初めての宴
宴の直前、ソフィアの目の前に魔猪達が集まっていた。
一匹一匹が大きくない魔猪でも1000匹も集まれば圧巻な光景になる。ソフィアは、これほどの魔族を一度に見たことがない為、下がってしまいそうな気持ちになるがグッと堪える。
眼前に居る魔猪達は鼻を地面に押し付けて臣下の格好を取っている。ソフィアにとっては心地よく無い光景のはずだが、1000匹が同じ動きで綺麗に頭を下げ、微動だにしてない様子を見ていると高揚感を覚え始めている。
「面ヲ上ゲヨ」
ドゥクスの腹に響く低音がソフィアの一歩前で聞こえた。声だけの威圧でソフィアも下げていない頭を上げてしまいそうな気分になった。
「ソフィア様は長い式典を嫌います。なので手短にしましょう」
ソフィアと一番長い付き合いになるアシュバが空気を読んで発言してくれている。
こういうのは聞いていたし、後日写真などでバーニックから見せてもらっていたがその場の——しかも中心になるのは初めてだった。
「えー、では手短に私から、ソフィア様がこの暗黒宮に降り立った日を話しましょう。あの日、まだ暗黒宮は分裂してました。魔猪王と魔狼王。この二つの勢力は決して分かり得ないものでした」
ソフィアはアシュバの後ろ姿を見た。
さっきまでは静かに座って居たのに膝立ちに変わっていた。見た目からやる気が漲っているのが伝わってくる。
もしかして手短にすると話していた筈なのに長い気がしてきてしまった。
「……」
ソフィアは無言の圧力と視線を送ってみるが、前で話しているからソフィアの視線には気がつかない。
遂にズーズンと出会い、戦っている姿を物凄く誇張して話し始めた。
「私は見たのです! 魔狼王の【権能】に飲み込まれて助かった魔族は居ないのに! ソフィア様だけが魔狼王の胃袋から帰還したのです!」
「へえー胃袋ね……ん?」
胃袋ってことは一度、食われているという事になる。そもそも、【権能】とはゴガガで見せた枝を喰らった大技の筈なのだが……ソフィアの記憶には無い。
(はったりかな?)
「そして——」
アシュバの話が続いていく。
ソフィアの声は届かなかったのか、気にせず話していきゴガガとの戦い、ドゥクスとの決闘も話を誇張している。
ドゥクスの話に関しては横に本物が居るのによく言えたものだと思う。
「魔猪王を倒した一撃! ゴガガに魔力を吸われて弱体化したとは言え、本来ならば土魔法と連結してる魔猪王を持ち上げるのは不可能です! なのにソフィア様は簡単に引き裂き持ち上げてしまったのです!」
土魔法で連結などソフィアは聞いた事がない。あの場には多くの目撃者が居たのにアシュバは話を盛っている。
「あ、アシュバ。そろそろ……」
ソフィアが声を掛けるとアシュバが少しだけ振り向き、首を縦に振った。
「まだまだ話し足りませんがソフィア様の威光は今後も広まるでしょう。それこそ魔皇帝様を超えるほどの」
「アシュバ」
ソフィアの声がアシュバに届く。
流石にくどくなってきて嫌な気分になってきた。
「……ごほん! では、ソフィア様による暗黒宮の統治を祝福しまして、一言だけ頂きたく思います。皆の衆、傾聴しなさい」
話さなければいけない展開になってしまった。ソフィアは、てっきりこのままアシュバが全て終わらせてくれると考えていたのに。
「え、あー」
王族として、慕ってくれる皆の頂点として、ソフィアは小さな胸を張る。
同盟と話していたのに、不本意ながら王様扱いになってしまった。もうどうしようもない気持ちもあるが、ここは勇気を出した。
「私がソフィア・メルクク・ドルドレイド。魔竜王の正統なる継承者にして原初の魔族が一つ——あ、この場にいる魔族達は皆、原初だったね」
小声で漏れてしまったが首を横に振って思考を振り払う。
「えーっと、私は何も偉くないです。私はただがむしゃらに頑張っていたら偶然、こうなっただけ。本当に凄いのは貴方達です」
真摯な瞳を持ってソフィアは話す。
「けれども、後は……私に任せてください。私が絶対に——ゴガガを倒します……頼りないかもだけど」
