第36話 神の使徒達の戦い~同族嫌悪ってヤツですか?~
まず最初に動いたのは、ティーテことイースズのGR-1〈リースリッター〉。
彼女の機体も安川賢紀達のものと同じく、〈ドライビングホイール〉が搭載されていた。
滑走するような機動で、岩陰へと姿を消す。
イースズ機には、弓矢のような武器が装備されていた。
賢紀は疑問に思う。
果たしてそんなもので、マシンゴーレムの装甲を貫けるものだろうかと。
イースズのGR-1を追って、エリーゼ・エクシーズとアディ・アーレイトの機体も消えた。
その場に残されたのは賢紀の機体と、荒木瀬名の白いGR-1。
2機は滑走機動を用いて動き回りながら、互いの様子をうかがう。
岩棚の間にある砂地を、二筋の砂煙が流れていた。
砂煙は複雑な軌跡を描き、たなびく。
『帝国軍も、〈ドライビングホイール〉を開発したのか……。俺が考えたんだ。特許使用料払えよ』
『ちゃんと特許申請したのかい? 試しに帝国マシンゴーレム開発技術部を、訴えてみるといい』
賢紀は動きながら、瀬名の機体を観察する。
まず、頭部の形状が違う。
〈クリスタルアイ〉は、双眼式になっている。
スーテラ・トーター達の機体には、サイドカメラが付いていた。
おそらく、瀬名機にもついているはずだ。
視界は広いだろう。
〈ドライビングホイール〉は、結構な魔力を食う。
滑走機動でこれだけ走り回れるということは、〈トライエレメントリアクター〉の出力も上がっている。
そして武装。
瀬名機は剣を握っていた。
エリーゼ機に装備されている〈エスプリ〉ほど長大ではないが、両手用の剣だ。
剣を握る左手。
二の腕の形状に、違和感を感じる。
おそらく賢紀達の機体と同じく、収納式の魔法杖が隠されているのだろう。
「飛び道具は、魔法くらいか? いいだろう。中・近距離戦に、付き合ってやる」
賢紀は自分の精神状態に、違和感を感じていた。
普段の彼は、わりと慎重な戦い方を好む。
自機のアドバンテージを、生かす戦法が主流だ。
わざわざ相手の得意なフィールドで戦ってやろうなどとは、まず考えない。
ライフルで遠くからズドン! というのが、いつもの戦闘スタイル。
ところが、今は違う。
瀬名機が得意な間合いで戦って打ち負かし、プライドをへし折ってやりたいという気持ちが湧き上がっていた。
「ただ、荒木が気に食わない。……というだけなら、いいんだけどな」
賢紀が疑っているのは、【神の加護】からの精神干渉だ。
『殺せ! 敵対する神の使いを、滅ぼし尽くせ!』
体の中にある【神の加護】が、そう叫んでいるのではないのか?
もしそうなら、瀬名も精神干渉を受けている可能性がある。
柔和な口調とは裏腹に、賢紀に対しては挑発的な言葉が多い。
「過度な闘争心は、仕事の邪魔だ。少し黙って見てろ、【神の加護】さんよ」
賢紀は機体背部のハードポイントに装着されている、対マシンゴーレム短剣〈パッセロ〉に手を添えた。
まだ抜かない。
ギリギリまで得物が何か、相手に悟らせたくない。
先に仕掛けたのは、瀬名の方だった。
鋭く2回、進行方向を変えるフェイント。
続けて魔力ブースト機動で、爆発的に加速。
突きを放ってきた。
普通の帝国兵が駆るGR-1とは、比べ物にならないスピードだった。
しかし賢紀は機体を右に捌き、難なくかわす。
間髪入れず、瀬名は横薙ぎを放った。
だがそれも賢紀は機体をバックステップさせ、間合いを外して避ける。
さらに瀬名は、機体左腕に内臓された魔法杖を展開。
賢紀に向けてくる。
あまりに強大な魔力が一瞬で集まり、賢紀はハッキリとその魔法を認識できた。
相手の魔法を感知しにくくなる、マシンゴーレムの操縦席に居たにもかかわらずだ。
「これは食らったら、ヤバいやつだ」と。
賢紀は片足の〈ドライビングホイール〉だけを、逆回転させた。
止まっている側の足を軸に、機体を急速回転。
強烈な旋回Gに体が軋み、目が眩みそうになる。
半身になって回避行動を取った瞬間、機体があった空間を眩い光の柱が貫いた。
光はそのまま虚空を突き抜け、大岩にぽっかりと穴を開ける。
穴は恐ろしく、綺麗な断面だった。
「あんなの食らったら、マシンゴーレムの魔法障壁と耐魔法装甲でもひとたまりもないな……。対マシンゴーレム戦では、魔法は決め手にはならないという認識を改めなければ。……ん?」
瀬名の放った魔法に戦慄していた賢紀だが、敵機を観察すると何かがおかしい。
左手の仕込み魔法杖が、飛び出している。
しかしバチバチと魔力の電光を迸らせ、黒煙を上げていた。
『荒木……。アンタまさか、杖を壊したのか?』
無線による賢紀の問いに、瀬名は答えない。
だが、図星なのだろう。
賢紀にも、分かっていたことだ。
マシンゴーレムのリアクターが発生させる莫大な魔力と、神の使徒が持つ馬鹿魔力。
それらを合わせてむりやり杖に注ぎ込めば、マシンゴーレムの装甲を貫ける火力の魔法が撃てると。
そして絶対に、魔法杖がもたないということも。
下手をしたら、杖ごと片手が吹き飛ぶ。
だから賢紀は、そのような戦い方をしたことは無かった。
瀬名のGRー1は、杖から煙を吹いてるだけだ。
吹き飛ばなかったということは、杖の耐久性を上げる改良が施されているはず。
帝国の技術者達は優秀だと、【ゴーレム使い】は感心していた。
(荒木瀬名。コイツ、ひょっとして……?)
