TS転生したけど異世界のやつら全員チートなんだが…
脳内プロットを絞り出したもの。
プロット自体は5本ぐらいあるけどどれも展開を考え切れていないから何にもならないのが悔しい。
「セリアー?どこ行ったのー?」
「お姉様?どこですか?」
俺のことを呼ぶ二人の女性の声が廊下に響く。
俺は見つからないように隠れているクローゼットの中で息を潜める。見つかると間違いなく地獄行きだ…。
廊下に響いていた声が遠ざかるのを確認しクローゼットから這い出す。部屋の扉の前に行き耳を当てる。廊下から聞こえていた声は完全に聞こえなくなっておりどこかへ行ったみたいだ。
「ふう、撒いたか…」
「誰を撒いたって?」
ギギギ、と錆びた歯車を無理やり回すかのようなぎこちない動きで首を捻る。そこには水色の髪をした少女が逆さまで立っていた。そう、逆さまだ。その少女は天井からワイヤーで吊るされているかのように天井に足をつけ立っていた。スカートを穿いているはずなのに何故か捲れず重力に逆らって下着が見えるのを拒んでいる。
彼女の名前はアリアリア・クレヴェスティ。クレヴェスティ侯爵家の長女で次期当主だ。
「ア、アリア姉様…い、いつからそこに?」
「ふふふ、いつからかしらね?」
天井から回転しながら落ちてきて地面に着地する。
着地と同時に俺の肩にやさしく、しかし絶対に逃がさない意思を込め掴まれる。
「さぁ、逃がさないわよ、セリア。たっぷり楽しみましょう?」
「ヒェ…」
艶のあるどことなくえっちぃ笑みで舌なめずりをするアリア姉様。身の危険を感じ即座に俺は身体能力を強化する魔法を最大に使いアリア姉様の拘束を振りほどく。強化魔法を最大で使うと翌日以降筋肉痛に悩まされるが今この状況を脱するのが最優先事項だ、背に腹は代えられない。
そのまま強化された体を動かし窓に向かって跳躍する。隠れていた部屋は3階で地上から約8m。この高さから飛び降りたら普通なら大怪我は免れないだろうが強化魔法がかかってる今そのぐらいの高さは屁でもない。
「さらば、アリア姉様!!!」
勢いをそのままにガラスを突き破って外に脱出する。
――ガシャン
ガラスの割れる音が響き、破片が空を舞う。
割れたガラスが服に引っ掛かり布が裂けるが魔法で強化された肌には一切傷がつかない。
このまま屋敷の壁を飛び越え森の中に作った避難所に逃げ込んで一夜を明かそう、と思考を巡らし着地のために下を見て――絶望した。
視線の先には空中に立つ我が妹。マリアンヌ・クレヴェスティが可愛らしい唇を三日月に歪め私を見ていた。
「ざ~んねん!お部屋に戻りましょう!!セリアお姉様ぁ!!!」
――カチンッ!
鍵の掛かるような、金属と金属をぶつけた様な音が耳に届いたと思ったら、いつの間にかアリア姉様に抱きかかえられ逃れられないように押さえられている。
暴れようとするが体に殆ど力が入らない。いつの間にか強化魔法は解かれていて弱体化魔法までかけられていた。
「うふふ、つーかまえた♡」
「アリア姉様!!?…まさか!!」
「せーかい!あたしが時間を止めました~」
「マリア!!!」
「セリアお姉様があたし達から逃げるからだよ~。でも感謝してほしいな、服も窓も戻してあげたんだから」
「は?」
視線を下げ服を見るとそこには汚れ一つない新品同様のドレスになっている。先程ガラスでズタボロになったはずなのに…
ふと、そこで顔を上げて気づく。先程突き破ったはずの窓ガラスが元通りに戻っていたのだ。
「時を戻したな!マリア!!」
「もー、セリアお姉様♡素が出てますわよ♡」
「くそ!アリア姉様、離して!!!」
「だーめ♡今日は私とマリアで着せ替え人形にするって決めてるから♡」
「俺に自由はないのか!!!」
「あぁ、セリアお姉様♡セリアお姉様はなんでこんなにもあたしたちの心を擽るのでしょう♡」
「セリアは非力だからわたくしたちで守ってあげなてはね?」
事実、俺とアリア姉様、マリアとの間には隔絶した差がある。
というのも俺は身体強化魔法以外全ての魔法が使えないからだ。この世界では一人必ず2つ以上の魔法が使える。しかし、俺は使えないのだ。魔力自体は人並み以上に持っているし魔力操作だって常人よりも遥かに上手い自信がある。
しかし、それでも常人より上程度なのだ。
アリア姉様とマリアはそれぞれ俺とは比べ物にならないぐらいの才能がある。
魔力保有量は国内ダントツの1位2位で、それぞれ希少属性と言われる属性の魔法を使うことができアリア姉様が重力、マリアが時の魔法を使うことができる。
そんな凄まじい才能を姉と妹が持つ中で身体能力強化魔法しか使えない俺は落ちこぼれだった。
当然、姉や妹と比べられ馬鹿にされる――ということは一切なかった。
というか、姉と妹には事あるごとに追われ可愛がられる始末だった。
「セリアお姉様♡」
「現実逃避している場合じゃないわよ?」
「へ?」
アリア姉様は俺を抱きしめたまま重力魔法でふわりと浮くと空中をすべるように移動する。その後ろをこれまた空中に浮いたマリアが追いかけてくる。
「あ、あの?アリア姉様?一体、俺はどこに連れていかれるのでしょうか?」
姉に抱きしめられて豊かな柔らかさを背中越しに感じる。元男の身からすると天国のような状況だが、俺の体は底冷えしたように震えが止まらない。
「んー?そうねぇ、まずはお風呂に入ってー、着替えてー」
「あたし、セリアお姉様とアリアお姉様と一緒にお昼寝したい!!後、お買い物に行きたい!!!」
「いいわね!セリアの親衛隊の皆さんも連れて行きましょう!」
「あのー、拒否権は?」
「「ないわよ」」
「ですよねー!」
俺はそのまま連行され、今日一日妹と姉に振り回されへとへとに疲れ切った後、アリア姉様の部屋に連れ込まれめいいっぱい可愛がられるのだがそれはまた別のお話。