表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/150

第15話 亡国の王女~受け入れてもらえませんか?~

 ここはイーグニースの首都、スウィーフトにある大統領府。


 昨日に引き続き、大会議室には臨時招集された共和国議会のメンバーが勢揃いしている。




「……というわけで(わたくし)ルータス王国第3王女エリーゼ・エクシーズとその(いっ)(こう)は、イーグニース共和国への亡命。そしてルータスに残っている、難民の受け入れを要請いたします」


 静かに。

 しかし(おく)することなく、堂々と述べられたエリーゼの要請。


 それに対し、議員達は難しい表情を浮かべていた。


 ヴィアルゼ・スヴェール大統領だけは、「当然、承認するよな?」というプレッシャーを議員達にビシバシ向けていたが。




 発言を終えたエリーゼは、椅子に腰を下ろした。


 「さあ、(あと)は皆さんで話し合って下さい」と言わんばかりの態度だ。


 今日の彼女は、背中に剣を背負っていない。




 隣には、黒髪黒目の青年が腰掛けていた。


 そこそこ整った顔立ちだが、冷たくて無愛想な印象を受ける。


 エリーゼ王女の従者なのだろうが、彼はやけに落ち着いて見えた。


 従者にしては、エリーゼ王女に気を遣っていない。


 ふてぶてしい態度ともいえる。




 2人の(かたわ)らには、メイドが付き添っていた。


 ふわりとした美しい金髪を持つ、犬耳獣人。


 数年前より採用され、今やルータスの名物となっている護衛兼任メイドだ。


 彼女は席に着いていない。


 立ったまま、エリーゼの後方に待機していた。


 猫のようにやや吊り上がった瞳は、注意深く周りを警戒している。




「その……。エリーゼ王女には、申し訳ありませんが……。この国の現状を(かんが)みるに、それらの要請受け入れは難しいと思います」


 中年のドワーフ議員が語り始めた。


「軍事力の差などの諸事情から、我が国はリースディア帝国と事を構えるのは避けたい現状にあります。エリーゼ王女やルータスからの難民を受け入れれば、帝国に攻め入る口実を与えることになりましょう」


 周囲の議員達も、中年議員に同調し小さく(うなず)く。


「いちどルータス領内に、お戻りになった(ほう)がよろしいのでは? 逃げ延びている家臣の方々を集め、再起を(はか)ってはいかがでしょうか?」


 中年議員は言葉を選びながら、遠慮がちに意見を述べた。


 帝国兵亡命疑惑の件は、伏せている。


 イーグニース共和国としては、他国の王女などに余計な情報を与えるのは避けたかった。




 中年議員の発言に、スヴェール大統領は少しムッとしているのが(うかが)える。


 だが当事者のエリーゼ達は、全く動じていない様子だった。




「いや。もっと良い案があるぞ」


 ベテランのリーフ議員が、暗い笑みを浮かべた。


「エリーゼ王女とその()(いっ)(こう)を捕え、帝国に突き出す。それを足がかりに、帝国と不可侵条約を締結。国益を考えれば、これ以上の選択肢はありますまい」


 勝ち誇ったような視線が、大統領に向けられる。


「スヴェール大統領。まさか身内可愛さに、国を危機に(さら)すおつもりではないでしょうな?」


「リーフ議員……貴様!」


大統領は、激しい怒りのこもった視線をリーフ議員に向けた。




「私としても、大変心苦しくはあるのですよ。しかしエリーゼ王女や難民の受け入れは、我が国にとって何の利益もない。害をもたらすだけだ」


 そう言ってリーフ議員は立ち上がり、指を鳴らす。


 パチンという乾いた音。


 間を置かず、会議室の扉が乱暴に開かれた。


 そこから6人のドワーフ警備兵達が、なだれ込んできた。


 全員、リーフ議員の息がかかった者達だ。


 ずんぐりとした体型に似合わない、素早い動き。


 警備兵達は椅子に座るエリーゼ達(いっ)(こう)の背中に、槍を突き付ける。




「やめておけ。素手でも、エリーゼ王女とその護衛相手では……。そんな少数の警備兵では、足りぬ」


 大統領は、呆れたような口調で警告する。


 大会議室に入る前にボディチェックが行われ、エリーゼ達3人は武器を持っていないはずだった。


 それ(ゆえ)にリーフ議員は、6人も警備兵がいれば充分取り押さえられると(たか)(くく)っていたのだ。


 大統領の警告は、リーフ議員に聞き流されてしまう。


 


