第54話 大蛇の装甲~物理でダメなら魔法だろう?~
テスラの大森林の中を、7機のマシンゴーレムが駆け抜ける。
先行するのは、MG-2〈ユノディエール〉。
イーグニース共和国が誇る、最新鋭機。
その数、4機。
装備を含めると、機体重量は9tを超える。
しかし、そんな重量は感じさせない。
忍者のようなシルエットに違わず、軽やかな機動で木々の間を駆け抜ける。
4機とも、緑色を基調とした森林迷彩色に塗装されていた。
だがそれぞれ、武装と識別のために描かれた肩のパーソナルマークが違う。
ルータス王家の紋章が描かれた機体は、エリーゼ・エクシーズ機。
長剣を斜めに背負い、右手にはハンドガン。
操縦者と同じく、俊敏に走る。
アディ・アーレイトの機体には、冥界の番犬が描かれている。
両手にマシンガンを1丁ずつ携え、獣のような躍動感で疾走する。
イースズ・フォウワードのパーソナルマークは、肩に描かれた3つの瞳。
長大な狙撃砲は取り回しに難があるはずだが、器用に森をすり抜けていく。
そして吹き抜ける風をモチーフにした、フリード教の紋章が描かれた機体。
この機体だけは手ぶら。
異空間の収納庫である【ファクトリー】から、いつでも武器を取り出せる安川賢紀の機体だからだ。
イーグニース組の後ろに続くのは、鎧武者を連想させるフォルムのマシンゴーレムが3機。
こちらはMG-2に比べ、重量感を感じさせる。
しかし、動きが鈍いわけではない。
ぶ厚い装甲の内側に搭載された、MG-2より多めの人工筋肉。
そのパワーによって、力強く疾走する。
リースディア帝国の最新鋭機、GR-3〈サミュレー〉。
こちらは、色のバリエーションが豊富だ。
森の背景に溶け込める、森林迷彩色の機体はレクサ・アルシエフ機。
どう考えても戦場では目立ってしまう、ルビーのような緋色の機体はニーサ・ジテアール機。
そして白色に青いポイントの入った、ロボットアニメで言うなら主役機カラーの機体は荒木瀬名の機体だ。
帝国軍のGR-3の方が若干足が遅いが、それでもその走行速度は200km/hを超える。
7機の攻撃目標である〈ミドガルズオルム〉との距離は、瞬く間に縮んでいった。
賢紀が乗る機体の集音魔道機が、後方からの発砲音を拾う。
イースズ・フォウワードが狙撃砲から、再び装弾筒付翼安定徹甲弾を放ったのだ。
2射目も、〈ミドガルズオルム〉に命中。
しかし今度は頭部を揺らしただけで、仰け反りすらしない。
1射目はゼフォーの不意を突いたために、怯ませられたに過ぎなかった。
「運動エネルギー弾が効かないなら、化学エネルギー弾はどうだ?」
賢紀は異空間の工場兼倉庫の【ファクトリー】から、狙撃砲を取り出す。
イースズの持っているものと同じ、90mm。
ただしイースズの物とは、装填されている砲弾が違う。
HEAT弾頭だ。
ドワーフ達の開発した成形炸薬の力で、液体のようになった金属と衝撃波のビームであるメタルジェットを発生させる。
それにより、目標の装甲を撃ち抜く弾頭を搭載していた。
エルフのマシンゴーレム、〈フックスレーレ〉が装備しているミサイル。
そのミサイルにHEAT弾頭が搭載されていることを見抜けたのも、自分が【ファクトリー】内で量産していたからに他ならない。
賢紀は機体の片膝を大地に着かせ、膝射の姿勢を取る。
そのまま〈ミドガルズオルム〉の頭部を狙い、砲弾を叩き込んだ。
度重なる頭部への狙撃にうんざりしたのか、鉄の大蛇は尻尾で賢紀のHEAT弾を防いだ。
ルーンタイト装甲は化学エネルギー弾にも強靭な防御力を発揮するらしく、ダメージを受けた素振りは無い。
「チッ、ダメか」
運動エネルギー弾も、化学エネルギー弾もダメ。