賢紀は背中のハードポイントから、大口径ハンドガン〈ガルーダ〉を引き抜いた。
アディの持ってる魔法銃は、これを人間用サイズに落とし込んだもの。
マシンゴーレム用のこちらが、元祖だったりする。
生身の賢紀は、両手でもまともに発砲できない。
しかしマシンゴーレムに乗っている時は、片手で完璧な射撃ができる。
これも【ゴーレム使い】の能力ゆえだ。
素早く照準して、2連射。
しかし瀬名は機体を切り返し、難なく回避する。
「動体視力、反応速度は人間離れしているな。……しかしだ」
賢紀は滑走機動の最中にも、ハンドガンを連射。
細かいフェイントも織り交ぜつつ、瀬名の機体へと接近する。
普通のパイロットなら、とっくに蜂の巣となっている攻撃だ。
だが瀬名は超人的な反応速度で、それを回避していく。
『こんなファンタジーな世界で、銃を使うなんてずるいぞ!』
『やかましい。戦いで、道具に差があるのは当たり前だ。泣き言を言うな』
戦いの最中なのに、互いの罵り合いは止まらない。
賢紀がある程度まで接近した時、瀬名は剣を振るってきた。
【ゴーレム使い】は回避行動を取ると同時に、撃ち尽くしたハンドガンを機体と逆方向へと投げ捨てる。
そして反応速度が速すぎる瀬名は、一瞬だがそれを目で追ってしまった。
瀬名が視線を戻した時には、機体頭部に迫る賢紀の短剣。
またもや超人的な反応で、それを払いのける瀬名。
『残念。本命はこっちだ』
賢紀はダガーを払いのける瀬名の力に逆らわず、それすらも利用して機体の右足でローキックを放った。
機械とは思えぬ柔軟性。
鞭のようにしなる蹴りは、瀬名機の膝関節を的確に打ち据えた。
駆動系に、確実なダメージが伝わる。
賢紀の攻撃は、まだ終わらない。
左手の短剣を空中に放り投げると、瀬名の機体に密着。
空いた左手の平で、コックピットブロックにそっと触れた。
「天才とはいえ、アレクは普通の人間。奴にできて、【ゴーレム使い】の俺にできないはずがないだろう」
機体両足から土煙が巻き上がり、力が激流となって敵機へと流れ込む。
密着状態から爆発的な衝撃を受けた瀬名機は、数十mの距離を吹き飛ばされた。
よろめくが、なんとかバランスを立て直して着地する。
かつてアレックス・S・マッサが賢紀に向けて放った、「浸透勁」――らしきもの。
それを賢紀は、再現してみせたのだ。
再現した賢紀が凄いというよりも、【ゴーレム使い】でもないのにこんな技を使えたアレクが異常だといえる。
『くっ! ちょっとビックリしたけど、効いてないよ!』
賢紀は空中に放り投げていたダガーを、キャッチしながら応答する。
『ああ、そうだろうな。アンタには、な……』
(ちっ! 俺はゲロ吐いたのに……。頑丈な奴め! ……だが、これで確信を持てた。荒木瀬名の戦い方を観察して、ひとつわかったことがある)
戦いの最中に、わざわざ教えてやる必要はない。
むしろ気付かないでいてくれた方が油断を誘え、賢紀にとっては有利かも知れない。
(いや。アイツの自信を打ち砕いた方が、きっと有利になる。断じてアイツを、ただヘコませたいからとかじゃない!)
賢紀は自分に言い訳をしてから、確信したことハッキリと瀬名に告げてやった。
『荒木瀬名。アンタはマシンゴーレムの操縦が、ヘタクソだな』




