第81話 主人公の時間~無双したいと考えておるのだろう?~
XMG-4〈シラヌイ〉の操縦席で、安川賢紀は無感情に呟く。
「それにしても、凄い数だな……」
「妾達の相手に、ふさわしいではないか」
平原を埋め尽くすような、マシンゴーレムの大群。
予期せぬ味方からの砲撃により、数を減らしてはいる。
それでも帝国軍は、残り80機ほど。
しかも統率を取り戻した部隊は、整然と隊列を組み直していた。
ほとんどの機体が、賢紀の〈シラヌイ〉に向かって殺到する。
何機かは、市街地に侵入したエリーゼ・エクシーズの〈サルタートリクス〉を追撃しようとした。
しかしマリアの支配下にあるGR-3〈サミュレー〉が、都市防壁の上から砲撃し足止めしている。
「ケンキ。お主の考えていることは、わかるぞ。『たまにはなろう小説の主人公みたいに、チート能力で無双したい。俺TUEEEしたい』などと考えておるのだろう? なろう小説とやらが、イマイチ良く分からぬが……」
「その通りだ、マリア。俺のポリシーには、反するがな」
賢紀は「量産機で泥臭く戦い、生き抜いてこそ真のパイロット」という信念の持ち主。
だが圧倒的物量を誇る帝国軍相手には、そうも言っていられない。
せっかく〈シラヌイ〉という、1機で戦局を左右できる機体に乗っているのだ。
その性能を発揮し、一騎当千の活躍をする必要があった。
いや。
してみたいという欲求が、今回の賢紀にはあった。
「ご飯と味噌汁という典型的な和食が好きでも、たまにはジャンクフードが食べたくなる。……そんな気分だ」
「なるほど。絶妙な例えではないか。良く分かるぞ」
「……今ので、分かるのか?」
言ってはみたものの、和食やジャンクフードなど分からないだろうなと考えていた賢紀。
マリアが納得したことに、ちょっぴり驚いていた。
「さあ。ジャンクフードの群れが、妾達に食われるのを待っておるぞ! 不健康なほど濃い味のハンバーガーと、油ギッシュなフライドポテトどもめ!」
「なあ、マリア。この世界にも、そういう食べ物があるんだよな? お前は戦闘時の思考以外に、俺が持つ地球での記憶とか読み取っていないよな?」
ジャンクフードに対する理解があり過ぎることに、賢紀は不安を抱く。
自分の記憶まで、覗かれてはいないかと。
操縦補助に必要な部分以外まで覗かれるのは、ご免こうむりたい。
(マリアにそんな、チート能力はないよな? あったとしても、そこまで無遠慮じゃないよな?)
そう淡い期待を抱く、【ゴーレム使い】。
彼は異次元工場兼格納庫【ファクトリー】から、大型の兵器を取り出した。
頑強な三脚の上に乗せられた、太い砲身。
地球でいう歩兵用ミサイルランチャーを、マシンゴーレムサイズにした物だ。
〈シラヌイ〉はその砲口を、向かってくる帝国軍の大部隊――ではなく、彼らの上空に向ける。
「セットメニューで、まとめておいしく頂くのじゃ!」
(あやしい。やっぱりコイツ……。後で、問い詰めてみよう)
賢紀は相棒への疑念を抱いたまま、ミサイルランチャーへの撃発信号を送った。
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『前方より、飛翔体接近中!』
味方機より、全軍に発せられた警告。
それを聞いて帝国軍GR-3〈サミュレー〉のパイロットは、視線を少し上へと向けた。
高速で飛翔する物体が、視認できる。
一瞬、「撃ち落すべきか?」という思考が頭をかすめた。
しかし自分の腕とGR-3の性能を持ってしても、そのような芸当は不可能だと否定する。
〈スターダスト〉のプラズマ弾を剣で切り払える、レクサ将軍の〈ルドラ〉なら可能かもしれないが。
「ん……? これは、俺らに命中する軌道じゃない?」
その飛翔体は、明らかに自分達の頭上を通過する軌道をとっている。
後方から炎を噴き出し、自力で飛行するその姿。
エルフのマシンゴーレムが使用し、目標を自動追尾するという「ミサイル」を連想させた。
しかし今回の飛翔体が、自分達を追尾して襲ってくる気配はない。
エランの市街地に向けて、撃ち込まれたものだろうか?
