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16:訪問販売

「初めまして。先程も申し上げました通り、食材の訪問販売をさせて頂いております海馬と申します」

「は、はあ……その、食材の訪問販売とは?」


 男性が代表して聞いてくる。明らかに警戒はしている。無理もない。こんな時代に、わざわざ食料を売っているのだから。しかし信用を得るには、こうして会って話すしかない。


「よろしければまずは見て頂けたら嬉しいのですが。よろしいですか?」

「その箱の中に?」

「はい。では……」


 俺はクーラーボックスをおもむろに開く。

 その中には、魚や肉などの食料が大量に詰め込まれてある。


「確かに食料のようだが……これを売っているんですか? 失礼ですが、ご自分で食される方が良いかと思いますが」

「ごもっともなご意見です。実はわたくし、幾つもの食品会社にコネクションがございまして、加工前の肉や魚などを仕入れてはこうして訪問販売をさせて頂いております。理由と致しましては――ただのお金儲けにございます」

「か、金儲けだって?」


 当然驚くよな。でもここからだ。


「現状、貨幣価値というものはどん底にまで下がっております。無価値にすら等しいやもしれません。しかしわたくしはいずれまた日本は……いえ、世界は再び経済を復旧させ、以前のような貨幣価値が戻ると信じているのです」

「それは……でも……」

「無論そうならない可能性もございますが、戻る可能性もまた捨て切れないでございましょう」


 俺の言うことに少しでも一理あると思ったら反論はできないだろう。何せどんなことだって可能性が0とは言えないのだから。


「その日のために、手元には多くの資金を残しておこうと思い、この商売をさせて頂いている所存でございます。まあ、もう一つの理由としては、わたくし一人では有り余る食材を腐らせてしまうので、せっかくだからお金儲けに利用しようということですがね、ハッハッハ」


 何このキャラ……って思いながら、少し冷や汗をかいてしまう。


 やっぱかなり胡散臭かったか……?


「じゃあこの食料、金を払えば譲ってくれると?」

「はい。現金でなくとも、相応の貴金属や高価な代物ならば物々交換でも構いません」

「なるほど……確かに手元に食料が豊富にあれば良い商売になる手法だ。ただ……リスクは大きいが」


 その通り。経済が元に戻る保証なんてどこにもない。このまま終末に向かえば、この商売は一瞬にして無価値へ……いや、とてつもないマイナスへと変わる。


 ハッキリ言ってバカげた行為であろう。

 しかしだからこそ、食料を欲する者たちは、そんなバカな俺を利用しようとしてくるはず。


 どうせ不必要な金だ。それを対価に食材が手に入るならと誰もが動く。


「ちょっとその食料を手に取って見てもいいかしら?」


 そこで今まで黙っていた女性が話しかけてきたので、俺は「どうぞ」と許可を出す。


「……どれもこれも新鮮そうね。悪いところなんて見当たらないわ。こんな上質なもの、今じゃそう手にできないわよ」

「それはお客様に販売させて頂くのですから最上の物を用意するのは当たり前でございます」

「……米はないのかな?」


 やはり日本人。米は欠かしたくない食料だろう。


「ございますよ。すぐにお持ちすることも可能です」

「……何キロ用意できるんだい?」

「今すぐとなれば三十キロほどなら」

「おお! そうか! ちょうど米が切れるところだったんだ! 買っていいか、お前」

「ええ、そうね。この食材たちを見る限り、まともな販売員さんのようですし」


 ……やはりこの商売はいける。金になる。それを確信した。


「では買い取って頂けるということでよろしいですか?」

「ああ、実のところ困っていたところなんだよ。うちには子供が結構いてね。食べ盛りだし。一応私も伝手があって、そこから食材を仕入れていたが、それも大分厳しくなっていたところだったんだ。良ければ定期販売を頼みたいのだが」

「もちろんでございます。しかしこちらも商売なので」

「分かっている。金なら幾らでも用意しよう」

「ありがとうございます。ではお米を用意して、再び参りますので少々お待ちくださいませ」


 俺はそう言って、十分後にまた来ることを約束してその場を離れた。


 そして三十キロ分の米袋を購入し、それを段ボール一つに詰め、元々持っていたクーラーボックスと一緒に抱えて、十分後に再度石橋家へ向かう。



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