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190:神を信じる者たち

「ではあなたたちはここで待っていてください」


 部屋に入る前に、小百合さんが青頭巾二人に対しそう言ったが、当然――。


「ですがそれでは何かあった時に教祖様をお守りできません!」


 そう簡単には許容できるはずもない。


「命令です。大人しく部屋の前で待機を」

「「……はい」」


 それでもやはり小百合さんが絶対なのは変わらず、青頭巾たちは頭を垂れた。


 そうして俺は、小百合さんと二人で執務室へと入る。

 執務用の机があり、その前には来客用なのかソファが一対とテーブルが設置されていた。


 そのソファに座るように言われたので、俺は遠慮なく腰掛けさせてもらう。


「鳥本さん、紅茶はお好きですか?」


 小百合さんが、コンセントに繋いでいるポットから、お湯をティーポットへと注いでいる。

 そしてカップを取り出し、紅茶を淹れていく。


「……この敷地内は電気が利用できてるんですね」

「はい。太陽光発電機がありまして。ただあまり無駄遣いはできませんが」

「便利で良いじゃないですか。このご時世で、電気を活用できてるところは少ない」

「火もそうですが、本当に私たちにとって文明がどれほど偉大かを知る機会になりましたね」


 確かにそうだ。少し前までは、当たり前のように使っていた水道やガス、そして電気などのライフラインだが、それらの供給がなくなれば人間の生活レベルが一気に下がる。


 人間が編み出した文明については、本当に素晴らしいものだと痛感させられた。

 俺の前に紅茶を置いてくれる小百合さん。


〝……殿〟

〝分かってる。無暗に口をつけたりしないから〟


 俺は自分の紅茶を淹れている小百合さんを確認し、俺から視線を切っている間に、《鑑定鏡》をポケットから取り出して、紅茶を鑑定してみた。


 どうやら何の変哲もない紅茶で、毒物なども混入していないようだ。

 素早く《鑑定鏡》をポケットに戻すと、そのタイミングでティーカップを持った小百合さんが対面するソファに座った。


「紅茶を淹れるのが趣味なのです。どうぞ、お口に合えばいいですけれど」

毒が入っていないことを確認したので、俺は「いただきます」とティーカップに口をつけた。

「……んはぁ。美味しいですね、コレ」


 品の良い香りが鼻からす~っと抜けていく。あっさりしていて飲み心地が良い。


「そうですか? 良かった……。それはエディアールというブランドのアッサムティーなんです」

「エディアール? 初めて聞きました。とはいっても紅茶にまったく詳しくないので、ブランドなんてほとんど知りませんが」

「普通はそうですよね。エディアールは、とても品質が高く、歴代の大統領や、あのピカソも好んで飲んでいたとされているブランドなのです」


 へぇ、ピカソがねぇ。つまり過去の偉人にも愛された紅茶だってことか。


「ところで小百合さん、話というのは?」


 俺が本題に入ると、小百合さんがティーカップをテーブルの上に置いて、俺の顔をジッと見つめてきた。


「……鳥本さんは我々のことをどうお思いですか?」

「我々? それは『乙女新生教』そのものについて、ということですかね?」


 質問が的を射ていたようで、小百合さんがコクリと頷く。


「どうと言われても、別に何とも」

「何とも? 男をこの世から排斥することを謳った教団であってもですか?」

「昨日も言ったと思いますが、俺個人に害がなければ、どうぞ好きにしてくださいって感じですね。ただ……この世からすべての男を排斥する。その意味を本当に理解されてますか?」


 小百合さんの瞳に揺らぎはない。理解しているということだろう。


「仮に教団の望みが叶ったとしても、その先に待つのは破滅だけです。女だけの楽園なんて、永遠に続きません。子を成さない限り、いずれは滅んでしまいます」

「もちろん当然の摂理でしょうね」

「それでも男を必要としないと? 破滅を選ぶというんですか?」

「それがこの教団が掲げる理念ですから」


 まるでカルト教団だなこりゃ。間違いなく国が機能してたら粛清の対象になってるわ。

 無法地帯になっている日本だからこそ存在している組織である。


 そのうち男だらけのコミュニティに毒物を撒いたりするかもしれない。いや、もしかしたらもう……。


「まああなたたちがどの道を選択しようと勝手ですよ。俺にそれを止める権利も意思もないですし。もっとも、先にも言いましたように、俺を害するなら別問題ですけどね」

「少なくとも我々はあなたを害する気はありませんよ」

「それはあなたの意思でしょう?」

「私の意思は教団の意思です。すなわち神の御心によるものですから」

「…………」

「それに破滅に向かうとあなたは仰いますが、我々には神の救いがあります。たとえ死しても行く先は神の身元。何を恐れる必要があるでしょうか?」

「…………本当に神なんていると思っているんですか?」

「心から」


 真っ直ぐ、よどみなくそう言った小百合さん。やはりその瞳は、どんよりと曇っていて、この世のものとは思えないほどの昏さを含んでいる。


「ならこの教団には神の教えというのがあると?」

「神は一つの存在ではありません」

「は?」

「神というのは個人個人、それぞれの中に在るものなのです」


 何だかいきなり哲学的? なことを言い始めたんだが……。





読んで頂きありがとうございます。


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