酔っ払いソフィア
目が覚めた。
異様なほどに頭が痛く足元も少しだけフラフラしている。
「あたま、いたぁ……」
ソフィアはきっと朝だろうと思いながら身体を起こす。こめかみを押さえながら辺りを見渡した。すると、ズーズンがハッと顔を起こしていた。
ズーズンはソフィアと目が合うと身体を起こして尻尾を振り出す。起きたのが嬉しいみたいだった。
「おはようズーズン」
「ヌンヌ!」
「何その声?」
子犬になっているズーズンは尻尾を振りながら身体を押し寄せてくる。とても可愛らしい仕草に心が癒されていくが、ズイズイと押してくるせいで少しばかりかクドイ。
「どうしたのもう」
ズーズンを持ち上げても舌を出してハアハア言っていた。
「む? 何が言いたいのー」
とにかくご機嫌なズーズンを軽く撫で回してから降ろした。するとタイミングよくコミカルな足音を響かせながらアシュバが来た。
「ソフィア様、お目覚めになりましたか!」
「どうしたのアシュバ?」
「ソフィア様がお酒をお飲みになってから気を失ったように眠られたので心配してたのですよ!」
両手で口を押さえるソフィア。
まさかあのジュースがお酒だったとはおもわず罪悪感が芽生える。
「倒れただけならま、まだね……」
と小声で言った時、周りの風景がおかしい事に気がついた。
雑に木々がへし折れて、大地にはヒビ割れが目立つ。
まるで化け物が大暴れした現状にソフィアは冷や汗を掻く。
「も、もしかしてこれって私?」
「……はい、ソフィア様が【権能】を解放しまして……」
アシュバはソフィアが何をしたのか語り出した。
★★★★★
全てを聞いたソフィアは虚空を見つめた。
まさか自分がここまで酒癖が悪いとは想像も出来てなかった。それどころか酒は初めてだったせいで認知することすら出来てなかった。
バーニックが酒を飲んで大暴れしたと聞いていた筈なのにソフィアは同じ間違いをしてしまった。
酒は魔族を惑わせる。
そう肝に免じたソフィアは今だに眼前で待っているアシュバを見る。アシュバの仕草はモジモジとしていて言い辛そうにしている。
「まだ何かあるのアシュバ」
「い、いえ、その」
「うう、悪いことは早く済ませて」
まだ悪いことが残っているのかとソフィアは身構えた。
「私がソフィア様を止めました……」
「あ、アシュバが!?」
ソフィアに守られているアシュバがどうやって止めたのか考えても出てこない。
そもそも【竜皇気】を目の前にしてアシュバが出せる手段など何もない……とソフィアは考えていたが一つだけ考えついた。
「え、もしかして【誘惑】を?」
「はい……主人に向かって洗脳魔法を放ちました……如何様な罰でもお受けします」
「あ、いや、ちょっと待ってアシュバ」
ソフィアには疑問点があった。
【誘惑】は下級の洗脳魔法なのだから普通の魔族が掛かる筈がない。
「その……ソフィア様はお酒をお召しになられますと精神の障壁が弱るみたいで通りました……決死の決断でしたが掛けた事には間違いありません」
どうか私を裁いてください——アシュバはそう言うと頭を下げた。
だが、ソフィアはそれどころではない。
酒を飲めば性格が変わるのも問題だが、魔族の中でも一番耐性があると言われている竜族がたった一杯の酒を飲めば下級中の下級魔法でも食らってしまうのは大問題。
早く気がついたからこそ良かったけども、ここが魔族の都市だったら下克上狙いに首を切られていたかもしれない。
そう考え出すとアシュバが救いに見えてきた。
「ううん、気にしないで」
「で、ですが!」
「私の心が狭いと言うの?」
ソフィアは最近気がついた。アシュバは忠誠心が高過ぎるから己の失敗に対して厳重な刑罰を求める。そこにソフィアが「大丈夫、私もそう言うミスあるから」などの言葉を掛けても頑に認めない。
アシュバが言うにはソフィアが白の物を黒と言えば黒になるらしいが、こう言う所は一歩も引かない。
だけども、ソフィアは見つけた。
アシュバが言ってきた事に「それは私の〇〇を認めないのか」と問いかけると訂正してくる。
「いえいえ、滅相もございません! ソフィア様こそ慈愛と慈悲に相応しい御方は御座いません!」
「それならば私が許すと言えば許すになるの。二度はないよ」
「はい!」
少しだけ魔王っぽくなった気がするが疲れるからやりたくはないとソフィアは考えている。
「それで、アシュバなんて命令したの?」
「はい、眠りなさい。と呪禁をかけました」
ソフィアはポカンとしていた。
もっと拘束力の大きさな呪禁を掛けたと考えていた。なのに、呪禁は基本中の基本である三大欲求に呼びかける物だった。
「たったそれだけ?」
「……はい」
「それだけで私は眠ったの?」
アシュバは申し訳ないと顔に書いて頷いた。
「なんだ、それだけなら余計に怒れないよ。皆と私を助けてくれてありがとうねアシュバ」
「そ、そんなお褒めの言葉だなんて!」
「いいのいいの。それで他のみんなは?」
ソフィアは今だに恐縮しているアシュバを放って周りを見渡した。あれだけの数いた魔猪の姿が見えないのがどうにも変に感じてしまう。
「もしかして縄張りに帰ったとか?」
「……はい、一部は帰りました」
「え?」
一部だけは元に戻ったと話した。つまり他の者たちはどこに消えてしまったのか。
「そ、それは?」
ソフィアには嫌な気を感じていた。
また何者かが——。
「ドゥクスとズーズンでどちらが鹿を狩れるか競っているらしいです。そして精鋭部隊に属する魔猪達も参加しているらしいです」
「え、あ、そっちね」
溜息を吐く。
もしかしたらまた犠牲になってしまう。そう感じてしまった。
「なんでも魔王の中でも上下関係を作るために始めたらしいです。これから開始しますのでソフィア様もぜひご参加ください——あ、もちろんソフィア様は数は関係なく支配者ですよ!」
「うん、私も参加するよ! ドゥクスの本当の力も知りたいしね!」
「はい!」
そうしてソフィアはドゥクスが待つ場所まで向かった。
案外いたずらっ子の素質があるソフィアちゃん。。
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