始隅
私の目の前にいるのは水田駿。同じクラスの男子だ。話したことなんて殆ど無い。
「あ、えーと、ごめん」
「ん?別に居てもいいよ?」
「いや、いいや。邪魔しちゃ悪いから」
そう言って階段を降りてしまった。
(なぁーんだ、つまんないなぁ)
再び静寂が訪れた中、物思いにふける。そうしていると、頭が空っぽのまま生きていることが何故か、後ろめたく感じられた。しんみりしていると、
「さなえーー??」
親しみのある明るい声が聞こえてくる。
(はぁ…行くか)
「はーーーい!」
私はポケットにスマホを突っ込んで階段を駆け下りた。
ガチャ。
玄関の扉を開けて何も言わずに自分の部屋へと向かう。
「よいしょっと」
制服を脱いでハンガーに掛け、家着に着替える。
学校から帰った先はただただ物質的な家だ。家族団欒だなんてものはこの家では縁遠い事。
ベッドに寝転がると途端に眠気が襲ってくる。
(あぁ、駄目だ。このまま寝ちゃ…)
重くのしかかる瞼を無理やり持ち上げ、起き上がりバッグから教科書とノートを取り出す。
(えーと、明日は…)
手帳も取り出して時間割を確認する。
パラパラとページをめくり、今月の予定も予め把握する。
(へぇー、もう6月か)
既に高校に入学して2ヶ月が経っていた。だいぶ生活リズムも整ってきたが、まだまだ慣れないことばかりで皆に着いていくのに必死だ。
集団の中でもがき苦しむ自分を客観的に見ると、それは滑稽でしかないのだろうと思う。
(とりあえず終わらせよう)
明日を生きるためにも私はまた、ペンを握った。