獣の王達
人型になったドゥクスが跳躍した。
片手ずつで握られた黒い剣を構える。
空を覆い尽くす雷雲から数多の雷が飛ばされてくる。
パッと見だけでも百は超える雷にドゥクスは笑った。
「持って五分か——充分だ」
雷が眼を焼き払うように突き進んでくる。
しかし、ドゥクスは黒い剣を振るって”雷”を切り裂いた。
切り裂かれた雷は、魔法から強制的に解除されて霧散される。
「獣王ですか〜! 良い死体になれますよ〜」
「戯言だな人間の皮を被った化け物め」
「そういうの女の子にどうですかね〜」
ガルボスの身体に雷が降り注ぐと全身が雷の身体に変わった。
一瞬で跳躍中のドゥクスに迫ると雷で作り上げた槍を向けた。
迫ってくる雷槍を黒い剣で触れる。
「ハマり……どうして雷が流れないんですか!」
「その前に切り裂いたからな」
雷槍が霧散して消えた。
ドゥクスから距離を取ろうとしたブティだったが、もう遅い。
「いつの間に……」
雷雲が綺麗に分かれていた。
どうやって切られたのか分からない様子だったブティの体が二つに分かれる。
「まだ戦うだろ」
「もちろんですよ! 精霊王の本気を見せます〜!」
ブティが遊びは終わりだと言わんばかりに声に出した。
「【権能解放・精霊王顕現!】」
全身を包み込む五つの属性。
巨大化したガルボスの肉体にドゥクスは、柄に力を込めた。
★★★★★
バーニックの攻撃が次々と複雑化され出した。
腕が飛び散り、脚が蠢き、身体から複数の目玉が視界を埋め尽くす。
不気味な光景にズーズンは、さらに激しく攻撃を行う。
黒炎を纏わせた爪で肉体を削り、黒炎の牙で焼き払う。
業火魔法が飛び交い、次々と焼却していく。
しかし、バーニックの肉体は地中に埋まる血肉から補充されていく。
その多さに嫌気が差して鬱陶しい。
地中から飛び出してきた手がズーズンの身体に突き刺さった。
その中で増えようとしてくる力にズーズンは【権能】を解放する。
「【権能解放】」
丸呑みにされたバーニック。
時空の狭間に消し飛ばされて何も無くなった。
筈だった。
異空間の胃袋で増幅され続ける肉塊。
あまりにも増え続けていき、遂にはズーズンの異空間を突破してしまう。
「グルフッ!」
限界に感じてズーズンが吐き出した。
ズーズンから吐き出された肉塊は、地中の肉片と合わさりあっていき空に達する。
「魔竜国、守るのは、俺だ」
巨大な肉塊は、空に達する肉の竜になった。
その巨大にズーズンは無理をしてでも人化する必要が生まれてきた。
この場で人化すればソフィアを助ける事が出来なくなる。しかし、その前に破滅が来てしまうかもしれない。
——だから
と思った時だった。
肉の竜が突然、倒れた。
ズーズンは、飛んできた影を見るとソフィアとは別の色の全身鎧を来た者だった。
「狼、助太刀する!」
しゃがれ声は、ソフィアが初めて前線に来た時に魔皇国軍が戦っていた相手。
だからこそ、牙を剥き出しにして唸った。
「ち、違う! 私はソフィア様の為に来たんだ!」
「グルル!」
「とにかく陛下を止めるぞ!」
ズーズンの事を無視した全身鎧がバーニックに突撃して拳を振るうと次々と肉塊が削られていく。
その拳は、まるでソフィアみたいだったが明らかに劣る。
だけども、同じ種族ならば信頼できるかもしれない。
もしソフィアの名前を出して騙すならば……人化して消し炭にする。
その思いでズーズンは、バーニックに向かう。
「一度削られた肉体は復活できない! だが、削らなければ無限的に巨大化できるぞ!」
「ガウガガ!」
「……何と言っているか分からないがやるぞ!」
全身鎧がバーニックを止めるべく【竜皇気】を全開にする。
その瞬間を匂いで察知したズーズンは、業火魔法を放つ。
燃え盛る炎と肉を刻む風。
二つの要素が揃ってもバーニックは、まだ大きくなる。
これほどの死体が今回の戦争で死んだとは思えない。
つまり外部から持ち込んでこの地に埋めた。
そうとしか思えない状態にズーズンは怒りが湧いてきて、黒炎で伸びてくる腕の触手を燃やした。
「——陛下が止まった」
唐突にバーニックが停止した。
おかしな様子にズーズンが辺りを見渡すと、いつの間にか色んな場所で木が生えている。
増えていく木は、次第に森へと変わった。
「どうなっているんだ」
全身鎧が不思議に思っているとバーニックが方向を変えて急速に動き出した。
ついさっきとは打って変わって高速に移動するバーニックが目指している場所は、市街地だった。
「力、足りない、魔竜国、を、守るには」
「ま、まさか! 陛下は補充する気だ、急げ狼!」
「ヴォォン!」
市街地に向かうバーニックを止めるべくズーズンが走り出したのと同時に全身鎧が動き出す。
「何があっても止めて見せます!」
その言い方を聞いた時、ズーズンは何かを思い出した。
いや、仄かに香った匂いが原因かもしれない。
初めて暗黒宮で出会ったソフィアの時に感じた香り。
「ちからをかす。のれ」
「狼が……喋った」
「おどろいているばあいか」
ズーズンは、全身鎧がナーシャだと気がついた。
それならば信用ができる。
何故ならば、ソフィアに染み付いたその匂いが優しさだと覚えていたから。
★★★★★
魔皇国の作戦司令部で働いている一人の悪魔に魔報が入った。
「誰だ、この魔法通信暗号? アシュ……バ——、ま、まままさか!」
魔竜国の国境沿いにある前線基地から入った魔報に驚いてしまった。
その魔法通信暗号は、一人一人が緊急時に遅れる通信魔法なのだが、送ってきた人物が百年前から行方不明になっていた小悪魔。
いや、その悪魔は——
慌てて飛び出した。
魔皇国にある宮廷では恥じるべき慌てようで走り抜けて、王室の扉を激しく叩く。
「何事だ!」
扉の前に立っていた悪魔兵の一人が怒鳴るが、それでも叫んだ。
「陛下! アハバ様! アシュバ様から通信魔法です!」
その言葉を聞いて悪魔兵が、ポカンとした顔をしていた。
巨大な扉が開けられていく。
悪魔の皇帝が姿を見せた。
その夥しい魔力に悪魔と悪魔兵は倒れてしまいそうになるが、グッと堪えて声を出した。
「アハバ様! アシュバ様が魔竜国前線基地から救援指令です!」
「……そうか」
深く息を吸ってからアハバは、声を出す。
「全悪魔に告げる。魔竜国を”人界”に認定する。直ちに悪魔の力を持って——蹂躙しろ」




