第23話 王女様の獲物~もう終わりなの?~
「マッサ!」
スーテラが倒れゆく後輩に向かって叫んだ時、再び破裂音が聞こえた。
地面から巻き上がる、砂埃。
何か見えない攻撃によって、大地が抉られている。
『全機散開!』
シアーゼ隊長が指示するよりも早く、スーテラはGR-1〈リースリッター〉を走らせた。
森に身を隠すためだ。
「マッサの馬鹿者め! だからもっと気を引き締めろと、出撃前からあれほど注意していたのに!」
軍人に相応しくない、ノリの軽い男。
だがどこか憎めない新人が、スーテラはそこまで嫌いではなかった。
彼を一人前に鍛え上げ、死なせないようにする。
それが先輩である、自分の責任だと思っていた。
「……それなのに!」
スーテラは森に駆け込む直前、マッサ機が攻撃を受けた地点を一瞥する。
だが、そこには何も無かった。
マッサが乗っていたGR-1の巨体は、忽然と姿を消していたのだ。
「クソッ! 何なんだこれは!? 私達はどこから? どんな攻撃を受けているのだ!?」
正体不明の攻撃に、コックピットで身震いするスーテラ。
彼女は隊長機と、分断されてしまっていた。
このまま単独で、戦うしかない。
「襲われた時の状況から見て、遠距離からの攻撃。マシンゴーレム用の矢か礫のようなものを、マッサは食らったと見るべきだ」
ならばこのまま、遮蔽物の多い森の中で戦った方がいい。
火力から見て、相手はマシンゴーレム。
魔法杖による魔法攻撃では、マシンゴーレムの魔法障壁と耐魔法装甲を貫けない。
――となれば、敵マシンゴーレムに有効打を与えられるのは剣しかない。
一方で相手には、遠距離からマシンゴーレムに致命打を与える攻撃手段がある。
スーテラが勝つためには、身を隠しながら相手に接近。
攻撃を避けつつ懐に飛び込み、斬るしか方法は無い。
「この得体の知れない攻撃……。まさかコイツが、ルーフ中継基地を……」
可能性を考えると、盾を持つ機体の左手に自然と力がこもった。
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「さーて。お客さん、いらっしゃーい」
迷彩色に塗られ、両肩にはルータス王家の紋章が描かれたGR-1。
その操縦席で、エリーゼ・エクシーズは肉食獣のような笑みを浮かべていた。
マシンゴーレムでの戦闘という危険な行為を目前に控えているにもかかわらず、操縦席で舌なめずりをしながら軽口を叩く。
それも小柄な少女が――だ。
普通の帝国軍操縦兵が見れば、違和感か恐怖を感じる光景だったろう。
ワーカス街道の途中、森や緑よりも岩壁が多いエリア。
その少し開けた地点に機体を陣取らせ、彼女は姿を隠さず堂々と敵を待ち受けていた。
エリーゼの機体は安川賢紀やアディ・アーレイトのものと違い、アサルトライフルを装備していない。
代わりに愛刀である魔剣〈エスプリ〉を彷彿とさせる、シャープなデザインの長い両手剣が握られていた。
これはGR-1の制式装備である魔剣〈リネアール〉を、賢紀が〈エスプリ〉に似せて改造したものだ。
〈エスプリ〉は人間族の男性が持てば、標準的な長さのロングソード。
だが身長140cm半ばのエリーゼが持てば、大剣のように長く見えてしまう。
マシンゴーレム用も生身と同じ比率になるよう製作してみれば、〈リネアール〉2本分の材料を必要とする長大なものに仕上がってしまった。
だがそのおかげでエリーゼは、マシンゴーレム戦でも生身と同じ感覚で剣を振るうことができる。
無計画に敵機を待っているように見えるエリーゼだが、彼女とて何の考えも無く姿を晒しているわけではなかった。
帝国軍のGR-1には、〈ドライビングホイール〉が装備されていない。
ならば、平地での機動力勝負に持ち込む方が有利。
長い〈エスプリ〉が、隠れるのには邪魔になるというのも理由のひとつだ。