ソフィアはドレスの裾を掴んで話していた。
精一杯の声だった。
まだ変声期も終えていない子供の声。
無力で頼りない声は震えていた。
今にも消えてしまいそうな声に情けなく思ってしまった時、後ろから声が聞こえた。
「なんと有り難いお言葉でしょうか!」
涙を流しながらアシュバが拍手していた。
「ウム、アシュバ殿ノ言ウ通リデス。幼キモ運命ニ争ウ姿、感涙ノ極ミデショウ」
ドゥクスが鼻をすすっていた。
どうしてそこまで感動してくれるのかソフィアには分からなかった。けれども、魔猪達の声が聞こえてきた。
「ブギイ!」「ブギブギ!」「ブブギ!」
それはソフィアに対する歓声な気がした。
「ソフィア様、最後に一言だけお願いします」
いつの間にか横に立っていたアシュバがボソッと言ってきた。
バレないように少しだけ頷くと声に出す。
「あと数日でここを出ましょう! では、統一を祝福して……か、乾杯!」
多くの声が重なる。
始まりの言葉がこれで良いのか分からないが、その場の雰囲気で何とかなったと胸を撫で下ろす。
ただゴガガを倒す——それだけは本気で思っていた。
★★★★★
宴は始まったのと同時に多くの魔猪が移動し始めたのだが……。
その全てがソフィアの目の前に並んでいた。
全員、一言ずつだけでも挨拶がしたいらしいとドゥクスから教わったソフィアは、仕方ないかと応えている。
何かしらブギブギ言っているがソフィアには同じに聞こえる。しかし、隣で訳してくれるドゥクスの言葉は違うものばかりだった。
同じ言葉に聞こえてもブを強く言うのか、ギを強く言うのかで変わる。そう推測したソフィアは少しだけ賢くなった気がした。
考えながら流れ作業の様に「ありがとう」「貴方もね」「これからもよろしく」を使い分けていくと終わっていた。
途中で切り替わったのか、1000匹ではなく精鋭部隊と言われていた300匹だけになっていた。アシュバの配慮に感謝する。
それでも疲れてしまったソフィアは、夜風を受ける為にフラフラと出歩く。しかし、子魔猪が付いてきたり、行く先々で挨拶されたり、と休まらない。
どうにか抜け出せないか考え出したソフィアは、ズーズンを呼ぶ事にした。
「ズーズンいるー?」
「キャン!」
すると、子魔猪達と一緒に子犬が顔を出した。舌を出して尻尾を振っているのは可愛いが、背中に乗せてもらおうと思っていたソフィアは悪い気持ちになってしまう。
「うーん、楽しそうでよかった。私の事は気にしないで遊んでなね」
「キャン!」
返事をして子魔猪と追いかけっこを始めたズーズンを見送ってソフィアは歩き出した。
その時、ふと感じた。
少し前までこの中を絶望して歩いていたのに、今は鬱陶しいと感じるほど賑やかな事に。
それだけ周りの環境は変わって心情も変化していった。心豊かになっていくのを感じる。
(これならもう少し……あんな馬鹿みたいな話じゃなくて、カッコイイ演説するんだった)
賑わいを肌で感じながらソフィアは思った。
(次は勝利の演説かな! ふふふ、楽しみだな)
ソフィアは密かに思いながら、魔猪達が飲んでいる果汁を見る。
「プビギ!」
「ん、私にもくれるの?」
「ブギー!」
ソフィアは魔猪の頭の上に乗っている木の器を取る。その中身は葡萄を潰した果汁ジュースが入っていた。
「ありがとうね」
一口だけ飲み込むと味わった事のない程の芳醇で受け入れ難い味わいが広がる。口に合わないと思い、飲み込むと喉が熱くなっている。
今まで経験した事が無い飲み物に驚いたのか、いつの間にか立っていたのに座り込んでしまった。
立ち上がろうとするが、足元が覚束ない。
視界も途切れ途切れになってしまい、瞼が重く感じる。
「え、あ、えー?」
呂律が回らない。
顔は熱い。
足は思う様に動かない。
そして異様な眠気に抗えず、ソフィアは意識を失った。
ソフィアちゃんは13歳ですが、魔族と人間では歳で成長する臓器の過程も違います
そのうち出てくるドワーフなどは、10歳くらいから嗜みますし竜族もそのくらいです!
ソフィアちゃんが弱いだけです!
次の更新は明日!




