第71話 解放軍の底力 ~どんな兵士が乗っているんだ?~
「ケンキ! なぜ動力部を、破壊したのじゃ!? これでは〈マリオネイター〉で、操れぬではないか!?」
安川賢紀の乗るマシンゴーレム、XMG-4〈シラヌイ〉。
その操縦席内では、身長60cmほどの少女がプリプリと怒っていた。
賢紀の操縦を補助する、闇の高位精霊マリアである。
〈マリオネイター〉は、この機体に搭載されている特殊な装置。
敵機の〈擬似魂魄AI〉を支配下に置き、機体制御のOS術式を改ざん。
こちらの意のままに操るという、悪夢のような魔法兵器だ。
しかし動力部を破壊されたマシンゴーレムは、操れても動かせない。
なので「おもちゃが減った」と、マリアは怒っているのだ。
「もう2機も操っているから、同時にこれ以上は無理だぞ。〈マリオネイター〉も〈マルチプルディセプター〉も、恐ろしく魔力を食う」
「なんじゃ。〈シラヌイ〉も、大したことないのう。もっとリアクター出力と魔力コンデンサの容量を上げるよう、改良するのじゃ」
「わかった、わかった。とりあえず、その右脚を斬り落とした機体はポイしなさい。動ける奴をコントロールして、敵部隊をかく乱しろ」
賢紀はマリアにそう告げると、対マシンゴーレム短剣〈パッセロ〉を振るう。
魔力伝導により赤く輝く刃が、地面をゾンビのように這い回るGR-3〈サミュレー〉の頭部を貫いた。
依然、賢紀の駆る〈シラヌイ〉の姿は見えていない。
赤光を放つ短剣の刀身のみが、空中から奇妙に生えている。
「くっくっくっ……。帝国の下賤な操縦兵共よ。姿が見えぬこの〈シラヌイ〉に、せいぜい怯え逃げ惑うが良い。なーに、恥ずかしいことではないぞ? 妾のような高位の精霊が憑いておるのじゃから、畏怖するのは当然のことであるからして……」
マリアの口上が長くなりそうだと感じた賢紀は、途中から聞き流す。
【ゴーレム使い】は次なる敵機を求め、走り出した。
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「妙だな……?」
スキンヘッドの進駐軍司令が、訝しげに声を漏らした。
彼が睨みつけているのは、空中に投影されている管制魔力レーダーの映像投影魔道機だ。
レーダー上に映る、おびただしい数の光点は消えていない。
しかし味方機からは、誰もその大軍を視認できていないとの報告が入っている。
それなのに味方マシンゴーレムの数は、1機また1機と確実に数を減らしていく。
「実質、暴れている敵は2機だけなのか……?」
1機は20kmも離れた山上から、狙撃砲を撃ち込んでくる機体。
おそらく乗っているのは、イースズ・フォウワード。
帝国軍でも、戦闘奴隷としてマシンゴーレムに乗っていた狙撃手だ。
彼女が寝返ったのは、大きな痛手だった。
奴隷として扱き使わず、特別待遇の傭兵にして優遇すれば良かったものをと司令は思っている。
そしてもう1機、市街地に入り込んでいる敵機がいるはずだ。
魔力レーダーにも映らず、対峙していても機影が見えないとの報告が入っている不気味な機体。
偶に一瞬だけレーダー反応があるが、すぐにまた姿を眩ます。
正体不明の敵機相手に混乱して、同士討ちも何件か発生している。
この2機を相手に、帝国軍のマシンゴーレムはすでに7機も撃破されていた。
旧式のGR-1〈リースリッター〉だけでなく、最新式のGR-3〈サミュレー〉もやられている。
「後方の大部隊は、なぜ攻撃して来ない?……まさか!?」
レーダーから、姿を消す技術を持っている相手だ。
逆に存在しない魔力反応を、存在するかのように見せかける技術もあるとしたら?