思考を巡らせ、待ち構えるエリーゼ。
その眼前に、GR-1が単機で姿を現した。
帝国軍の証である、銀色に輝くボディ。
賢紀とアディの狙撃により、仲間と分断された敵機だ。
岩陰から敵機が姿を現した瞬間、エリーゼは機体を急加速させた。
足裏に装備されたホイールを、最大出力で回す。
滑走機動。
砂煙を上げながら、滑るように敵機へと突進する。
構えは剣を右肩に引き付ける、八相の構え。
小柄な身体で長い剣を振るうエリーゼは、相手が得物の長さを錯覚しやすい構えを好み、多用する。
この八相もそうだし、刀身を身体で隠してしまう脇構えも同じ理由からだ。
突然目の前に現れた、所属不明のマシンゴーレム。
その不可解な機動に怯んだ帝国軍のGR-1は、とっさに背中のハードポイントから魔法杖を取り出してしまう。
魔法が決め手として威力を欠くマシンゴーレム同士の戦いにおいて、悪手といわざるを得ない選択だった。
「甘いわね! 対マシンゴーレム戦で杖に頼るなんて、初心者のやることよ!」
1ヶ月ちょっとしか搭乗経験のないエリーゼも、期間からいえば初心者。
だが自分のことは棚に上げて、彼女は叫んだ。
かなり上からな発言だが、外部拡声魔道器のスイッチはオフ。
敵操縦兵には、聞こえるはずもない。
敵機が放った石礫の魔法を、エリーゼはひらりと回避。
同時に剣の柄から一時的に片手を離し、敵機に向ける。
「マシンゴーレム戦での魔法は、こういうふうに使わないとね。……【フレイムアロウズ】!」
金属音と共に、エリーゼ機の手の甲から魔法杖が飛び出した。
そこから彼女は、炎の矢を放つ。
狙いは頭部のカメラ、〈クリスタルアイ〉。
敵機の操縦席に炎の矢が大きく映ったであろうタイミングを狙い、エリーゼは機体の進行方向を鋭く変える。
敵パイロットの視界から、消えるためだ。
死角から回り込むように接近したエリーゼは、再び両手で握り直した長剣を振り下ろした。
「意外!? 反応した! 見失わなかったのね」
エリーゼは少々驚いた。
彼女は知らなかったが、敵機の頭部にはサイドカメラが追加されている。
見失わなかったのは、視界が広がっていたからだ。
しかし、反応できてももう遅い。
敵のGR-1は、左サイドから迫るエリーゼ機を迎撃しようと機体を向ける。
だがそれよりも速く、エリーゼの剣が振り下ろされた。
生身の時と同じく、鮮やかな緑色に輝く魔導の剣が。
エリーゼの長剣は敵機のコックピットブロックを切り裂き、腰部の〈トライエレメントリアクター〉も切り裂いた。
完全に真っ二つだ。
「もうもう一丁!」
さらに彼女は右サイドを走り抜けながら、敵機の胴体を横一文字に斬り裂いた。
剣を振りぬいた姿勢のまま残心を取り、周囲を警戒するエリーゼ。
打ち合わせ通りなら、こちらに向かって来るのは1機だけのはず。
だが、伏兵がいないとは限らない。
「あれ? ひょっとして、もう終わりなの?」
エリーゼは少々、拍子抜けしていた。
伏兵がいる気配も無く、敵機もあっさり撃破できてしまったことに。
おかしい。
自分の方に向かって来るのが、隊長機だと思っていたのに。
あっさりと撃破され、バラバラに解体された隊長機(?)の残骸。
彼女はそれを見つめながら、「ちょっとやり過ぎたかも?」と反省していた。
これではウチの【ゴーレム使い】が回収しても、修理して再使用するのに時間がかかってしまいそうだと。
「……後でケンキから、文句を言われるかも?」
こめかみを、ポリポリと掻いていたエリーゼ。
戦闘直後にもかかわらず、自分が汗ひとつ流していなかったことに気付く。
「うーん、ちょっと物足りないわね……。他の手伝いに行きましょ。ケンキとアディの方は、もう片付いたかしら?」
未だ体を動かし足りない 「白銀の魔獣」は、次の獲物を求めてGR-1を加速させる。
砂埃を巻き上げながら、エリーゼ機はその場を後にした。




