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勇者伝説

作者: 半月
掲載日:2009/04/01

空が赤く染まる頃。

どこかで空が紫になる。

太陽が沈み、月はのぼる。

輝きを放つ星。

小さな命。

なぜ人は生まれてきたのだろう。


今日も空は曇っていた。

ずっと信じてたよ。

馬鹿みたいに。

あんたがあの日。

私に約束したこと。

「絶対戻ってくるから」って言葉。

でも。何さ。

戻ってなんかこなかったじゃんか。




戻ってきたのは・・・。




あんたの骨だけじゃんかっ!

いやな予感がしたんだ。

何よりも優柔不断なあんたがいきなり約束するなんて言ったんだから。

帰ってきたのは名誉だけ。

讃えられたあんたの最後。

骨が戻ってきただけ・・・いいのかもしれない。

思い出すよ。あの約束の日のことを。




優柔不断なあんたは何よりも火を嫌った。

あんたが火遊びしていた火が、捨ててあった新聞紙にうつって、悪ガキだったあんたたちはうろたえてから逃げた。

火は小さいうちに消し止められたけど・・・。

小さな命が奪われた。

足の悪い、老いた犬。

家族はそれぞれに家を出て。

犬小屋に火がついてもなかなか気付く人もいないままに犬は逃げられずに焼け死んでしまった。

それからというものの、火から命を守ると決めたらしくずっと消防士になると言ってきた。

あんたはよくつぶやいてたよね?

人はなぜ生まれてきたのだろう。って。

しばらくすると不審火災が相次ぐようになり、人が次々と煙にまかれるようになった。

新米のあんたもついに泊まり込みが決まった。

戦争中じゃないんだからって私は思って。安心してたよ。

帰ってくるって言い聞かせてた。

「必ず戻ってくるから。たくさんの命を救って・・・。」

いきなりそんなこといわれたら不安になるよ?いつもみたいにへらへら笑っていつもみたいに軽く。

「いってきまーす」って言ってよ。

「な。何言ってんの?あったりまえじゃん?」

笑って?笑ってよ。

けど、笑ってなんかくれない・・・。

透樹とおき・・・?」

思わず服にしがみついたよ?遺言みたいに言うから。

あの時初めてあんなにも透樹が遠いと感じた。

「大丈夫。ちゃんと戻ってくるから。」

そういって透樹は私を抱き締めてすぐ離してからほほえんだ。

でも声は、いつもよりずっとしっかりしてた。

「絶対だよ?約束だよ?いきなり遠くに行くなんて・・・なしだよ?」

「うん。だから。泣くなよ。ほら。な?らん

「なっ。泣いてないっ!」

「強がり蘭子らんこ強がり蘭ちゃん。」

「こっ。こらぁっ!早くいってこいっ!」

玄関先で意味不明な動きを続ける透樹に向かって私は叫んだ。

「はいはーい。」

「透樹・・・?」

「ん?」

「いってらっしゃい・・・。」

絶対約束守ってね?早く帰ってきてね?

「・・・いってきます。」

最後に交わした言葉は。やっぱりふざけあってるみたいだった。

あんたは私に確かさというものをなかなかくれないから。


いつも・・・。

私があんたとの関係を幼なじみ以上にいけなかった理由・・・。

高校からずっと一緒にいた。

気持ちを伝えることもできなくて。

いい感じになってもあんたの優柔不断でいっつもはぐらかされてきた。

だからお互いに別々のカレ、カノを作って。

それでも離れなかった私たち。

ほとんどいつもといってもいいくらい。相手を換えても・・・。ダブルデートだったよね?

何度こんな日が続くんだろうと思った。

何度こんな思いをしなくてはいけないんだろうって。

「好き・・・。」

涙がこぼれる。

現実は痛い。

現実ってひどいよね・・・。

気付けばいつもあんたが私の隣にいた。

気付けばいつも好きだった。

あんたは、私のことどう思ってたの・・・?