「いかん! これは陽動だ!」
司令官が気付いた時には、もう遅かった。
「南方に、強力な魔力反応! データベースに該当あり。〈サルタートリクス〉と、〈フレアハウンド〉です!」
女性管制官の発した敵マシンゴーレムの名前に、司令部全体が緊張した。
皇帝ニーサ・ジテアールと【英雄】セナ・アラキが、テスラの大森林から持ち帰った映像に記録されていた。
エリーゼ・エクシーズ女王と、「アサシンスレイヤー」の異名を持つアディ・アーレイトの機体。
その凄まじい戦闘力に、帝国マシンゴーレム開発技術部は青ざめたという。
グレアム・レインだけは狂喜乱舞し、対抗心を燃やしたらしいが。
「北側に増援に向かった部隊を、すぐに呼び戻せ! このままでは、一気に司令部まで突破されるぞ!」
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『おっしゃー! 一気に司令部まで、突破するわよ! みんな! ついて来なさい!』
XMG-1〈サルタートリクス〉を駆るエリーゼは、魔道無線機を使い吼える。
自軍の士気を、鼓舞するためだ。
吼えると同時に機体の推力偏向ノズルを吹かし、城塞都市ダスカンの南門に向かって突撃を開始する。
〈サルタートリクス〉は装甲板に曲面を多用し、空力的に洗練された美しいフォルムを持っている。
紫の踊り子は光の粒子を振り撒きながら、流星となって加速した。
乗り始めの頃は、体を押しつぶす加速Gに耐えられなかったエリーゼ。
だが最近では、段々と慣れてきている。
キツイことはキツイのだが。
「ちょっと、エリーゼちゃん! 誰もついて来てないよ! こんな速度、アディさんの〈フレアハウンド〉でも無理だよ!」
エリーゼの体に巻きついていた蛇、土の高位精霊ヨルムが指摘する。
だがエリーゼ陛下は、全く速度を落とさない。
『電撃戦は、速度が命! 突撃! 突撃ィ!』
南門付近に配置されていたのは、GR-3が2機。
他のマシンゴーレムは、都市の北側に集中している
賢紀とイースズの陽動に、釣られてしまったのだ。
帝国軍のGR-3は、マルチランチャー〈スターダスト〉によるプラズマ弾を乱射してきた。
しかしエリーゼは、〈魔剣エヴォーラ〉で斬り払う。
ガラスのように透き通って見える、特殊なプラズマソードだ。
突撃の勢いそのままに、エリーゼは魔剣を敵GR-3の腹部に突き立てた。
さらには串刺しにした敵機を盾にして、もう1機のGR-3に接近。
2機同時に、胴体を薙ぎ払う。
そこへ、3機目の敵が出現した。
城門の影から姿を現したGR-3が、〈サルタートリクス〉に銃口を向ける。
しかし照準するよりも早く、銃弾が降り注いだ。
アディの〈フレアハウンド〉が放った、サブマシンガンの弾だ。
火花を纏いながら、破滅のダンスを踊らされたGR-3。
敵機は地面に崩れ落ち、その動きを止める。
『姫様。そんなに突出しないで下さい。クォヴレー達が、全くついて来ていませんわ』
『いえ! ドンドン行くわよ! 討ち漏らしは、よろしく!』
『ちょっ……!』
アディが止める間もなかった。
〈サルタートリクス〉は城門を走り抜け、市街地へと突入して行った。
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『すごいな……。エリーゼさんとアディさんだけで、ドンドン敵陣深くまで切り込んで行く……』
エリーゼとアディから離れて、第2陣として城門を突破したクォヴレー・コーベット。
彼はMG-2〈ユノディエール〉のコックピット内で、しきりに感心していた。
『クォヴレー~、感心している場合じゃない~。2人が、包囲されないようにしないと~』
ムルシィ・エラーゴからの無線を受けて、若き狼獣人は我に返る。
『りょ、了解した。二手に分かれるぞ。エネスクス、ゴリ! 2人だけで、左翼の部隊をやれるな?』
まだ若いエネスクスとゴリを2人だけで行動させることに、クォヴレーは少々抵抗があった。
しかし2人の連携が優れている点を考慮し、コンビを組ませたのだ。
そもそも心配するのがおかしな話かもしれないと、クォヴレーは思う。
年齢や白兵戦のキャリアはともかく、マシンゴーレムでの戦闘経験はクォヴレーより年少組2人の方が豊富なのだから。
『大丈夫です! 後ろからエネスクスに、撃たれなければ!』
『ゴリ。いつまで根に持ってるのさ。あんまりしつこいと、女の子にモテないよ?』
『あっ! てめえ! 最近シロンとイイ感じだからって、調子に乗るんじゃねーぞ!』
前言撤回。
やはり不安だ。
『行くぞ。散開しろ! しっかり撃破数を稼がんと、ジャニア社長にどやされるぞ』
クォヴレーの号令で、「ビサースト・エージェンシー」の面々は左右に散開した。
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「チッ! 動きも速い上に、何て正確な射撃だ」
帝国軍のGR-3を駆る、中年の操縦兵。
ぺリドット2のコールサインを持つ彼は、コックピットの中で毒づいていた。
イーグニース共和国軍機の性能と、その操縦兵の練度がここまで高いとは。
完全に、想定外だ。
「いったいどんな、歴戦の兵士が乗っているんだ?」
敵のパイロットがまだ14歳の少年だと教えられても、彼は信じずに笑い飛ばしたことだろう。
それくらい目の前の敵機、MG-2の動きは洗練されていた。
すでに2機の味方が、ライフルに撃ち抜かれ機能を停止している。
道路を挟んで向かい側には、自分と同じく建物の陰に機体を隠したぺリドット3の姿があった。
『ぺリドット3、俺の合図で一斉掃射だ。コンデンサの容量が無くなるまで、撃ちまくれ。カウント3――、2――、1――、撃て!』
2機のGR-3は同時に建物の陰から飛び出し、道路にいるはずの敵機へと銃口を向ける。
『……いない!』
しかし道路上に映った影に、彼は気付いた。
ライフルを撃ってきていた敵機とは、別の機体が空中にいるのだ。
『上だ! ぺリドット3!』
警告がぺリドット3の耳に、届いたかどうかはわからない。
ペリドット2が叫び終わる頃には、ペリドット3は機体頭部を破壊されていた。
空中から襲い掛かってきたMG-2が振るう、槍に貫かれて。
穂先がGR-3の頭部に触れた瞬間、破裂音が響き渡ったのだ。
ぺリドット3の後頭部から、爆炎が吹き抜ける。
それが形成炸薬を使用したHEATスピアという武器だということを、ぺリドット2が知る機会はこの先も無かった。
ペリドット3を貫いた槍が、ペリドット2にも襲い掛かったからだ。
HEATスピアは両端に、形成炸薬が仕込まれている。
もう1発、撃てるのだ。
高速・高圧のメタルジェットが、分厚いGR-3の胸部装甲を溶かすように貫通した。




