閑話1 この世界の大いなる謎~考え過ぎですか?~
「さーて。それじゃ、アディとの再会を祝して……かんぱーい!」
ルーフ山脈中継基地を壊滅させた、安川賢紀達。
彼らは現在、イーグニース共和国へ向けて移動中。
日が暮れてきたので、森の中で夜営をしている。
乾杯はしたものの、敵襲の危険もあるのでアルコールはなし。
コップの中身はフルーツジュースだ。
焚き火を囲んで肉を焼き、ジュースで喉を潤す。
戦いの疲労が癒されていくのを、賢紀は感じていた。
「せっかく基地から色々かっぱらってきたんだし、日持ちの悪そうなものはガンガン食べちゃいましょう!」
「本当に、ケンキ様の能力のおかげで助かりますわ。こんなに大量の食料を持ち歩けるなんて、普通の旅ではあり得ないことです」
「ホントホント。まさに歩く貯蔵庫! 神の荷物持ち! 一家に一台【ゴーレム使い】!」
「エリーゼ……。お前は俺を、何だと思っているんだ?」
たわいない会話をしながら、皆気持ちが弾んでいた。
エリーゼ・エクシーズは基地を壊滅させ、リースディア帝国に一矢報いたこと。
アディ・アーレイトは、敬愛するエリーゼ王女と再会できたこと。
そして賢紀は7機ものマシンゴーレムとパーツを手に入れて、上機嫌になっていたのだ。
「ほらほらケンキ、もっと喜びなさいよ」
「けっこう喜んでるつもりなんだがな」
かなりハシャいでいるのに、周りにはそれが伝わらない。
相変わらず賢紀は、むっつり系男子であった。
宴が進んできた頃、賢紀はふと思いついたことを口にした。
「そういえばアディ、武器は何を使うんだ? 短剣か?」
エマルツ・トーターの短剣を奪……受け継いできたので、賢紀はそう推測する。
「短剣……というより、1番得意なのは投げナイフですわ。エマルツの短剣は、重心の位置が投擲向きではありませんの。斬り合いも、そこそこはこなせるのですが……」
「何か、飛び道具があった方がいいか? 実は【ファクトリー】の中で、こういう武器を作ってみたんだが……。使ってみるか?」
賢紀が【ファクトリー】から取り出したのは、黒光りする金属の塊――拳銃。
マシンゴーレム予備パーツの金属から、作り出したものだ。
この世界に来てから、賢紀は火薬を見ていない。
なので炸薬の代わりに、ランボルトの爆炎魔法を小型魔法陣で付与。
その爆発力で、弾丸を飛ばす仕組みを生み出した。
参考にしたのは、有名な小口径の自動拳銃。
スイスのメーカーが製造し、日本の警察も採用しているもの。
高校時代、賢紀には銃マニアの友人がいた。
その男から、内部構造までうんざりするほど教えられていたのだ。
彼のおかげで、再現が可能だった。
「こうやって、両手でしっかり構えてな……。大きな音がするから、耳を塞げ」
まずは賢紀が、試射してみる。
約15m先にある、木に向けて発砲。
すると銃弾は狙った木ではなく、2本隣の木に命中した。
賢紀は初めから、その木を狙っていたかのように誤魔化す。
「……とまあ、こんな具合だ。使ってみるか?」
拳銃を渡されたアディは、しばらく重さや重心の位置を確かめていた。
そして無造作に、木へと銃口を向ける。
片手で軽々と7連射。
7.65mmの弾丸は、正確に標的の木を貫く。
着弾痕は、直径15cmの範囲内に集中していた。
「これは便利な武器ですわね。ケンキ様、もっと威力を上げられませんの? 反動も、少し物足りませんわ」
「マジか……?」
賢紀はアディの真似をして、片手で撃ってみた。
しかし銃弾は明後日の方向に飛んで行き、発砲の反動で手がバッチリ痺れてしまったのだった。
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「さーて、水浴びしてくるわよー。ケンキ、覗いたらダメだからね」
「あいにく俺は、ユリウスみたいなロリコンじゃない。それに魔獣さんの水浴びを覗いて、バラバラにされるのはゴメンだ」
「また子供扱い&魔獣呼ばわりした~! 失礼の使徒ケンキ! 【ファクトリー】から、着替え出して!」
「わかったわかった。さっさと行ってこい。……やっぱ王族だから、アディが手伝ったりするのか?」
「いやアディはほら、なんかアブナイから」
中継基地での行動を顧みるに、エリーゼの水浴び中アディを近づけるのは危険である。
「俺がアディを見張らねば」と、決意を固める賢紀。
するとアディから、ガシッと肩を掴まれた。
「ケンキ様。今、姫様の着替えを【ファクトリー】から出しましたね?」
獣人メイドの指が、ギリギリと賢紀の肩に食い込んでくる。
【ゴーレム使い】は、デジャヴを感じていた。
「つまりケンキ様は、姫様の下着をいつでも取り出せたということ。こっそり取り出して、ハアハアしたりしていませんよね?」
アディは自分がハアハアしながら、血走った目で賢紀を睨みつけた。
「お前じゃあるまいし、そんな真似するか。だいたいこの世界の女性下着なんて、色気の欠片も無いドロワースみたいなヤツだろう? 興味ないな」
『はあ?』
エリーゼとアディは、声をハモらせて驚いた。
どうやら変なことを口走ってしまったようだと、賢紀は心の中で密かに動揺する。
「ケンキ。ドロワースなんて履いていたのは、100年以上昔の話よ。今はこういう可愛い形で、ものによってはフリルとか付いていて……」
さすがに自分のを出して、説明するわけにもいかない。
なので木の枝を使い、地面に絵を描いてみせるエリーゼ。
そこに描かれた下着は、日本で女性が身に着けているものとさほど違いがない。
近代的で、オシャレなデザインをしていた。
「地球のものと、全然変わらない……だと? 男物の方は、どうなっている?」