約束してから私は毎日テレビを見た。

そして初めての不審火災が起こってから一ヵ月。

あんたが私の前から消えてから21日半を数えた頃。

あんたは勇者になった・・・。

足の悪いお婆さん・・・。

半分もう助けにいけない状況の中であんた(とおき)は決してあきらめなかった。

そしてお婆さんを救い出したシーン。

今でも目に焼き付いてる。

消防マスクをとったあんたの顔は所々すすだらけで、汗をびっしょり掻いて何か話していた。

私は涙目になりながら勇者を見た。

勇者の名は、透樹。

優柔不断な男。

高校を卒業して二十歳になった今も、一緒にいた。

もう危ないことはしないでほしい・・・。

でも透樹は次々に栄誉を築き上げていく。

そのたびどれだけハラハラさせられるかわからない・・・。

ついに不審火災1回目から2ヵ月と半。

透樹がいなくなって56日目。

そして英雄になってから35日目。

放火魔が捕まった。

飛び上がって喜んだ。

やっと・・・。

やっと透樹が帰ってくるって・・・。

なのに。

不審火はとまらない。

次々に人が焼け出されていく。

あっちでも。こっちでも。

もはや一人じゃできない範囲までに不審火は燃え広がっていた。

犯人が捕まってから11日目。

犯人は一行に口を割らない。

でも徐々に不審火は減ってきていた。

野原が焼ける。今日も空が曇る。

火災の煙か曇っているのかはもうわからない。

何で犯人は捕まったのに火災は納まらないの?

何で犯人は捕まったのに透樹は帰ってこないの?

帰ってきてよ。

「透樹・・・。」

つぶやき声は淋しさを増すばかり・・・。

淋しい音色は一粒の波紋を作り、その波紋は徐々に広がっていく。

音をたて、音を揺らし、波をたて、消えることない永遠の波紋。

そして三人目の犯人が逮捕され、その2日後に火災で駆け付けた透樹。




あんたは・・・。




この日。




死んだ・・・。




最後まで英雄として。

足の悪い犬を抱えたまま透樹は私のいけないところへ逝ってしまった・・・。

「透・・・樹・・・?」

帰りの遅いあんたを呼んでもテレビは反応しちゃくれない。

透樹がいなくなってからもう186日がすぎようとしていた。

そして、あんたが勇者になって165日あまりがすぎようとしていた。

透樹が守った命は透樹の腕の中でちゃんと生命の炎を灯していたという。

英雄の死・・・。

次の日の朝に私は事実を知る。

どのニュースにもデカデカとのった悲しみの勇者伝説の始まり・・・。


そして透樹が逝ってから8日目。

私の家は火災にあった。

自暴自棄になってた。君の元へ逝こうと思った。

きっと今なら逝ける。

あんからもらった大切なもの、色々抱き締めて。

煙の中で眠るように私は動かなくなった。

馬鹿だね・・・。

透樹は。

あの時の犬と重なったから足の悪いあの犬を助けたんでしょう?

涙が落ちる。

でももう何もわからない。



自分が泣いたとわかったのはずっとあとのことだ・・・。


目を覚ますとそこは騒がしいただの白い部屋だった。

たまに茶色が目につく。

何で私、生きてるんだろう?

若い消防士が一人私のそばにいた。

「あ。目、覚めました?蘭さんですよね?俺、透樹の同僚で透樹から蘭さんのことよく聞いてたんで・・・。」

「私、何で生きてるの?」

もはや口から漏れた言葉は自分の声ではない。擦れ、低くなり、小さい声。

「え?あぁ、蘭さん危機一髪ってゆーか、ずっと今まで寝てたんですよ。丸々一日寝るかと思ったのに早いですね。」

「死なせてくれればよかったのに・・・。」

「え?」

「死なせてくれればよかったのに!ここにいたって透樹は帰ってこないのにっ!ックゥ!ゴホッゴホッ!ッツ!ウェッ。」

自分の手に付いた“それ”は、黒く、すすの匂いがした。

「おわっ!大丈夫ですか?」

「ゴホッゴホッゲホッ!!」

喉が痛い。苦しい・・・。

「おわっ。ナースコールッ!」

プチッ。

〔はい。〕

機械から音が漏れる。

「すいませんっ!坂口さかぐち 蘭さんの意識が戻ったんですけど、今咳き込んで苦しそうなんですよっ!」

「ゲホッガッ!ヒュー・・・。ヒュー・・・。」

まともに息ができない。引き裂かれそうな喉の痛み。

〔何か特徴はありますか?〕

たんがっ!唾が黒いです!」

〔わかりました。すぐいきます。〕

至って冷静なナースの声。

「ヒュー・・・。ヒュー・・・。」

駆け付けたナースと医師。

「これは。ガスの吸い込みすぎですね・・・。」

その後、高熱が続き、数週間うなされ続けた。

確かにあんたの言ってたとーり火を嫌いになりそうだ。


透樹は伝説になる。

私は悲劇のヒロインになる。


そして今。


「伝説なんか・・・。いらなかったのに・・・。馬鹿。」

あんたとの思い出も、家も消えた。

アパートだったから透樹の部屋も私のすべても。

「約束したじゃん。あれから私があの約束信じて指折り数えて待ってるなんて考えもしなかった?」

君の笑顔はどこにもない。

私も笑い顔を忘れた。もう、寝もしない食べもしない何もしない生活が何日続いたんだろう?

