おいわい魔王
僕は魔王。ごく普通に青年の魔王だよ。
今日は僕の誕生日。
と言っても、僕を祝ってくれる人なんか、いないんだけどね。
だって、僕、お飾りの魔王だもの。
今日も玉座の間で謁見の仕事をしたよ。
お願いしますって頭を下げる魔族に、やっておくと手を振る仕事。
だけどさ、こういう日ばっか真剣にお願いしに来るの、どうかと思うよ?
誕生日だからって、たくさんの人のお願いを聞き届けられるほど、僕は暇じゃない。
ああ、早く帰って、部屋で本を読みたいな。
と思ったんだけど、お仕事が全部終わっても、タートルさんが離れてくれない。
どこか上の空ながら、僕を中庭に連れ出していくの。
大丈夫? そっちにはお父様の遺体がある、霊廟があるよね?
タートルさん、無理しないでいいんだよ。……あれ? そっち行くの?
タートルさんが草地をぽんぽん叩く。座れってことだよね。
僕は素直に土の上に座った。季節の花が咲いている。
そうか、僕の誕生日が来たってことは、もう春が来てたんだね。
「例年通りだが、おまえに届いた贈呈品はすべて処理してある」
「うん、タートルさん、ありがとう」
ここで言われてる贈呈品は、僕への誕生日プレゼントのこと。
今日に限らず結構頻繁に、縁もゆかりもなく、会ったこともない魔族から届くんだけど、誕生日のこの日はいつも多いみたい。
よく分からないけど、使えない魔王でも好感度あげとこうってことなのかな?
たまに罠も混じってるとかで、いつもタートルさんが開けてくれるんだけど……そっか。
危険な仕事だものね、タートルさんを労ってあげなくちゃ。
「おいこら。何してる」
「いつもありがとうって頭なでてるとこ」
お父様が昔、タートルさんにしてたからって言ったら怒るかな?
タートルさんは片手で顔を覆っている。
口はへの字に曲がってるけど、雰囲気は別に不機嫌そうじゃない。
むしろ、これは後悔? どうして、泣いているの?
わっ!
「俺が気を遣われてどうするんだ。おまえの方が若いんだから、俺に気を遣わせろ」
「僕はもう子どもじゃないよ。大人になったから――」
「馬鹿。年の差が縮まる訳ないだろ。俺にとって、おまえは永遠の弟だよ」
タートルさんが、僕の頭をなでている。
えへ。一度やってもらいたかったことが、叶っちゃった。
これは、今年のタートルさんの誕生日は頑張らなくちゃ。
そうでなくても、もうしっかり準備はしてあるけどね。
「……せっかくだから、花冠でも作るか」
「えー。僕、子どもじゃないってば」
「俺がおまえにあげたいんだ。それとも、こんな誕生日プレゼントは嫌か?」
そういえば、今年は誕生日プレゼントをねだらなかった。
もう、必要なものはすべて揃ったから、用意もしてもらわなかったんだった。
お父様が生きてた頃は、誕生日の意味さえ分かってなかったし。
誕生日をもらえたから、それでいいって思ってたのに。
「な、泣くなよ! 今、厨房でケーキ焼いててもらってるから!」
すぐ持ってくるから! って、タートルさんが慌てて立ち上がった。
止まらない涙を勘違いしたのだろう、僕から少し離れた。
厨房と連絡を取って、すぐ届けるように指示しているのが見える。
自分で言いに行くんじゃなくて、きっちり僕が見える範囲で話しているのが、タートルさんらしい。
僕は今日で、たぶん317歳ぐらいになった。
生まれて初めて、白い花が好きになった。
タートルさんがくれた白い花冠は、ずっととっておく。
魔力で覆ってあるから、僕が死ぬまでずっと変わらない。
……お父様にも、タートルさんがくれた花冠を見せたかったな。