 結果は、リーフ議員の思惑通りにはならなかった。


 しかし大統領の予想からも、斜め上を行く事態になってしまった。




 突然だった。


 硬質な金属音を立てて、床に転がり落ちる槍の()さき




 エリーゼと護衛のメイドの手には、それぞれ長剣と短剣が握られていた。


 どこから取り出したのか。

 いつ振るわれたかを見極めることができた者は、共和国関係者の中にいなかった。


 エリーゼがいつの間に椅子から立ち上がったのかすら、よくわかっていない。




 2本だけ、穂先の切り落とされていない槍があった。


 しかしその槍は、プルプルと細かく震えている。




 議員達が、槍の持ち主達を見やる。


 彼らの頭は、石でできた大きな手に掴まれていた。


 その状態で持ち上げられ、足は地面から離れている。




 石でできた巨人、ストーンゴーレムだ。




 槍を向けられていた、黒髪の青年が呼び出したものだった。


 「いつの間に?」、「どうやって?」という疑問が、議員達の脳裏を駆け巡る。




 青年は、警備兵達の方を振り返ってすらいなかった。


 平然とした表情で、出された紅茶を飲んでいる。




「ああ。飲んで大丈夫だぞ、エリーゼ、アディ。妙なものは、何も入っていない。普通に美味い。……ちと、冷めてるがな」


「【ファクトリー】に入れて、解析したのね。でもそれ、最初にやってくれると助かるんだけど? 冷めちゃう前に、飲みたかったわ」


 エリーゼと黒髪の青年――(やす)(かわ)(けん)は、余裕の態度で紅茶について語らっていた。


 警備兵6人に包囲されていることなど、全く意に介していない。




「き……貴様ら! 抵抗するのか!」


 リーフ議員が、声を荒らげる。


 だがその体勢は逃げ腰になっているのを、スヴェール大統領は見逃さなかった。




「じゃからその程度の警備兵では、足らぬと言ったのじゃ。『(はく)(ぎん)の魔獣』と、『暗殺者を殲滅せし者(アサシンスレイヤー)』アディ・アーレイトじゃぞ? 剣を持っているなら、この大統領府内の全ての兵を持ってしても、取り押さえることは叶わぬ」


 呆れたように、大統領は告げた。


 孫娘とその護衛の恐ろしい戦闘力は、しっかり把握しているのだ。


 得体のしれない(じゅつ)を使う賢紀のことも、(あなど)らずに警戒している。




 エリーゼは、少々眉をひそめた。


 祖父である大統領が、自分の嫌いな二つ名を出したからだ。

 

 彼女はシャープなデザインの長剣を、カキンと(さや)に納めた。


 そして笑顔を作りつつ、議員達がいるテーブルの(ほう)へ向き直る。




「失礼しました。突然のことに驚いて、思わず手が出てしまいましたの」


 全然驚いていたようには見えなかったが、エリーゼはうそぶいた。




「リーフ議員の(おっしゃ)ることは、ごもっともです。私達を受け入れることには、大きなリスクを(ともな)うことでしょう。……ところでさっきリーフ議員は私達のことを、『何の利益もない。害をもたらすだけ』と評されていましたよね?」


 そう言ってエリーゼは、リーフ議員に(いた)(ずら)っぽく(ほほ)()む。



「実は私達、共和国の皆様に()()()を持ってきておりますの。リースディア帝国の方々からの、頂きものなのですけれども……」




 会議室内の空気が、(いっ)(しゅん)にして凍りついた。




 お土産?


 ()()()()()()()()()


 共和国議員達の胸中に、暗雲が立ち込める。




「隣にいる私の協力者、ケンキ・ヤスカワは特殊な魔法を使えまして。さっきの剣も、ヤスカワの魔法で取り出したものです。お土産は少しばかり()()()()()なので、ヤスカワの魔法で収納しておりますの」




 もう確定だ。




 聡明な頭脳を持つ共和国議員達は、悟ってしまった。


 ルータス領内におけるマシンゴーレム失踪事件は、コイツらの仕業だと。


 ひょっとしたら、帝国兵の死体が握っていたというドワーフの(つの)もコイツらが――




 大統領も含め、議員達は全員頭を抱えた。


 こうなっては、帝国との開戦を避けることは難しいだろう。


 エリーゼ達の持ち込んだお土産は、確かに共和国に利益をもたらすかもしれない。


 だが同時に、怒れる帝国軍を呼び寄せる危険な存在だった。




 スヴェール大統領はしばしの(しゅん)(じゅん)(のち)、議員達に告げた。






「マシンゴーレム開発に乗り出している会社の、重役達を集めろ。『でっかいビジネスチャンスをくれてやる』と言ってな」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作に頂いた、イラストやファンアートの置き場
解ゴー FAギャラリー

他の作者さんが書いた異世界ロボットものとのコラボ作品
スーパーなろうロボット小説大戦~天涯のアルヴァリス×解放のゴーレム使い~

本作のラスボスが、生まれ変わって主人公になる異世界転生自動車レースもの
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

世界樹や戦女神リースディースなど、本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