ならば魔法兵器はダメージが通るかと賢紀は考えたが、彼らの乗るMG-2に魔法系の武器は搭載されていない。
機体を開発したドワーフ達もコピー機を作って運用している賢紀も、実弾兵器にこだわっているのだ。
なぜなら――
『安川、物理でダメなら魔法だろう? マルチランチャー〈スターダスト〉、バスターモード』
いつの間にか賢紀に追いついて来ていた、白いGR-3。
瀬名の機体だ。
瀬名機は何も無い空間から、長い砲身パーツを取り出す。
異空間への収納能力【アイテムストレージ】を持つ彼もまた、マシンゴーレム用の武器やパーツを異空間に格納していた。
彼はマルチランチャー〈スターダスト〉に長い砲身パーツを組み合わせると、さらに砲身から出ているケーブルを腰部のコネクターと接続する。
マシンゴーレムは、腰部に動力源があるのだ。
このケーブルは砲身とリアクターを直結し、莫大なエネルギーを取り出すためのもの。
「荒木、あんまり出力を上げて撃つなよ?」
『わかっている! ビサーストで魔法杖を壊した時のような、ヘマはしない』
「全然わかってないな、コイツは」と、賢紀は内心呆れていた。
呆れられてることに気付かない瀬名は、意気揚々とランチャーに撃発信号を送って発砲する。
『バスターモードは俺の魔力を全開上乗せして撃っても、壊れないように設計されているんだよ。……喰らえ!』
放たれる、極太な光の奔流。
ニーサ・ジテアール帝が〈フックスレーレ〉に撃ったものとは、桁違いの火力だ。
鎌首を擡げていた〈ミドガルズオルム〉の上半身を、光の奔流が飲み込んだ。
そのまま、押し流してしまおうとする。
しかし光の奔流は、突如として霧散してしまった。
通常のマシンゴーレムとは比べ物にならない、強力な魔法障壁によるものだ。
「荒木、回避しろ」
瀬名の攻撃を無効化した〈ミドガルズオルム〉は、口を大きく開けた。
口内の巨大な砲門を、瀬名のGR-3に向けている。
牙のようなパーツから、黒い稲妻が迸った。
砲門の前に、禍々しい魔力を秘めた黒い球体が生成される。
『わかってる! ちゃんと避け――何だ!? 機体が――』
「重い」と、続けようとしたのだろう。
回避行動を取ろうとした、瀬名機の動きが鈍い。
「言わんこっちゃないな」
こうなることを予測していた賢紀は、瀬名の機体に接近し抱え込んだ。
MG-2の運動性を生かし、そのまま横っ飛びに跳躍する。
2機が立っていた空間を、黒いプラズマの嵐が焼き払った。
『一応、礼は言っとくぞ安川。……変だな? 魔力コンデンサの容量には、まだ余力があったはずなのに』
「救助料は、サービス価格だ。100万モジャでいいぞ。……リアクターに魔法兵器を直結して一気にあれだけの魔力を使えば、出力が不安定にもなる。だから俺もドワーフ達も、魔法兵器とかビーム兵器とかは敬遠しているんだ」
『そうか。だからグレアムは、実弾兵器にこだわって……だが王道は、ビーム兵器だろう? 弾切れの心配もないし、軽量に作れるし、何より見た目がカッコいい。……って、議論している場合じゃないな』
再び黒いプラズマの激流が、2人の機体を飲み込もうとする。
賢紀と瀬名は、互いに後方へと飛び退いて回避した。
『ほう? この殲滅魔砲〈アケローン〉を、軽々とかわすとは。噂に聞いていたよりも、他所のマシンゴーレムは随分と身軽なものなのだな』
『ゼフォーさん。アンタ本当に、エルフ達の長なのか? こんなに森を焼いて、精霊女王様とやらは怒らないのか?』
賢紀が機体のセンサーで分析したところ、〈アケローン〉の黒いプラズマに焼かれた場所には霊的な汚染の症状が見られる。
魔素やマナの流れが阻害され、植物や生き物の生命活動に多大な悪影響を及ぼすのは間違いない。
『私が焼き払わずとも、いずれこの森は消える』
