魔猪と策略
ドゥクスの怒号が広がる。
ズーズンが肉の竜となったバーニックに飛び込む。
その時にカウンターとしてバーニックが爪をたたきつけようとした瞬間に土魔法・土槍がバーニックを襲う。
魔猪の数だけ飛ばれてくる土槍が次々とバーニックの肉体に突き刺さる。
多数の土槍が突き刺さって体勢を崩した時にズーズンの黒炎を纏った体で突進されてバーニックは転んだ。
すかさずドゥクスの声が届く。
「土縄、急ゲ!」
「「ブブギ!」」
土魔法・土縄が一斉でバーニックを押さえつけた。
だが、地中から腕が飛び出してきて土縄を強引に引き千切る。
バーニックの行動を見るよりも早くズーズンが上に乗ると黒炎を放射して浴びせた。
凄まじい音を鳴らしながら身体を燃やしていくと異臭と煙が広がる。
腐臭が魔猪達の鼻を刺激していくのと煙が目に染み込んでしまった。
同時に嗅覚と視覚を奪われたと思った瞬間、一匹の魔猪が悲鳴を上げる。
「プギイイイ!」
「——敵襲!」
ドゥクスの声が前線に広がると魔法を発動しようしたが、次々と悲鳴が上がる。
「……ドコダ!」
ドゥクスも煙と腐臭によって視覚と嗅覚が使えない。
だが、歴戦の魔王として君臨していた期間とゴガガとの死闘で築かれた感覚がある。
意識を研ぎ澄ます。
魔狼王がバーニックを焼き払う音。
魔猪達の戦慄する悲鳴。
ガルボスが……居なくなっている。
その事実に気がついた瞬間、腹に突き刺さる。
何が起こったのか重たい図体を退かす思いで見てみるとガルボスが生み出した土剣が腹を突き刺していた。
「ガルボス!」
ドゥクスの声が響く中、ガルボスの声が聞こえて——いや、童女の声だった。
「弱り切った魔王を殺して乗っ取るなんて容易いですよ〜!」
見た目はガルボスなのに声がブティという気味の悪い状態になっていた。
どうやって乗っ取ったのかドゥクスは思うが、それよりも距離を取らなければいけない。
身体を強引に半回転させて土剣を抜き取ろうとするが、予想以上に深く刺さっている。
そのまま更に一回転分は身体を回して強引に抜き取った。
「怪我が見えますね〜! その程度の傷でも……」
土剣が溶けると人骨と人皮で作られた杖が出てきた。
杖の先端をドゥクスに向けると一滴の血液が飛んできる。
その血こそ前にガルボスが言っていた変化させるものかも知れない。
そう感じながら攻撃を避けながら声を張った。
「ドウヤッテ乗ッ取ッタ!」
ガルボスは肉体ではなく魂が無機物に宿って数百年生きていた精霊。
ならば、外装となっている肉体を奪った所で魂であるガルボスに精神的攻撃を受けて負けるはず。
「こんな簡単な事も分からないんですか〜?」
嘲笑しながら血液を飛ばしてくるブティに土魔法・土槍を無詠唱で放った。
次の瞬間、ブティの体から五つの光が飛び出して土槍を風化させた。
あの力は、ガルボスが持っていた【権能】。
様々な環境から判断できるとしたら……。
「貴様モ魂ノ存在カ」
「ご明察です〜! 僕は、魂と肉体を操る賢者……序列”二位”のブティ・リスチルです」
地面から腕が次々と吹き出してくる。
ドゥクスの足を掴み上げると腕が爆発した。
爆発の熱は凄まじい。それこそ火炎魔法に匹敵する熱量にドゥクスは、歯を食いしばって魔法を行使した。
「【大地魔法・揺レル大地】」
地面が大きく揺れ始めた。
しかし、場所が局部的であってドゥクスとブティの周りだけが揺れる。
徐々に揺れが強くなっていき、立っていられるのもやっとになって、最終的には地面が大きく割れた。
どんどんと揺れが強くなってブティを襲おうとした時、白色の光が飛び出してブティを包み込む。
そうするとブティは、空に舞って停止した。
空中に逃げてしまえば逃げられる。
あまりにも当たり前なのだが、それが出来るからこそ五属性の王を乗っ取ったと実感させる。
「油断していると下敷きにされますよ〜」
その言葉を言った瞬間に目に飛び込んでくる。
巨体が二つ。
片方はバーニックで、もう片方は血まみれになったズーズンだった。
「ズーズン殿! 無事デスカ!」
「だまれ」
血まみれのままズーズンが一言だけ発すると攻撃を繰り返す。
ソフィアが居ないから喋っているのか、それよりも緊迫した戦いが続いて余裕が無いのか。
どちらにせよ、難しい戦いになってきているのは間違いない。
「余所見は禁物です〜!」
空から雷雲が作り出していく。
雷雲がガルボスのほとんど土だった身体に付着すると頭が雷雲になって雷が見える。
次々と雷が落ち始めてドゥクスと魔猪達を焼き払う。
「ブギブギ!」
「退避、退避セヨ!」
逃げ出していく魔猪に向かって雷が降り注ぐ。
乱雑な雷だと思っていたが違う。
この雷は、的確に魔猪だけを狙って降り注ぐ。
どこに逃げても空気を引き裂いて誘導されて落ちる。
この雷雲を無くす術をドゥクスは持っておらず、ズーズンに頼めばバーニックが自由になってしまう。
明らかに終わりが見えた。
五属性を操る魔王が敵になった瞬間に場面が崩れてしまう脆弱さに嘆く事しかできない。
「【獣王・牙刃解放!】」
ドゥクスには嘆く暇などない。
ソフィアは城に向かって魔竜国の裏を突き止めるまでは戦場から離れられない。
両牙を刃に変えたドゥクス。
ドゥクスは両方の刃を引きちぎって更なる【権能】を解放する。
「【獣王・人化!!】」
老年の男性が立っていた。
黒く変色した刃は、剣に変わっていた。
そして一番目を引くのは、その姿。
老人なのだが、筋肉が浮き出ている姿は、かつて獣王と言われていた姿。
「小癪な小娘。貴様は、自由になりすぎた」
流暢なしゃべり方だが、硬い口調。
あまりにも無骨な印象を見せている時、一つの光が吹き飛んできた。
同時に地中から木で作られた竜が飛び出してくる。
「父上! その姿になれるのですか!」
「ガビーか、ゴガガの復活かと思ったぞ」
「これは失敬しました! あのミサキという人間は、私が止めますので父上は真上の雷雲を!」
「そのつもりだガビー。ズーズン殿の邪魔にならないようにな」
「はい!」
好き勝手やってきた人間に対して反撃が始まる。




