287:果報は寝て待て
「だが、だからこそヴォダラの次の動きも分かるというものだ」
「……え? そ、それほんとなのん、ボーチッ!」
「ああ。ドワーツの持つエネルギーを利用し、『呪導師』を操作する。そのために連れ去ったとしたら、な」
「どういうことなのん?」
「確かにドワーツは強い力を持っているが、それでも単身で『呪導師』を満足に動かせるだけのエネルギーになるかは疑問だ。何せあのドワーツを一瞬で倒すくらいだしな」
「それは……なるほどん」
ヴォダラが『呪導師』を操作するためには〝ギア〟が必要なのは明らかだ。そしてそのレプリカを生み出して、一時的に操作できるようにしている。
そしてそのレプリカ作りには、かなりのエネルギーが必要となるはず。
「だからヴォダラは、これからも強いエネルギーを持つ存在を狙う可能性が高い」
「そうですわね。わたくしも主様のお考えが正しいかと思いますわ」
俺が発言し、そこに後押ししたのはイズだ。彼女はそのまま続ける。
「しかし、ならば次にヴォダラが狙う強いエネルギーとすると……」
「間違いなく――Sランクモンスターだろうな」
俺の見解にイズもまた賛同して頷きを見せた。
Sランクモンスターほどのエネルギーであれば、『呪導師』を操作するための〝レプリカギア〟を作るのに適しているだろう。
「じゃ、じゃあそのヴォダラって人が次に現れるのはSランクモンスターがいる場所ってことん?」
「恐らく……な。現在俺たちが把握しているSランクモンスターは四つだ。クラウドホエール、ベルゼドア、オレミア、ガラフェゴルン。そのうち居場所が分かっているのはクラウドホエール以外だが……」
もしこれらの中から奴が狙うとしたらどれだろうか。
俺が例えば強いエネルギーを欲しているとしたらどうだ? やっぱ未知の相手と相対するのは危険と考え、少しでも情報がある相手にするはず。
ただそうしたら考えが破綻してしまう。何故ならヴォダラがどのモンスターの情報を知っているかなど分からないのだから。
それに俺が知らないだけで、他にもSランクモンスターがいるかもしれないし、ドワーツのような特殊な存在もこちらに来ている可能性だってある。
……ダメだな。考え始めると可能性が多過ぎて絞り込めない。
「しばらくは様子見するしかないかもな」
俺の言葉に「えっ!?」とオズが驚きの声を上げるが、今俺が考え得る可能性を伝えてやったところ、さすがに反論は出なかった。
「しかし大将、様子見をするとして、ヴォダラの動きが分からなければ意味がないのではござらんか?」
「カザの言う通りだ。だからとりあえずは俺たちが把握しているSランクモンスターの周囲を監視することにする」
俺はある物を購入し、《ボックス》から占い師が扱うような水晶玉を取り出す。
「ぷぅ? ご主人、そのタマは何なのですぅ?」
「これは《サテライトビジョン》っていって、対象物の周囲を常に徘徊するカメラだ」
すると水晶玉がフワリと浮き、天高く上昇していった。
そして俺が《ボックス》からモニターを取り出すと、そこには頭上から見た【幸芽島】が映し出されていたのである。
これは最近アップデートされた商品でもあり、いつも使っていた《カメラマーカー》の上位互換みたいな能力なので、いずれ購入しようと思っていたのだ。
「あ! しかも映像が勝手に動いているのですぅ!」
「ああ、《サテライトビジョン》はその名の通り衛星のような動きを常にするんだ。だから対象の状態を周囲からよく観察することができる。しかもかなり遠くからの撮影だから対象に気づかれにくい」
「それをもしかして船長を攫ったあの人たちにん!」
「いや、残念ながら違うぞオズ」
「え……ど、どうしてん?」
「奴らはほら……転移しちまうだろ。ある程度の速度にはついていける《サテライトビジョン》だが、テレポートなんてされたらさすがに見失っちまうよ」
ソルのように高速移動する物体でも、コイツなら撮影範囲内であればすぐに捉えることはできるが、突然何百キロ離れた場所に転移などされたら、さすがに無理なのだ。
「だからコイツは、ベルゼドアたちがいる島と、ガラフェゴルンがいた場所に設置するつもりだ。何かあったらすぐに分かるようにな」
一応ニケたちの島にも備え付けておこうとは思う。危険はないと思うが、一応十時たちもいるし、俺が仕事を紹介した以上は最低限の安全だけは守るつもりだ。
ちなみにオレミアには、彼には内緒で《カメラマーカー》をつけているから、一応調べようと思ったらどこにいるかは把握できる。
これでクラウドホエール以外の状況は常に監視できるシステムは構築できた。あとはこれらにヴォダラが接触してくるかどうかだが……こればかりは奴らの動き次第だ。
「あとは待つだけだ」
「うん……ボーチを信じてボクは待つことにするよん」
「ああ。……ところで今更だが、船は大丈夫なのか?」
咄嗟だったからオズだけを連れてくる形になったが、あの場に残された船は一体どうなったのだろうか?