『何!? それはどういう意味だ?』
瀬名も賢紀と同じく疑問を持ち、発言の真意を問いただす。
しかし、魔道無線機の向こうから返ってきたのは沈黙だった。
『森よりも先に、あなたが消えることになりますわ』
沈黙を打ち破ったのは、アディ・アーレイトの無慈悲な声。
続けて荒れ狂う弾丸の嵐が、〈ミドガルズオルム〉の体に降り注ぐ。
金属を叩く甲高い音と共に、大蛇の体表で火花が激しく舞い散った。
賢紀達よりも〈ミドガルズオルム〉に接近していた、アディ機からの攻撃だ。
近距離から中距離での戦闘を得意とする、アディ、エリーゼ、ニーサ、レクサ。
4機は〈ミドガルズオルム〉の周囲を凄まじいスピードで駆け回りながら、射撃を繰り返す。
アディ機は、マシンガンを2丁構えている。
それもコンパクトなサブマシンガンではなく、フルサイズのマシンガンをだ。
レクサ機は、マルチランチャーの2丁拳銃。
2機の連射速度は特に凄まじく、銃弾と光弾の雨は途切れることなく降り注ぐ。
それでもルーンタイト装甲で身を固めた、〈ミドガルズオルム〉への決定打には至らない。
しかし縦横無尽な戦闘機動を取る4機を、パイロットのゼフォーは追いきれていなかった。
巨体と重量。
さらには内部構造が〈フックスレーレ〉のように魔力感応液だけの構造になっているせいで、瞬発力不足。
そのため〈ミドガルズオルム〉の動きは、決して速くはない。
対して、第2世代型マシンゴーレム達の動きは軽快。
ブンブンと飛び回っては、チクチクと全身を刺してまわる虫のようだ。
パイロットの苛立ちを反映するかのような仕草で、〈ミドガルズオルム〉は巨大な尻尾を振るう。
森林ごと、大地が薙ぎ払われた。
ニーサ・ジテアールが駆る緋色のGR-3に、巨大な質量をもった尻尾が襲い掛かる。
しかも、死角となる軌道でだ。
GRー3〈サミュレー〉は細身になったとはいえ、GR-1〈リースリッター〉より遥かに防御力が上がっている。
だがそれでも、この尾撃が命中すれば大破は免れない。
『尻尾が来るのを、待っていたぞ!』
パイロットが叫ぶと同時に、緋色のGR-3が宙を舞う。
ニーサ機は空中で身を捻り、全身を横方向に高速回転させた。
同時に〈スターダスト〉をセイバーモードに切り替え、光の剣を展開。
自機の下を、猛然と通過する大蛇の尻尾に斬りつける。
しかも、関節部を正確に狙って。
敵機尻尾の勢いと、自機の回転する遠心力。
それらを完璧なタイミングで合わせた、カウンターだった。
だがそれでも、ルーンタイト装甲を切り裂くには足りない。
発生した反発力で、ニーサ機は弾き飛ばされる。
操縦センスも抜群な女帝は、空中で器用にバランスを立て直した。
着地と同時にバックステップして、一旦間合いを切る。
『関節部を、可変式の装甲板がカバーする構造になっている……。斬撃では無理だ! レクサ! エリーゼ! 重なりあっている装甲板の隙間から、差し込め!』
ニーサの指示に、レクサ・アルシエフ将軍はコックピットで獰猛な笑みを浮かべた。
『御意。我が双剣は、帝国と人間族の未来のために』
レクサは2丁の〈スターダスト〉をセイバーモードに切り替えた。
まだ刃は展開せず、だらりと両手を下げて前かがみの姿勢を取る。
『「蝶のように舞い、蜂のように刺す」ってね。父セブルス・エクシーズより受け継いだこの剣技、その目に焼きつけなさい』
エリーゼ・エクシーズはハンドガンを腰のハードポイントにしまい、背負っていた長剣を脇構えに構えた。
近接格闘戦を、最も得意とする2人が搭乗したマシンゴーレム。
2機は捲れ上がるほどに、大地を強く蹴る。
大気を切り裂く轟音を上げながら、〈ミドガルズオルム〉の胴体へと襲い掛かった。