「え~っとね、こういう形。伸縮性のある素材でできていて、ここにソードを通す穴が……」
「ボクサーブリーフじゃないか」
賢紀は考える。
この世界の技術発展は、何かおかしい。
特定の分野だけが、歪に発展している。
人型機動兵器マシンゴーレムに、近代的な食文化。
そして現代日本のものと変わらない、進んだデザインの下着。
きっと下着の進化に、この世界の大いなる謎を解く重要な鍵が――
「あるわけないか……」
何はともあれ、異世界で下着に苦労することはなさそうだ。
そのことに、賢紀は安堵するのだった。
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ルーフ山脈中継基地を発ってから、3日後。
森の中で、野営をしていた時のことだ。
「訓練を始めるぞ! もたもたするな、クソ虫共! いいか!? マシンゴーレム乗りには、2種類の生物しかいない。クソ虫か、それ以外かだ!」
「ケンキ……。なに急に、変な言葉遣いになってるの?」
「ケンキ様、お下品ですわ。いつも通りにして下さい」
賢紀は自身のイメージする、海兵隊っぽい口調でマシンゴーレムの操縦訓練を始めようとした。
だがエリーゼとアディには、大変不評であった。
彼自身も疲れるので、いつも通りの口調に戻すことにする。
訓練とは言っても、賢紀達はリースディア帝国軍から追われている身。
マシンゴーレムを派手に動かして、発見されてはかなわない。
「そこでコイツの出番だ。作るのに、結構時間が掛かった。シ~ミュ~レ~タ~」
国民的猫型ロボットの口調。
無口無愛想な【ゴーレム使い】だが、演技やモノマネをさせるとノリノリになる特性がある。
賢紀は【ファクトリー】から、機械を取り出した。
マシンゴーレムのコックピットブロックと、操縦席を模したものだ。
「なーに? この変な機械?」
「コイツはマシンゴーレムを操縦しているような幻を見せて、実戦っぽい訓練ができる優れものだ。衝撃や遠心力も再現しているから、体力も付くぞ。……その代わり、俺の魔力をメチャクチャ喰って稼働するんだけどな」
遠心力や衝撃の再現には、ランボルトの魔道書に載っていた重力魔法が使われている。
将来的にはこれを応用。
シミュレーターとは逆に衝撃や遠心力からパイロットを守る保護機構を、マシンゴーレムに搭載したいと賢紀は考えていた。
「わっ、面白そう! それじゃ、さっそく……」
意気揚々と、シミュレーターに乗り込もうとするエリーゼ。
彼女の襟首を、賢紀が掴んで止めた。
「慌てるな。まずは座学で大まかな操縦方法、機体構造や原理を勉強してからだ。シミュレーターは操縦装置の実物を見せながら、勉強するために出しただけだ」
「えー。座学なんて、面白くなさそう」
「姫様。座学を軽視してはいけません。理屈が解っていないと、途中で成長が止まってしまうものですわ」
ブーたれるエリーゼを、アディは毅然とした態度で諭した。
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エリーゼは、早くシミュレーターを試してみたいらしい。
渋々ではあるが、真面目に賢紀の講義を受けていた。
一方のアディは――
目を開けたまま寝ていたので、賢紀がゴーレムチョップで叩き起こした。
「石のゴーレムで、か弱い乙女を殴るなんて! 永遠に寝てしまうところでしたわ!」
アディなら、それくらい大丈夫。
そう確信していた賢紀は、抗議をスルーすると決めた。
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座学を終え、ようやくシミュレーターを用いた訓練に入った。
「いや~。このシミュレーターって、面白いわね~」
「臨場感がありますわ。これなら実機を動かさなくても、良い訓練になりそうですわね」
エリーゼとアディはうっすらと汗をかきながら、爽快な気分でシミュレーターを降りてくる。
「ふっふ~ん。私達この調子で行くと、すぐケンキみたいに操縦できるようになるんじゃないの?」
「ほう。それじゃ試しに、俺と対戦してみるか?」
「よっしゃ! 望むところよ」
やる気満々でシミュレーターに乗り込んだエリーゼを、賢紀は徹底的に叩きのめした。
途中で「ギブ! ギブ!」という声が響いていたが、空耳だと断じた【ゴーレム使い】の手が緩むことはなかった。
翌日からエリーゼはシミュレーター訓練を嫌がるようになったので、賢紀とアディが2人掛かりでむりやり操縦席に押し込んだ。
「嫌がる姫様を、むりやり……。ハアハア、興奮しますわ」
不気味に興奮していたアディ。
しかしその後、賢紀と対戦したアディもシミュレーターを嫌がるようになる。
さらに次の日からは賢紀がゴーレムで2人を掴み、力づくでシミュレーターの操縦席に押し込むのが日課になった。
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「ケンキめ~。いつか絶対、マシンゴーレム戦でぶちのめす~」
「泣いて謝るまで、操縦席から降ろしませんわよ~」
エリーゼとアディは不穏な寝言を呟きながら、今夜も疲れ果てて眠るのだった。
はぁいみんな、エリーゼ・エクシーズよ。
1章を読んでくれて、ありがとうね。
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しょうがないわね。そこまで応援されちゃ、引き下がれないわ。
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