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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
第1章 囚われた魔王の娘
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困惑は続く

「ソフィア様! オ待チ下サイ!」


「待たない! それに様は無しと言ったでしょ!」



 ソフィアは今日も困惑していた。

 アシュバがドゥクスに真なる意味——ソフィアは思っても無かった妙案——を話してきた筈なのに……。



「アシュバ、なんでこうなったの!?」



 ソフィアがアシュバに怒鳴るように言うとアシュバは大変奇妙な笑顔を浮かべながら話してきた。



「ソフィア様の偉業を話しましたら意気投合しまして……それにドゥクス殿もソフィア様の素晴らしき生き様に感銘を受けたと言っておりました」


「ハイ、ヤハリ我ハソフィア様ノ為ニ命ヲ捨テタク愚考シマス」


「本当に愚行だよ! あっ、です!」



 ソフィアはアシュバを睨みつけるが笑顔を向けられてしまい、怒るに怒れない。

 もう心の癒しはズーズンしかないと足元に居たから持ち上げる。



「はあ……なんでこうなるのかな」


「プギィ?」



 ソフィアは、ズーズンのお腹に顔を埋める。いつもに比べて暴れるズーズンを力ずくで止めようとした時、土の匂いが濃い気がした。



「へ、魔猪?」


「プ、プギィ……」


「キ°ャン!」



 よくよく見るとズーズンじゃなかった。

 小さな魔猪を抱きかかえて匂いを嗅いでいた。



「キャキャン! キャン!」



 足元で鳴き喚いているズーズン。

 今手元にいるのは魔猪の子供。


 ズーズンから浮気したみたいでソフィアは罪悪感に苛まられる。だが、子魔猪の目を見るとクリクリで可愛い黒目をしている。

 それに小さな手足に比べてずんむりとしている胴体。これ以上、可愛い生き物がいるか分からない程の愛らしさがあった。



「ごめんねズーズン!」



 ソフィアは我慢が出来ず、魔猪の匂いを嗅いだ。

 土の匂いが濃い。けれども、生まれたばかりの赤ちゃん特有の良い匂いもしている。



「キャキャキャン!」



 ソフィアに前足を掛けて抗議してくるズーズンを無視して魔猪を堪能した。



「ププギ」


「ソフィア様、慈愛ヲ下サリ有難ウゴザイマス」


「ん?」



 子魔猪を抱いているとドゥクスが言った。けれども、ソフィアにはそれほど深い愛情を持って抱いているわけではない。



「そんなに難しく考えないでください」


「イエ我デハナク、”トギア”ガ申シテオリマス」



 ソフィアは胸元に居る子魔猪を見る。

 顔を突き出してきて、ソフィアと目を合わせてきた。



「君がトギア?」


「プギュ!」



 元気に返事しているからトギアだと分かった気がする。けれども、ソフィアには全ての魔猪が同じに見えてしまう。



「トギアは、ソフィア様が助けた子魔猪の一人ですね。それに——」



 どこからかアシュバが現れて声を出した。

 いつも突然出てくるからソフィア達は驚かないが、トギアは驚いて仰け反っていた。

 落ちないようにソフィアは抱きしめようと考えた瞬間、手を離してしまった。



「あ、」


「プギッ!」



 地面に落ちて小さな悲鳴を上げている子魔猪に慌てて寄った。



「ご、ごめんね!?」



 怪我は無いか全身を優しく撫でるように見ると怪我はなく安心する。



「アシュバ殿ガ急ニ出テキタカラダ」


「申し訳ありませんソフィア様、それにトギアも」



 頭を下げているアシュバにトギアは声を出していた。ソフィアにはその声が「大丈夫!」と言っている気がした。



「よかった……」



 ガサガサと草木から他の子魔猪達が顔を見せてきた。何かフンスフンスと声に出している子魔猪達の所にトギアが走っていく。

 ソフィアはそっと手を振って見送る。その時、自分の手が視界の隅に写り、悲しさがジワジワと広がってきた。



(……どうしよう)



 反射的に展開してしまった【竜皇気】が手に纏わりついている。もしあのまま子魔猪を抱きしめていたら血まみれになって死んでいた。


 考えてしまうと怖くなってきた。

 ……ソフィアは強力な力を手に入れたのと同時に簡単に命を奪い取る力も手に入れてしまった。



「ソフィア様」



 少なく無い罪悪感がソフィアの心に傷を作る。守るべき者が出来るのは良い。けれども……。



「如何サレマスカ、ソフィア様」


「あ、え、ごめんなさい。なんの話?」



 ドゥクスが話しかけていたが、ソフィアは気がついて無かった。ドゥクスの表情は読めないソフィアだが、きっと落胆しただろうと思う。



「アシュバ殿ハ、謝リマシタガソフィア様ハ如何サレマスカ?」


「トギアも許してるなら良いと思います」


「ソウデスカ。我ガ息子ニモ注意シトキマス」



 ソフィアは少しだけ止まった。息子なんてどこに居たのだろうか。



「息子って?」


「モチロン、トギアデス。ソフィア様ニ甘エ過ギダト忠告ヲ」


(わたくし)が言いかけていた事ですねドゥクス」



 アシュバがドゥクスの隣に立っていた。

 今回ばかりはアシュバに申し訳ないと思うソフィアは、謝ろうと思い付いたが今は話を聞く事にする。



「ソウダトモ。聡明ナソフィア様ナラ見抜カレテイルト思イマスガ」


「そこまで器用じゃないですよ」



 どこからかソフィアは頭が良いと思われてしまっている。元凶の方を見てみたが気が付いていない。やっぱりアシュバには謝らないと決めた。



「ねえ、ドゥクスも私が聡明だとかなんとか思っているんですか?」



 もはや魔猪王と思っていないソフィアは一歩前に出て聞く。ここで頭が良いと思われてはいけない。頭が良い魔族は何かと面倒な事に巻き込まれるとアシュバを見ていれば分かる。



「ハイ。陛下ノ懐刀アシュバ殿ガ言ウノデスカラ」


「……私はそんなんじゃないよ。みんなと同じで頭も何もかも普通ですよ」



 ドゥクスは理解してないのか虚空を見る目をしていた。その時、ソフィアはふと思ってしまった。


(あれ、同盟を申し込んだのに一般と同じなんてダメじゃない?)



 その考えに達した今、ドゥクスの目の理由が嫌という程に分かる。



「え、あ、そのー……そういう意味じゃなくて」


「ゴ謙遜ヲ! ソフィア様ハ万物ヲ見ル【権能】ガ御座イマス!」


(こいつもアシュバと同類か)



 アシュバと同じでドゥクスは思い込んだら最後まで突き進むタイプだと知った。

 その為、ソフィアはとにかく偉そうな態度だけしてその場を適当に流す事にした。猪突猛進とはこの事なのだろうか。



「貴方がそういうならそうなのでしょうね。期待していますよドゥクス」



 マントの代わりにドレスをクルリと翻す。そして後ろに向かって歩き出した……目的地は決まっていない。

次の更新は明日!

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