「なんだ? ミサイルらしきものの腹が、開い……」
そこで、彼の思考は中断させられた。
激しい衝撃と共に、コックピットの〈仮想全天周囲ディスプレイ〉がブラックアウトする。
〈慣性緩和魔道機〉により、衝撃やGが緩和されている第2世代型マシンゴーレムのコックピット。
だが機体が地面に打ち付けられる感触は、軽くではあるがパイロットに伝わる。
頭部にある機体の制御系を破壊され、立っていられなくなったようだ。
――戦闘続行は、不可能。
「クソッタレ! 何だったんだ!? あの武器は!?」
パイロットは苛立たしげに叫んだが、返って来るのは静寂のみ。
いつもは無機質な声ながらも返答をくれる、〈擬似魂魄AI〉も沈黙したまま。
パイロットは、急激に心細くなった。
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「おおーっ! あれが新開発した、〈レインメーカー〉! 『高密度自己鍛造弾』というヤツか! まさに破壊の雨! なかなか派手な挨拶に、なったではないか!」
〈シラヌイ〉のコックピット内で、マリアがキャッキャとはしゃぐ。
今回巡航ミサイルから放たれたのは、EFPという兵器。
賢紀が〈ミドガルズオルム〉との戦いで撃った、HEAT弾と似たような兵器だ。
EFPは形成炸薬の衝撃波により、金属製のライナーをその場で砲弾へと変形させる。
それにより、標的を撃ち抜くという仕組みだ。
HEATの着弾時に形成されるメタルジェットよりも貫通力は劣るが、メタルジェットよりも威力を保てる距離が長い。
今回は多弾頭化してあるので、EFPの砲弾は広い範囲に降り注いでいる。
面制圧に有効な兵器として、仕上がっていた。
驚くべきことに、これは賢紀が地球から持ち込んだ技術で作ったものではない。
HEATの原理を元に、ドワーフのドン・レインが考案・設計したものだ。
偶然にも今の地球では、この兵器の開発が進んでいる。
だが賢紀は、そのことを知らなかった。
逃げ場が無いほどに降り注ぐ、金属の雨。
打たれたマシンゴーレムの大部隊は、数を大幅に減らしていた。
上空からの攻撃だったため、頭部を破壊され倒れた機体が多い。
マシンゴーレムの頭部には、重要なパーツが集中しているのだ。
「マリア。〈マルチプルディセプター〉、展開」
「〈マリオネイター〉で2機を制御下に置いたままじゃと、魔力コンデンサの貯蓄分を消費する一方じゃぞ? 全力戦闘機動と合わせて、連続稼働時間は180秒じゃな」
賢紀の視界を遮らず、それでいて見やすい位置にカウントダウン表示が浮かび上がる。
「充分だ。サクっと行くぞ」
帝国軍の部隊が混乱している最中に、賢紀は機体を加速させる。
向かうは敵部隊の真っ只中。
時速300km/hで疾走しながら、〈シラヌイ〉の姿は溶けて無くなった。
〈マルチプルディセプター〉機能のひとつ、光学迷彩によるものだ。
同時にもうひとつの機能、レーダー欺瞞により敵軍のレーダーからも姿を消す。
混乱に拍車が掛かる、敵マシンゴーレムの群れ。
賢紀は走りながら、【ファクトリー】から76mm狙撃砲を取り出した。
両手で構えて照準、発砲。
チートスナイパーのイースズ・フォウワードには、「雑な照準」と言われてしまいそうだ。
しかし走りながらの射撃でGR-3の胴体をぶち抜いたのだから、褒めて欲しいものだと賢紀は思う。
距離を詰めていたこともあり、76mmライフル弾は敵機を貫通した。
後ろにいた機体の腰にも突き刺さり、リアクターを破壊する。
『見えないが、正面にいるぞ! 各機、ライフルモードで一斉掃射! 撃て!』
賢紀にも、敵部隊長の指示は聞こえてしまう。
マリアの補助により、魔道無線を傍受し放題だからだ。
GR-3の主力武器、マルチランチャー〈スターダスト〉から光の矢が放たれる。
逃げ場が無い程の密度で、プラズマ弾の雨は降り注いだ。
つい先程まで、賢紀がいた空間に。
『残念じゃな! もう、そこにはおらぬぞ!』
「だから敵に教えるなというのに……」
わざわざ敵全軍に、無線で叫んでしまうマリア。
しかし、〈シラヌイ〉の現在位置を知られる心配はなかった。
皆が周辺を警戒しているが、賢紀に視線を向けている機体は1機もいない。
〈シラヌイ〉の現在位置は、高度80m。
空高く跳躍し、眼下にひしめくマシンゴーレムの群れを見下ろしていた。
もうその両手に、狙撃砲はない。
いま握られているのは、7本の砲身を束ねて作られた大型ガトリング砲だ。
毎分4200発という、恐るべき連射速度。
切れ間無く発射される30mm砲弾は、長い破壊の舌となって大地を舐め回した。
地上を這いずる、帝国軍マシンゴーレム部隊もろとも。




