始隅
「そっかそっかぁ、大変だね〜」
今日も皆の悩みを聞いていく。私の周りには自然と人が集まってきて、気づけば誰かを慰めていることが大抵だ。
「さなえー、次移動だよ」
「あ、待って穂海ー!」
急いで用意をして、親友のもとへと向かう。
「また相談?」
「そ、なんか凄いよねぇ」
「何が?」
「いや、みんなちゃんと考えてるんだなって」
そう言って穂海をちらりと見ると、バチッと目が合う。
「あんたも悩んでたら言ーなよ?」
「いやー、私は特に無いからなぁ。まあでも何かあったら言うよ」
今日もこうして心配させないように嘘を吐いて、貼り付けて、積み重ねていく。
笑顔ばかりを信仰して何もできない自分が酷く情けなく感じる。
放課後、私は屋上に向かった。
立入禁止の札のかかった紐を跨いで階段を登る。
(やっぱり駄目か)
ガチャガチャとドアノブを回すも開かない。
ずっと閉まったままだが、いつかこの扉の向こう側に行ってみたいなと思う。
仕方なく階段に座り込んで、イヤホンを付ける。音楽は好きだ。自分の世界に入り込めるから。外の世界から遮断されるから。
死の疑似体験ができる、から。
「ふぅ、」
息を吐く。
そのとき、誰かが登ってくる足音がして、ぎゅっと拳に力が入る。それでも落ち着いた素振りで待ち構えていると、
「あっ、」
「おー、水田くんじゃん」




