「——異世界語カ、ビジネスナンチャラトハ」
「そんな所です。それよりも私は思っていたのですよ」
アシュバは指の動きだけでズーズンに指示を出す。すると、唸り声をあげた。
ドゥクスの世話をしていた魔猪達が一斉に距離を取り出したのと同時にズーズンが本来の姿を取った。
明らかな威嚇だがドゥクスの瞳は至って冷静な雰囲気を持っている。
「昨日のは驚きました。毒でしたら貴重な獣族の生き残りを絶滅させなければいけない所でしたよ」
「モシ、ソウナッテイタラ自害シテイタガナ。ソレデ本題ハ違ウノダロウ?」
アシュバの牽制もドゥクスには効かなかった。これが魔王の度量だとアシュバは理解を再修正してから話し始める。
「では、正直に言います。たった一度の敗北でソフィア様を慕う理由が分かりません。何が狙いですか」
アシュバの眼光がドゥクスを貫く。それに対してドゥクスは落ちついた呼吸をしている。
まるで分かっていた表情だった。
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