「ふぇ? ……ああ、それは大丈夫なのん、《オズ・フリーダム号》はボクのことだからん! 船はこの島の海岸に浮いてるよん!」
ちょうど良いと思ってモニターで確かめると、確かに海岸に一艘の船がいつの間にか浮いていた。
「お前が船そのものというなら、わざわざ顕現させておく必要なんてねえんじゃ……」
「確かにそうだけど、船はやっぱり海の上に浮かんでなきゃん!」
そういうことらしい。ただ船を本格的に動かそうと思ったら、ここにいるオズは船と同化する必要があると教えられた。
あの船の墓場に居た時は、ただただ波に流されて彷徨っていただけで、自らの意思で航行していたわけではなかったらしい。
「だがマスター、とんだ財宝探しになったものだな」
ヨーフェルの言う通りだ。まさかこんな大事に巻き込まれるとは思わなかった。結局財宝の在り処も分からないし。
ただまあドワーツを助ければ、財宝の在り処をオズが教えてくれるとのことなので、どうか財宝もこっちの世界に飛ばされてきていることを願うしかない。
「こうなったら次は【幻のダイヤモンド遺跡】でも探すか」
もっともこちらもまた信憑性は薄い伝説のようだが……。
「うん? ボーチはお金が欲しいのん?」
「ん? ああ、俺の能力を十全に扱うには金銀財宝が必要なんだよ」
「ほぇ~変わった異能なのねん」
「スキル、な」
「でも……そっか、ボーチ! お金がたっくさんあったら船長だって助けられる確率って上がるん?」
「それはそうだな。役に立つアイテムなんかは特に金を要求されるしな。しかしその分、効果は期待できる」
「なるほどん…………ねえボーチ、さっき言ってた【ダイヤモンド遺跡】って、ボク知ってるかもん!」
「!? それ本当か?」
「多分……前に、仲間たちと一緒に行ったことがあるから」
仲間たちというのは、もちろんドワーツたちのことだ。
「てことはだ、ドワーツたちがすでに漁ったあとってことか? なら行ってももぬけの殻なんじゃねえか」
せっかく伝説が現実に現れたと思ったが、またもや肩透かしをくらった気分だ。最近こんな不幸続きである。何か悪いことやったかな俺……。
「あ、違うのん! ドワーツはそこあったダイヤモンドに一切手を付けてないよん!」
「……何? 海賊がお宝を放置したのか?」
「うん。何でも、そこを守ってる番人がいて、その番人と約束したからだってん」
「約束? 何の約束だ?」
「それは分からないのん。ボクはクルーたちが話しているのを聞いただけだからん。その約束は、船長とその番人だけしか知らないらしいよん」
約束……か。
その約束をしたからドワーツは目の前にあるお宝を奪わなかった。海賊にもかかわらずだ。一体どんな約束をしたのか……。
「しかしその遺跡もこっちの世界に飛ばされてきているかは分からんな」
「じゃあさっきの紙を飛ばせばいいのん! ボクがまた知ってること書くからん!」
「おっと、そういやその手があったな。物は試しだし、頼むとするか」
「うん! ボーチには船長を助けてもらわないといけないのん! だからボクにできることなら何でもするからん!」
そうしてオズにはまた《サーチペーパー》を渡し、【ダイヤモンド遺跡】に関しての情報を記載してもらい飛ばした。
とりあえずドワーツの拠点である島もそうだが、遺跡に関しても今は待つだけとなった。