とうに犯人は全員捕まって、とうに透樹は忘れ去られた。

・・・伝説だけを残して。

燃えた家と勇者の幼なじみということで政府からの援助があって私は何もないただっ広い白い部屋に座り込んでいることしかできない。

もしかしたらまだ1週間もたってないのかもしれない。

もしかしたらもう何年も過ぎたのかもしれない。

もう、私にはわからない。

ピーンポーン。

無視・・・。

ピーンポーン。

ピーンポーン。

ピーンポーン。

あまりにもしつこいのでゆらりと立ち上がり、ドアを開ける。

「はい。」

扉を開けると。

「透樹・・・?」

あの、ずっと会いたかった私の大好きな・・・透樹なの?

『うん。約束。まもろーって。』

「何・・・馬鹿いって。っ。そうだよ。できない約束なんかしないでよ・・・!」

『ごめん。帰ったら伝えたいことあったんだ。』

「何?」

『さぁな?』

ほらまた。

はぐらかす。私に何の確かさもくれないままで・・・。

「ひどいよ。ばか。馬鹿透樹・・・。」

『笑えよ?今までみたいに笑え。笑ってるおまえのほうがいい。』

「ぅん・・・。」

『あ。もうダメだ。ここにいられねーや。バイバイ。』

だんだん薄くなる。

「あっ!」

いかないで。私まだ何も・・・!

そして透樹あんたは、消えてしまった。

勇者になんか・・・。ならなくてよかったのに。

伝説なんていらなかったのに。

でもありがとう。大好きだよ。

コツン・・・。

天から振ってきたその、何か・・・。

・・・?

指輪?

そうだ・・・。昔もらったおもちゃの指輪。ただの色付きセロファンを丸めて細くしただけのシンプルすぎる指輪。

・・・火災で焼けたはずの指輪・・・。

うん。もう嘆くのはやめよう。前を向いて歩こう。

この指輪で。きっといつまでもつながってる。

きっとずっと――…‥。




ずっと大好きだよ――…‥。

透樹――…‥。




コノ オモイ ハ ヤッパリ アンタ ニハ ツタワンナカッタ ケド・・・ カッコイイ ジャン? ユウシャ サマ 。

タトエ セカイ ジュウノ ダレモガ アンタ ヲ ワスレテモ 、 ワタシ ハ アンタ ト 、 アンタ ノ デンセツ ヲ ゼッタイ ニ ワスレタリ ハ シナイカラ 。

カズカズ ノ ユウシャ デンセツ 。

ユウシャ ニ ナンカ ナラナクテ ヨカッタノニ・・・。

イツモ ミタイ ニ ヘラヘラ ワラッテ 、 ワタシ ノ ソバ ニ イテクレタラ 、 ソレダケデモ ワタシ ハ ヨカッタ ノニ。

アンタ ハ 、 カナシキ ユウシャ ニ ナッタ。

ドウセ ナラ 、 イキテル ユウシャ ヤ 、 デンセツ デ イテホシ カッタヨ ? ワラ 。

ソレ ハ 、 チョット ゼイタク スギル カナ ?

デモ 、 ワタシ ハ ソレダケ アンタ ノ チカク ニ イタカッタ。

ソレダケ アンタ ニ チカク ニ イテ ホシカッタ。

ネェ ? アンタ ガ サイゴ ニ ワタシ ニ ツタエヨウト シテクレタ コト ハ 、 ナンダッタ ノ ?

モシカシタラ 、 サイショ カラ カエレナイ キ デ イタノ ?

コノ カナシミ ハ イッショウ ワスレナイ。

ダケド 、 コノ カナシミ ヲ ツギ ニ イカシテ ワタシ ハ マエ ヲ ムイテ アルイテ イクヨ。

コノ キミ ガ クレタ ユビワ ト トモニ・・・。


読んでくださった方々、ありがとうございます。

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